日立製作所は「HMAX by Hitachi」のラインアップを拡充する。ドメイン対応型ソリューション群に「HMAX Data Center」を新たに追加したほか、HMAXでは初となる共通ソリューション群として「HMAX Cyber」「HMAX Data Fabric」「HMAX AI Operations」を発表。8つのHMAXソリューションを揃えた。さらに、エンジニアリングサービスとして、「Physical AI FDE」を発表した。
日立「HMAX」とは? AIとデータ、ドメイン知識で社会インフラを変革
HMAXは、AIとデータに日立のドメインナレッジを掛け合わせることで、社会インフラが抱える複雑な課題を解決する。顧客と社会に最大の成果と価値を提供する次世代ソリューション群と位置づけている。
これまでに、ドメイン対応型ソリューションとして「HMAX Mobility」「HMAX Energy」「HMAX Industry」「HMAX Finance」を提供し、事業初年度となる2025年度には売上高3000億円、利益率は20%超を達成した。2026年度には、売上高5000億円、利益率22%を見込んでいる。
日立製作所 HMAX戦略統括室長 全社CLBO兼事業主管AI戦略担当の黒川亮氏は「HMAXは、業界を超えた新たな価値の創出に向け、進化を続けており、その全体像は日々変化している。日立が持つ自社技術やドメインナレッジと、NVIDIAをはじめとした世界最高峰のAIエコシステムパートナーとの協業によって、進化を遂げることになる。日立は、『世界一のフィジカルAIの使い手』として、HMAXを提案していく」と述べている。
また、黒川氏は「HMAXは統合されたインタフェースとシングルサインオンで経営層や現場の従業員に加え、AIエージェントやロボットも利用できる『プレゼン層』、社内外のデータを融合して最適なサービスを実現するとともに安全性を提供する『データファブリック層』、現場のデータを収集し、既存システムやエッジコンピューティング、データセンターなどに受け渡す『物理層』という、シンプルな三層構造としている。チャネル統合、データレイク化、モダナイゼーションなどの課題をHMAXで一気に解決する。また、これらの三層をサイバー攻撃からの防御をはじめ、安全に運用する必要があるため、HMAX Cyberなどを提供するとともに、Physical AI FDE(Forward Deployed Engineer)が顧客に伴走する」と説明した。
「HMAX Data Center」で電力・IT・冷却設備を統合管理
日立が新たなドメイン対応型ソリューションとして発表した「HMAX Data Center」は、データセンターを支えるインフラの自律運用や保守、全体最適化までをワンストップで提供するソリューション群と位置づけている。日立グループの設備運用ナレッジと、フィジカルAIを組み合わせることで、さまざまなベンダーの電力、IT、冷却設備の統合監視のほか、設備をまたいだ障害の相関分析、対策、運用改善までを伴走支援して、持続可能なデータセンターの実現に貢献するという。
日立製作所 HMAX Data Center担当 DC&アドバンスドサービス推進本部長の尾崎慎一氏は「日立は日本国内で電力事業者、通信事業者と連携し、ミッションクリティカルな社会インフラを提供してきた知見がある。また、HARC(Hitachi Application Reliability Centers)を通じて、80以上のお客さまのクラウド運用において、30%の運用費低減を実現した実績を持つ。さらに、日立グループ内では、30年以上に渡ってデータセンターを運営してきた知見を蓄積している」と話す。
そのうえで、尾崎氏は「HMAX Data Centerは、データセンター内のインフラ設備を横断してデータを収集、監視するとともに、AIを活用した障害分析を行い、継続的な運用改善も行う。1つのシステムとして構成し、最適化の価値を提供する。日立のシステムだけが対象ではなく、他社の設備を含めて統合管理ができる。変化が激しい時代のデータセンター運営において、運用コストの最適化、人財依存リスクの低減、スケール対応力の向上などを図ることができる」とした。
HMAX Data Centerの第1弾として「HARC for Data Center」を提供。日立の運用・保守スペシャリストが、顧客と連携しながら、HARCのノウハウと実績を基盤とした統合運用プラットフォームを活用し、運用品質の向上を支援するという。また、日立グループ自らが、カスタマーゼロとして、HMAX Data Centerの効果を検証している事例も紹介した。
HARC for Data Centerは主に3つの特徴を備えている。「設備容量管理の最適化」では設備の実効余力を可視化し、安全に販売可能な容量を算出し、未使用容量の活用による収益拡大を支援する。
「HARCによる運用効率向上」についてはデータセンターのIT、設備、電力、冷却などをSRE(Site Reliability Engineering:サイト信頼性エンジニアリング)による手法やプロセスを用いて統合運用を行い、運用効率の向上やコスト最適化の支援、OTセキュリティの可視化、対策を行う。そして「KPI可視化」に関しては、KPIの集計および可視化を自動化し、レポート作成の作業工数の低減、非効率箇所の特定で作業効率の最適化を図るという。
「HMAX Cyber」でAI時代のサイバー攻撃に備える
一方、HMAXとしては初となる共通ソリューション群も発表した。HMAXにおけるフィジカルAIの活用シーンへの対応にとどまらず、異なるドメインや環境を超えて既存システムを統合し、横断的に支えることができる共通ソリューションと位置づけている。
まず、HMAX Cyberは高度化するサイバー攻撃から、顧客のシステムを守り、事業継続を支援するオペレーショナルレジリエンスサービスとなる。Anthropic、OpenAI、Google Cloudなどとの連携で得られるフロンティアAIの活用に関する知見と、鉄道、電力、産業などグローバル規模での社会インフラ現場で培ってきた日立が持つ運用・防御の実践知、GlobalLogicの経験値を融合し、AI時代の企業の事業継続を支える。
潜在的なリスクを見通し備える「Govern & Identify」、24時間365日の監視および運用を支援する「Manage」、有事の早期復旧を行う「Recover」を提供する。
日立製作所 HMAX Cyber担当 Head of Cyber CoEの小岩博明氏は「以前は脆弱性が発見されてから、攻撃が開始されるまでに時間的猶予があったが、現在は数時間、来年以降には1分以下に短縮され、さらには脆弱性が公表される前に悪用が始まる可能性がある。AI時代に求められるのは、マシンスピードでの対応であり、言い換えれば攻撃前提の社会インフラに作り変えていく必要がある。かすり傷を負っても立って歩き、事業を継続することを優先すべき時代に入ってきた。いまはその転換点にある」と指摘する。
そして、小岩氏は「リスクを見通して、リスクを最小化すること、専門家に任せて止めずに守り、素早く復旧して影響を最小限にすることが重要になる。日立は、これまで個別で価値を提供してきたが、社会インフラの現場で培った実践知を融合して、レジリエンスを社会に実装していく」と述べた。
鉄道事業を行っている日立レールでは、世界5拠点のSOC(Security Operation Center)がIT・OTを横断した8万台のデバイスを対象に24時間365日の監視を行っているという。ここではGoogle Cloudとの協業を進めている。
また、日立製作所では「Claude Mythos」を利用した大規模ソフトウェアの脆弱性検証を実施しており、得られた知見をHMAX Cyberを通じて顧客に提供し、セキュリティ強化につなげる考えも示した。
日立製作所 HMAX Cyber 筆頭White Hackerの青山桃子氏は「日立製作所はProject Glasswingに参画し、社会インフラ向け大規模ソフトウェアでの検証を実施した。その結果、人が見つけられなかった脆弱性を発見し、その取り組みを高速・高度化できると考えた。お客さま環境での判断を支援し、確実なセキュリティ強化につなげることができる。これを実装するために、日米欧において、100人規模のCyber FADC(Frontier AI Deployment Center)を設置しており、今後は人員規模を拡大していく」との見通しを述べた。
「HMAX Data Fabric」で熟練者の暗黙知をAI活用
そのほかの共通ソリューション群としては、HMAX Data FabricとHMAX AI Operationsを発表。
HMAX Data Fabricは、現場で得られる多様なデータと熟練者の暗黙知を、オントロジーに基づいて体系化し、AIが理解・活用できる知識資産として蓄積・共有するデータ基盤。AI Readyなデータを提供することで、ロボットや設備を制御するAIモデルの学習や、AIエージェントを開発、運用する環境とのシームレスな接続と連携を可能にする。
また、IT、OT、プロダクトの専門知識を有するPhysical AI FDEが顧客の現場に入り、現場知の抽出からオントロジーの構築、HMAX Data Fabricへの蓄積、AIの活用を行えるように支援する。
日立製作所 HMAX事業推進室長 HMAX Data Fabric兼HMAX AI Operation担当 マネージド&プラットフォームサービス事業部長の佐佐木秀貴氏は「データプラットフォームサービスに加えて、Physical AIの開発・運用・環境提供サービスも提供する。お客さまの状況に合わせて、コンサルティングから構築、運用までのサービスを提供する。AIでデータを現場の価値に変え、そこで生まれたノウハウを、再びHMAX Data Fabricに蓄積し、知識を循環させることで、継続的な価値の向上を実現する」と説く。
日立プラントサービスでは、熟練者のプラント設計や保守に関する知見をHMAX Data Fabricに蓄積し、メタバース上のAIエージェントを通じて継承する取り組みを進めている。日立ハイテクでは、リチウムイオンバッテリーで材料・製造ナレッジを活用し、試作物の計測データから有望な試作条件を提示。試作回数を削減して、早期の量産化につなげたという。
「HMAX AI Operations」でAIエージェントを安全に運用
HMAX AI Operationsでは、AIモデルの性能監視および高度なセキュリティ監視などにより、制御・監視を行い、AIの安全な自律運用を支える。企業がAIエージェントを本番環境で安全・効果的に活用するための「HARC for AI」のほか、「AIエージェント管理システム」「オペレーションズAIエージェント」で構成される。
パフォーマンスやガバナンス、セキュリティ、コストなどの継続的な観測と改善を実施。さらに、日立社内における多数のAIエージェントの開発・活用や、独自の生成AI基盤の運用ノウハウをもとに、導入後も変化し続けるデータの欠損やノイズによる影響、脅威の変化などに対応する。
データガバナンスの維持やアクセス制御、監査などを継続的に実施していく。また、AI特有のリスクやハルシネーションを低減するとともに、適切なセキュリティポリシーで、AIモデルを現場に導入・運用し、継続的に進化させる。
佐佐木氏は「日立はリアルなOTの知見を蓄積しているだけでなく、鉄道、電力、産業の領域において116年以上にわたり、絶対に止めない社会インフラの運用ノウハウがある。そして、グローバルパートナーとのAIエコシステムも活用できる。これらの体制により、AIの挙動を監視し、不適切な挙動を抑止し、ミッションクリティカルな社会インフラの現場で、安全で止まらないAI活用を実現する」と意気込みを示した。
日立グループでは、社内AI環境である「Effibot Connect」の運用において、HMAX AI Operationsを活用。29万人のグループ社員が利用するAI環境において、ガバナンスと運用を統合管理し、継続的な監視と改善で安全な運用を実現している。使われていないAIエージェントの放置を抑止する用途にも利用しているという。
「Physical AI FDE」がフィジカルAIの導入・運用に伴走
日立製作所では、Physical AI FDEサービスの提供も開始する。ITとOTをAIでつなぐ専門家チーム「Physical AI FDE Team」がフィジカルAIの技術を用いて、新たな価値をもたらすための伴走サービスと位置づけている。
日立製作所 HMAX & AI推進センター 本部長 Deputy Head of AI CoEの吉田順氏は「AIとIT、OT、プロダクトを理解していないと、フィジカルAIの価値を出しにくい。日立のPhysical AI FDEサービスは、ドメイン知識とモノづくりの実績がある点が差別化のポイント。さまざまな知識を持った専門家がチームとなって対応する。FADCにより、グローバルパートナーとの連携を通じた最新テクノロジーを『武器』として前線に供給し、HMAXとシームレスに組み合わせて提供することができる」とした。
また、日立製作所では、フィジカルAIに関する協創施設を開設。フィジカルAI体験スタジオ、Automation Square HANEDA/KYOTO、日立ビルソリューション-ラボを国内に設置しているほか、米国にはHitachi Hagerstown Factoryを設置していることにも触れていた。















