総合地震シミュレータを目指して

海洋研究開発機構(JAMSTEC)所属で、地震津波・防災研究プロジェクトのリーダーを務める金田義行氏は、総合地震シミュレータの開発について発表を行った。

総合地震シミュレータは、地震で発生する地震動や津波、それを入力として都市がどうなるかのシミュレーションを行い、浸水や建物の倒壊などの被害の予測、避難誘導のシミュレーションを連携して行い、被害を最小限に留めるための強力なツールである。

総合地震シミュレータの開発について発表するJAMSTECの金田氏

個別の地震や津波のシミュレーションは、すでに存在するが、その精度は十分とは言えず、予測精度を向上し、かつ、各種のシミュレーションを連携させて総合的なシミュレーションを可能にするというのが、このプロジェクトの目的である。

地震の予測精度の高度化の研究は東大の古村教授、津波の予測精度の高度化の研究は東北大の今村教授、都市全体の自然災害のシミュレーションの研究は東大の堀教授が担当し、全体のリーダを金田氏が務める (出典:京コンピュータシンポジウムにおける金田氏の発表スライド)

この研究では、地震の発生から、それによる地震動、津波の予測、都市まるごとシミュレーションによる浸水や建物の被害分布、さらに、避難誘導のシミュレーションと地震の全ての面で予測精度を向上することを目指す。

地震の発生から、それによる地震動、津波の予測、都市まるごとシミュレーションによる浸水や建物の被害分布、さらに、避難誘導のシミュレーションと地震のすべての面で予測精度を向上する (出典:京コンピュータシンポジウムにおける金田氏の発表スライド)

地震予測の高度化に関しては、地下構造シミュレーション、地震発生サイクルシミュレーションの結果を地震波伝播シミュレーションに入力し、京コンピュータを使った大規模並列シミュレーションで、過去の色々な地震の揺れと津波の再現を目指す。これがうまく再現できれば、将来の地震でも揺れや津波を正しく予測できると考えられる。

地下構造モデルと地震発生サイクルシミュレーションにより地震の発生を予測し、発生した地震の地震波伝播シミュレーションを行う。過去の地震の揺れと津波を再現できるレベルの高精度化が目標 (出典:京コンピュータシンポジウムにおける金田氏の発表スライド)

津波に関しては、沖合に設置した津波の観測システムなどのデータを入力として、リアルタイムで津波の高さや流れをシミュレーションで求め、避難に役立つ情報を提供することを目指す。

リアルタイムの地震、津波観測システムからのデータを使って高精度の津波予測をリアルタイムに行う (出典:京コンピュータシンポジウムにおける金田氏の発表スライド)

さらに地震動の揺れと津波の情報を入力として、都市まるごとシミュレーションを行い、浸水域や建物の倒壊などの予測を行う。そして、発生時刻に応じた場所ごとに居る人数を想定し、避難の誘導の有無などで避難行動がどう変わるかについてもシミュレーションを行う。

そして、これらのシナリオレイヤとシミュレーションレイヤ、データレイヤの入出力プロトコルを統一して、総合的に動作できるシステムを構築する。

シナリオレイヤとシミュレーションレイヤのプログラムの間でデータのやり取りを行って総合的にシミュレーションを行えるシステムを作っていく (出典:京コンピュータシンポジウムにおける金田氏の発表スライド)

同じ地震でも、防災対策によって被害が変わるし、発生時刻によっても避難の状況は変わってくる。このような総合的なシミュレーションができるようになると、これだけの防災対策をとったらとか、通勤ラッシュの時間帯に起こったらなど、各種のシナリオでシミュレーションを行って、対策の有効性や問題点を検証することができるようになる。また、地震が発生した緊急時にはデータをメモリ経由で受け渡して、各レイヤが高速で連携できるようにして、刻々と入ってくる観測データも入力として、避難誘導など、被害の低減に役立てることができるようにすることを目指している。

高い精度の予測に必要な大量の計算を短い時間で実行し、リアルタイムに対策に反映できるという京コンピュータの高性能をうまく利用するシステムである。統合地震シミュレータが本格稼動するようになれば、緊急事態が発生すると、ダークマターのシミュレーションなどは中断して、京コンピュータの全計算リソースを総合地震シミュレータに割り当てるというような運用になるのであろう。