ヒトを含む哺乳類では、皮膚に大きな傷を負うと元の組織を完全には再生できず、修復過程でコラーゲンなどの細胞外成分が蓄積して組織が硬く置き換わる「線維化」現象による傷跡が残ってしまう。一方、両生類のイモリは傷跡をほとんど残さずに皮膚を再生できる。これまで、傷の治癒や線維化の過程には免疫反応が深く関わっていること自体は知られているものの、一度生じた線維化がどのように処理されるのかについては十分に解明されていなかった。

三重大学と筑波大学は、イモリの皮膚に生じた線維化が自然に退縮するという現象を発見し、その過程に「マクロファージ様免疫細胞」が関与する可能性が明らかになったと8月28日に共同発表した。

  • アカハライモリにおける同種皮膚移植の様子 (出所:筑波大ニュースリリースPDF)

    アカハライモリにおける同種皮膚移植の様子 (出所:筑波大ニュースリリースPDF)

同成果は、三重大 医学部 形成外科の細見謙登助教、同・成島三長教授、筑波大学 生命環境系の千葉親文教授/副学長らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本炎症・再生医学会が刊行する公式オープンアクセスジャーナル「Inflammation and Regeneration」に掲載された。

傷跡なく再生する、イモリの皮膚のナゾ

ヒトなどのほ乳類の表皮は再生して傷が塞がるが、その下の真皮にまで届く深い傷を負った場合、完全には再生されないため、傷跡や治療時の縫い跡などが残ってしまう。それに対し、イモリは傷跡をほとんど残さずに皮膚を再生することが可能だ。中でも「アカハライモリ」などのように、切断された四肢を指先まで確実に再生したり、心臓が部分的に切除されても再生したりするなど、極めて高い再生能力を持つ種も存在している。

こうした再生能力の高い生物に関する研究では、これまでヒトの皮膚で傷跡が残る主要因となる線維化を回避する仕組みが注目されてきた。線維化とは、損傷した組織を修復する過程で、コラーゲンなどの細胞外成分が蓄積して組織が硬く置き換わる現象であり、ヒトの皮膚においては、完全に退縮することが困難なため、傷跡として残り続けてしまう。

一方、イモリにおいても傷の修復過程で線維化が生じるものの、線維化部位の処理を行うことで傷跡が残らない点がヒトとは大きく異なる。しかし、どのように線維化部分の処理をしているのかは、免疫反応が関わっていることは知られていたものの、詳細は不明だった。

そこで今回の研究ではアカハライモリに対し、ヒトで行った場合は強い免疫反応が出る他個体のアカハライモリの皮膚を移植する「同種皮膚移植」を行い、移植された皮膚と周囲の組織がどのような経過をたどるのかを検証することにしたという。

今回の研究成果

ヒトで同種皮膚移植を行うと、免疫系が移植された皮膚を非自己と認識し、免疫的に強い拒絶反応を引き起こして最終的に皮膚が脱落し、傷を閉じきることができないことが知られている。しかし、アカハライモリを用いた同種皮膚移植の結果、ヒトのように移植皮膚の脱落は起きず、移植部位に留まり続けるという予想外の反応が観察された。

さらに、自家移植(自分の皮膚の移植)では見られなかった、移植部の隆起が確認されたという。組織学的観察により、移植皮膚の下に線維化が形成されていることが明らかにされ、この線維性組織が移植部を膨隆させていると推測された。加えて、皮下に形成された線維化組織は時間とともに退縮していくことも確かめられた。これにより、イモリは非自己の組織に対して線維化を起こす一方、その線維化を退縮できるという新たな可能性が見出された形だ。

続いて、同現象のメカニズムを探るため、組織再生への関与が知られている細胞群が着目された。先行研究では、再生能力を持つ有尾両生類において、「クロドロン酸リポソーム」の投与により「マクロファージ様細胞」群を減少させた際に、四肢再生が阻害されることが報告されている。これは、この細胞群が組織再生の一端を担っている可能性を示すものと考えられている。

なおマクロファージとは、体内の異物や損傷した細胞を取り込む貪食作用を持ち、さらに炎症や組織修復、線維化などを制御する免疫細胞だ。ただし、アカハライモリにおいては、遺伝子レベルでのマクロファージ様免疫細胞の明確な定義と分類が未確定な状況である。

今回の研究においてもクロドロン酸リポソームを用いて同様の細胞群を減少させたところ、同種皮膚移植に対する線維化自体は形成されたものの、その後の線維化の退縮が遅れることが観察された。この結果から、組織再生への関与が知られるこの細胞群が、形成された線維化の退縮にも関与する可能性が示唆されたことになる。

  • 同種皮膚移植後に生じる線維化とその退縮過程 (出所:筑波大ニュースリリースPDF)

    同種皮膚移植後に生じる線維化とその退縮過程 (出所:筑波大ニュースリリースPDF)

今回の研究により、イモリの組織再生と線維化退縮の双方において、同じマクロファージ様免疫細胞が関与する可能性が示された。今後の重要な課題としては、免疫細胞の働きがどのように制御されているのかを解明することが挙げられた。

近年、ほ乳類において、感覚神経が免疫細胞の動員や性質を調整することで、傷の治癒が最適化される新たなメカニズムが解明されつつある。さらに、イモリの再生力は免疫細胞だけでなく、神経に強く依存することが知られている。そのため、研究チームは現在、神経と免疫の相互作用が組織再生に果たす役割に着目した研究を進めているとしており、ヒトの傷をより正常組織に近い状態へと修復する方法の解明を目指し、今後も研究を展開していくとしている。