有人機であれば、操縦士が自ら状況を見て、意思決定をして機体を操るから、すべては機体の中で完結している。もっとも実際には航空管制の必要があるから、通信手段がなくても良いということにはならない。
一方、無人機は何らかの通信手段がないと始まらない。偵察用途でも最低限、データを送る手段は必要になるし、戦闘用なら交戦や兵装発射の指令を送る手段も必要になる。無人機からオペレーターに、機体の状況やセンサー情報に関する情報を送る必要もある。
本稿では、ウクライナの事例を手がかりに、無人戦闘用機における通信と航法の制約、そしてそれをどう克服しようとしているのかを解説する。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
なぜドローンは長距離通信ができないのか?見通し線と周波数の制約
空撮などに使用する小型の電動式マルチコプターであれば、見通し線圏内の通信しか行わないし、距離が短ければ高い送信出力は求められない。すると通信機材はコンパクトになるし、バッテリの消耗も抑えられると期待できる。
一方で、映像を伝送するために高い伝送能力が求められるが、これは、すなわち高い周波数の電波を使用する必要性につながる。周波数が高い電波は波長が短く、それに合わせてアンテナもコンパクトになるので、小型の機体でも搭載しやすくなる。だから、そこら辺の量販店で手に入るような電動式マルチコプターは、そんな大袈裟な通信アンテナを備えていない。
しかし、機体が大型化して航続距離が伸びて、見通し線圏外まで出掛けていくようになると事情が変わる。VHFやUHF、ないしはそれより高い周波数の無線通信は見通し線圏内でしか使用できないから、機体が地平線や水平線の向こう側まで行ってしまえば通信途絶である。
なぜウクライナのドローンは数千km攻撃できたのか?“通信手段”の実態
ウクライナが2025年6月に実施した“Spider Web”作戦では、自国から数千kmも離れたロシア国内の空軍基地にいる爆撃機まで標的にした。しかし使用したのは小型の無人機だ。もちろん航続距離は短いから、機体をコンテナに隠してロシア軍基地の近くまで運び、そこから発進させた。
ただし、MQ-1プレデターやMQ-9リーパーみたいに衛星通信を備えているわけではない。にもかかわらず、ロシア軍の爆撃機に突入する瞬間の映像が送られてきているのだから、何らかの通信手段があったことになる。それには、ロシア国内の移動体通信網を利用したと伝えられている。
無人戦闘用機の実現に際して、通信手段をどうするかが課題になることを示した分かりやすい一例、といえる作戦であろう。”Spider Web” では、うまい具合に拝借できるインフラが現地にあったが、常にそれをアテにできるわけでもない。
イランがイスラエルに向けて多数の無人機を放っているが、これは片道切符の巡航ミサイル的な運用法であり、双方向の通信手段は必須とはいえない。事前に目標地点を入力してから飛び立たせて、後は野となれ山となれ……でもなんとかなろう。
GNSSだけで航法は成り立つのか?妨害(ジャミング)の現実
ただしそれが成立するのは、機体がちゃんと自己位置を把握できているという前提あってのこと。「私は誰? ここはどこ?」では、目的地にたどり着くことはできない。
“Spider Web”でも、人工知能(AI : Artificial Intelligence)を活用した制御システムを実装して、通信が途絶しても目標に向けて自律的に飛んでいけるようにしたというが、それとて測位機能は不可欠である。大昔のオートパイロットみたいに「指示された針路を維持する」だけでは、風に流されて針路がズレても対処できない。
すると、最も安価かつ高精度な解決策はGNSS(Global Navigation Satellite System)ということになるが、それ故に妨害の手段としても真っ先に狙われる。C-UAS(Counter Unmanned Aircraft System)におけるソフトキルでは、通信手段の妨害と測位手段の妨害が二本柱である。
だいたい、ロシアがどうして近所迷惑なGNSS妨害に精を出しているのかといえば、ウクライナ軍の無人機の活動を妨げるため、という意味が大きい。電波に戸は立てられないから、近隣の非交戦国の民航機まで迷惑を被っているが、ロシアは気にしていないらしい。
なぜ低コスト無人機は成立が難しいのか?通信・航法とのトレードオフ
いわゆる“忠実な僚機” (royal wingman)、米空軍でいうところのCCA(Collaborative Combat Aircraft)みたいに大型で高級な機体なら、スペースや重量の面でも、コストの面でも、通信システムや測位・航法システムを充実させる余地があるし、そうする必然性もある。
しかし、もっと安価でシンプルな無人戦闘用機を実現しようとすれば、確実に使える通信機能と測位機能の実現が、スペースや重量の面でも、コストの面でも、面倒な課題になる可能性が高い。機能を充実させようとすれば機体は大きく、重く、高価になってしまい、数を揃えるのが難しくなる。
それに、今のテーマのお題である無人戦闘用機は「戦闘用機」だから、センサー機材だけでなく武装も積まなければならない。積みたいものがいろいろある一方で、機体は可能な限り小さく、軽く、安く作りたい。矛盾の塊である。
どんな航空機でも、相反する機能・要件の間でのトレードオフは発生するものだが、無人戦闘用機、とりわけ小型で安価な機体を目指そうとすると、そのトレードオフはシビアなものになりそうである。何を選んで何を捨てるか、どの水準で妥協するかというところで、開発者や運用者の識見が問われよう。欲張れば収拾がつかなくなる。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。

