この研究開発には京大や京が設置されている理研AICSなどの学官の研究機関、IT企業の他に11社の製薬会社が参加しており、化合物3000万種、たんぱく質631種の結合予測を各社が利用し、その中から、各社が候補化合物を絞り込んで、結合の強さの計算や、その後の毒性のチェックや動物実験などを進めていく。従来、製薬会社は秘密主義が強かったが、このような場で、協力してオープンイノベーションを行う足がかりでできてきたという。

KDDBコンソーシアムには、学、官の研究機関とIT企業のほかに、11社の製薬会社が参加している (出典:京コンピュータシンポジウムにおける奥野教授の発表スライド)

従来の開発のやり方では、基礎研究に2~3年かかり、成功率も2500分の1と低いので、約200億円の開発費がかかる。また、その後の開発には9~12年かかり、約300億円かかる。結果として、新薬が完成するまで11年~15年を必要とし、途中で開発中止となった分にかかった費用も含めると、1つの薬の開発に約500億円を要する。

これをスパコンで広汎な組み合わせをチェックして候補化合物を選び出し、高精度の結合シミュレーションで確度の高い化合物を選び出すことにより、基礎研究の成功率を1/10~1/100程度に引き上げる。結果として、基礎研究の期間は半減し、費用は数億円~数10億円に抑えられる。また、選び出した候補化合物の質が良くなることで、基礎研究以降の過程の成功率を1/2.5~1/5に改善する。

これが実現すると、新薬開発の成功率が1/20~1/300に改善し、開発費は約100億円~250億円に低減できるという目論見である。

このように新薬の開発費が減ることは製薬会社として望ましいことであるだけでなく、医療費の削減や患者数の少ない希少疾患の薬の開発もやり易くなるという効果も期待できる。

世界の新薬承認数は年間20程度であり、これらすべての新薬の開発費が250億円減ると、毎年5000億円の開発費が減ることになり、1000億円の京コンピュータの元は容易に回収できるという計算になる。