回路線幅が数nm(ナノメートル)以下の最先端半導体は、波長13.5nmの極端紫外(EUV)光を用いた露光装置によって製造されている。そのEUV光源には、波長10.6µm(マイクロメートル)の大出力炭酸ガスレーザーにより、スズプラズマを生成する方式が用いられている。
しかし、1MW(メガワット)を超える消費電力の大きさが課題となっており、電気-光変換効率に優れた波長2µm固体レーザーへの置き換えが期待されている。このレーザーは、EUV露光装置が必要とする出力には達しておらず、レーザーエネルギーを低減しながら高いEUV光変換効率を実現する技術が求められていた。
そうした中、理化学研究所(理研)と宇都宮大学(宇大)らでつくる国際共同研究グループが、2µm固体レーザーを用いたEUV光発生において「マルチレーザー照射法」を適用し、EUV光変換効率を2.6%から3.6%へと約40%向上させることに成功。1本当たりのレーザーエネルギーを低減させつつ、複数のレーザーを同時にEUV光発生に使用することで、高いEUV光変換効率を実証したことを、8月25日に共同発表した。
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実験装置図。1台のHo:YAG固体レーザーから出力されたビームを2本に分割し複数ビームを生成。レンズ位置を調整することで、照射ビーム数に応じて集光サイズを変え、スズ平板ターゲット位置でのレーザー強度を1.6×10^11W/cm2となるよう調整。EUV光エネルギーはEUVエネルギーメーターで、EUV光源サイズはピンホールカメラでそれぞれ測定を行っている (出所:共同ニュースリリースPDF)
同成果は、理研 光量子工学研究センター(RAP) 未踏レーザー科学研究チームの高橋 栄治チームディレクター(理研 最先端研究プラットフォーム連携事業本部 計算領域拡張プロジェクト 先端半導体技術開発 テーマリーダー兼任)、同・西宮海人 基礎科学特別研究員、宇大 工学部 基盤工学科の東口武史教授(RAP 未踏レーザー科学研究チーム 客員研究員兼任)、同・長浜直輝大学院生、同・山本隼也大学院生(RAP 未踏レーザー科学研究チーム 研修生兼任)、同・矢澤隼斗大学院生(研究当時)、同・髙井悠太大学院生、同・田中千智大学院生(RAP 未踏レーザー科学研究チーム 客員研究員兼任)、東京大学大学院 工学系研究科の坂上和之准教授、米・パデュー大学 極端環境物質センターの砂原淳研究員、アイルランド国立大学ダブリン校のジェリー・オサリバン教授、広島大学大学院 先進理工系科学研究科の難波愼一教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、Optica(旧・米国光学会)が刊行する、光学とフォトニクス分野を扱う速報論文誌「Optics Letters」に掲載された。
先端半導体開発にかかる電力消費問題
先端半導体の開発において、回路パターンをさらに微細化するには、より高出力なEUV光源が必要となる。しかし、これ以上の消費電力の増大は、さらなる半導体製造コストの上昇を招き、環境にも大きな負荷をかけることになる。実際、大手TSMCの消費電力は、台湾全体の1割に迫ると報じられており、すでに問題が顕在化しつつある。
現在、2µm固体レーザーの開発が進められているが、EUV露光装置が必要とするレーザーエネルギーの実現は容易ではなく、実用化のメドが立っていなかった。そのため研究チームは今回、複数の2µm固体レーザーを同時に照射してスズプラズマを生成することでレーザーからEUV光への変換効率を高め、各レーザーに必要なエネルギーを低減するという新たなアプローチで挑むことにしたという。
今回の研究成果
実験では、真空容器内に設置されたスズ金属の平板ターゲットに、2µm帯Ho:YAG(ホルミウム添加イットリウム・アルミニウム・ガーネット)固体レーザー(波長2090nm、パルス幅20ns、繰り返し周波数1kHz)を集光照射することでプラズマを生成し、EUV光のスペクトル、EUV光変換効率、光源イメージ、高速イオンなどの観測が行われた。
まず、単一レーザー照射条件において、EUV光変換効率が最大となるレーザー強度(レーザー総エネルギー40mJ、入射角0度)が調べられた。その結果、約1.6×10^11W/cm2のレーザー集光条件において最大変換効率として2.6%を得たという。また、放射流体シミュレーションを用いてプラズマ温度や発光スペクトルを計算したところ、実験結果と一致することも確認された。
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レーザー強度とEUV光変換効率およびスペクトル純度の関係。約1.6×10^11W/cm2の単一レーザー強度で、最大EUV光変換効率2.6%が得られた。スペクトル純度は最大8%に達し、帯域外発光が強く抑制されることが示されている (出所:共同ニュースリリースPDF)
次に、単一レーザー照射条件を基準として、複数レーザー照射下におけるEUV光発生特性が調べられた。総レーザーエネルギー40mJを2本のレーザー(20mJ+20mJ、入射角±30度)に分岐し、それぞれのレーザー強度を最適値に保ったまま、スズ平板ターゲットへの同時照射が実施された。単一レーザー条件と総レーザーエネルギーは同一で、レーザー本数だけが異なる条件でEUV光発生の特性が比較されたところ、EUV光変換効率が2.6%から3.6%へと、約40%の効率向上が達成された。これは、スズ平板ターゲットを用いた2µm固体レーザーEUV光源として世界最高レベルの変換効率だという。
さらに、EUV光エネルギーを測定したところ、2本のレーザーでは時間波形の時間積分値が増加することが判明した。この結果は、レーザーで加熱されるプラズマ領域が広がることでプラズマの冷却が抑えられ、EUV光が多く放射されたことを示しているとした。
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2本のレーザービーム照射でエネルギーメーターに記録されたEUV発光信号。1ビームの場合と比較して、2ビーム照射では、時間波形の時間積分値が増加することが観測された (出所:共同ニュースリリースPDF)
また、EUVピンホールカメラによる観測では、EUV光源サイズは単一レーザー照射時と複数レーザー照射時のどちらも約60〜70µmであり、ほぼ変化していないことが明らかにされた。つまり、今回の手法では光源サイズを拡大することなくEUV光変換効率のみを向上できることが示されたことになる。さらに、この光源サイズは、将来の投影光学系の開口数を高めた高NA/Hyper-NA EUV露光装置で要求される約100µm以下という条件も満たしているとした。
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総照射レーザーエネルギー40mJで、レーザービーム数を変化させたEUV光の発生部。(a)1ビーム(40mJ/パルス、スポット径40μm)、(b)2ビーム(20mJ/パルス、スポット径30μm)を±30度の入射角で照射。集光レンズの焦点位置と焦点スポット径を調整することで、各レーザーの強度が1.6×10^11W/cm2に保たれている (出所:共同ニュースリリースPDF)
今回の研究により、低出力の複数レーザービームを照射することでEUV光変換効率を高めるという新しい設計指針が示された。今後は、2µm固体レーザーの本数の最適化や、EUV露光装置内で用いられている液滴状スズターゲットにおける実証を進めることで、実際の装置への応用が期待されるという。また、電気-光変換効率の高い2µm固体レーザーの使用は、EUV露光装置全体の消費電力低減につながる可能性がある。
こうした成果は、先端半導体の持続的な発展や、日本の半導体分野における国際競争力の強化にも寄与することが期待されるとしている。
