現在、英国に本部を置き、オーストラリアと南アフリカの2カ所に方式の異なる巨大な電波干渉計を構築して、世界規模のスーパーコンピューティング・ネットワークでひとつの超高性能電波望遠鏡として稼働させる国際共同プロジェクト「SKA Observatory」(SKA望遠鏡)が進められている。2020年代末に一部の科学観測を開始し、2030年代前半にはフル稼働する予定。その実現に向け、日本もプロジェクトに参加している。

国立天文台(NAOJ)と国立情報学研究所(NII)は、SKA望遠鏡への導入に向けて共同実証を進めている超高速データ転送システム「UDTS」を、「SKA地域センターネットワーク」(SRCNet)の日本ノードに設置し、地球1周に匹敵する超長距離ネットワークを用いた大容量データ転送試験を実施。その結果、従来の転送方式と比べて数倍から数十倍高速なデータ転送が安定して行え、同ネットワークが要求する100Gbps級の国際データ転送を実現できる見通しが立ったと8月25日に共同発表した。

  • (上)今回の実証で利用されたSINET6国際回線の概要。東京-アムステルダム-ニューヨーク-ロサンゼルス-東京を結ぶ経路が利用された(出典:NII SINET6資料を基に作成) (C)2026- NII; modified by NEC (下)実証試験のネットワーク構成。名大とNAOJ 三鷹キャンパスに設置したデータ転送サーバをSINETのL2VPNで接続し、拠点間で高速データ転送が実施された (C)2026- NEC (出所:NAOJ 水沢Webサイト)

    (上)今回の実証で利用されたSINET6国際回線の概要。東京-アムステルダム-ニューヨーク-ロサンゼルス-東京を結ぶ経路が利用された(出典:NII SINET6資料を基に作成) (C)2026- NII; modified by NEC (下)実証試験のネットワーク構成。名大とNAOJ 三鷹キャンパスに設置したデータ転送サーバをSINETのL2VPNで接続し、拠点間で高速データ転送が実施された (C)2026- NEC (出所:NAOJ 水沢Webサイト)

同成果は、NAOJ 水沢VLBI観測所 SKA1サブプロジェクト(SKAJ)の山下一芳特任専門員、同・赤堀卓也准教授、名大大学院 理学研究科/名大 素粒子宇宙起源研究所の市來淨與教授、名大 情報基盤センターの嶋田創准教授、NEC/NEC Deutschland GmbHの平陽介シニアマネージャーらの共同研究チームによるもの。

SKA望遠鏡の概要と、データ基盤の課題

SKA望遠鏡は、「SKA-Low」と「SKA-Mid」の2種類で構成される。西オーストラリア州マーチソン郡で建設が進むSKA-Lowは、その名の通り低周波数帯50〜350MHzを対象とし、13万1,072本のツリー型対数周期ダイポールアンテナが、512のステーションに256基ずつ建設される。アンテナ群間の最大距離は74kmで、集光面積は41万9,000平方メートルだ。初期宇宙10億年を探査し、その構造をマッピングすることで、初期銀河の形成プロセスの解明をめざしている。

一方、南アフリカのカルー地方で建設が進むSKA-Midは、SKA-Lowの上の周波数帯350MHz〜15.4GHz(目標周波数:24GHz)を対象とし、既存のMeerKAT電波望遠鏡の直径13.5mパラボラアンテナ64基に加え、直径15mの主鏡を持つ133基の完全可動式パラボラSKAアンテナを新設し、計197基で構成。パルサーのタイミング測定や重力波の追跡、生命の痕跡の探索など、多くの分野での観測が計画されている。

現在、建設が進むSKA望遠鏡を日本の研究者コミュニティが最大限活用できるよう、建設への技術貢献、人材育成、資金調達活動を進めているプロジェクトがSKAJだ。また、SKA望遠鏡が年間約1エクサバイト(10^18バイト=1,000ペタバイト)に達する観測データを世界中の研究者へ提供するための分散型データ基盤SRCNetの開発でも、日本は重要な役割を担っている。SRCNetでは、SKA望遠鏡と各国のデータセンター間で100Gbpsのデータ転送性能を実現することが求められている。

しかし、長距離の高速ネットワークでは、ストレージ性能やCPU、ネットワーク機器の処理性能のほか、ファイアウォールなどのセキュリティ対策、大陸間光ファイバー網の経路、通信遅延など、多数の要因によって性能が制限され、実際のデータ転送速度は、回線の最大通信速度を大きく下回ることが一般的だ。

今回の実証実験の概要

そこで今回の実証実験では、名大とNAOJ 三鷹キャンパスに超高速データ転送システム「UDTS」を設置し、NIIが構築・運用する学術情報ネットワーク「SINET」の国際回線を利用してL2VPNを構築。名古屋-東京-アムステルダム-ニューヨーク-ロサンゼルス-東京-三鷹を結ぶ、通信経路の総延長が地球1周に匹敵するネットワーク環境が構成された。そして、この往復通信遅延(RTT)が400ミリ秒を超える大陸間通信環境で、SKA望遠鏡で想定される規模の大容量データ転送試験が行われた。

その結果、従来広く利用されている通信方式や、SRCNetで採用が検討されている通信方式は、ファイルサイズや同時利用者数などの条件によって性能が大きく変動し、最も良好な条件でも通信帯域を十分に活用できないことが判明。それに対し、通信方式をUDTSに変更した場合、転送ファイルのサイズや数、同時利用者数にほぼ影響されることなく、利用可能な通信帯域を最大限に近い形で活用した高速かつ安定なデータ転送が実現できることが確認された。

今回の成果は、SRCNetが要求する100Gbps級の国際データ転送性能を、UDTSが実際のシステム構成で達成できる可能性を実証したものであり、世界規模のSKAデータ基盤の実現に向けた重要な前進となる。今後は、海外のSRCNetノードとの接続試験や、SRCNet標準のファイル転送ワークフローとの統合実証を進め、SRCNetへの本格導入をめざすことにしている。

  • 名大およびNAOJ 三鷹キャンパスに設置されたNEC製UDTSサーバ。両拠点はSINETの100Gbps L2VPN回線で接続されており、これらのサーバ間で超高速データ転送試験が実施された (C)2026- NAOJ (出所:NAOJ 水沢Webサイト)

    名大およびNAOJ 三鷹キャンパスに設置されたNEC製UDTSサーバ。両拠点はSINETの100Gbps L2VPN回線で接続されており、これらのサーバ間で超高速データ転送試験が実施された (C)2026- NAOJ (出所:NAOJ 水沢Webサイト)