この半導体ニュースのまとめ
・キオクシアがAI用途に応じてXL-FLASH、TLC、QLCを使い分ける技術戦略を説明
・CXLメモリモジュールでDRAM容量を拡張し、GPシリーズでGPU近接処理に対応
・大容量のLCシリーズ、高性能のCMシリーズを含め、用途別にSSDを展開
キオクシアは9月3日、米国で開催されたメモリとストレージ技術に関する世界最大の国際イベント「FMS 2026(The Future of Memory and Storage 2026)」における発表内容を踏まえた技術説明会を開催。低レイテンシ・高耐久性を特徴とする「XL-FLASH」から、大容量化に適したQLCまでを使い分け、DRAMの容量拡張や大規模データの取り込み、学習・推論、GPU近接ストレージなど、AIのユースケースごとに適した製品を展開していく方針を示した。
生成AIは、限られた利用者によるテキストを生成する段階から、画像、音声、動画を扱うマルチモーダル化を経て、複数のAIが相互にタスクを実行するエージェンティックAIの段階へと移りつつある。こうしたAIの進化に伴って、AIが生成・処理・保存するデータ量も増加を続けている。
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DRAMとフラッシュメモリの市場見通し。キオクシアによると、2026年時点における1チップ当たりの最大容量はDRAMが32Gビット、フラッシュメモリが2Tビットで、AIシステムが扱うデータの増加に対してフラッシュメモリを活用する余地が広がっているという (出所:キオクシア)
そうした変化により、AIインフラがNANDフラッシュメモリに求める特性も一様ではなくなってきたという。長期保存では容量とコスト、大規模データの取り込みでは容量と読み出し性能、学習・推論では帯域幅と耐久性、GPUへ直接データを供給する用途では低レイテンシと細粒度アクセスが重要になる。
キオクシアは、こうした用途の違いに対し、低レイテンシ・高耐久性のXL-FLASH、性能と容量のバランスを重視したTLC、大容量化に適したQLCを使い分ける形で対応を目指すという。NANDフラッシュメモリそのものからコントローラ、SSDまでを垂直統合で開発し、それぞれのユースケースに適した製品として提供する考えだ。
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エージェンティックAIの成長に対してキオクシアが示したフラッシュメモリの2つの役割。DRAMの容量課題に対するメモリ拡張と、性能や容量の向上が求められるSSDの進化という2つの方向からAIシステムを支える (出所:キオクシア)
XL-FLASHをDRAM容量の拡張に活用
AIシステム内のデータは、すべてが同じ頻度で利用されるわけではなく、一般的には全データの上位20%にアクセスの約80%が集中し、残るデータへのアクセス頻度は低いとされる。
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データのアクセス頻度に応じてDRAMとフラッシュメモリを使い分ける考え方。アクセスが集中する高頻度データをDRAMに残し、利用頻度の低いデータをメモリアクセス可能なフラッシュメモリへ移すことで、コストを抑えながら実効メモリ容量を拡張する (出所:キオクシア)
こうした低頻度データまで高騰が続くDRAMに置いておくと必要なDRAM容量が増していくことに伴い、一時保管コストが増していくこととなる。しかし、だからといってSSDへ退避させると、必要になった際にDRAMへ読み戻す処理が発生することとなりシステム性能が低下してしまうというのがこれまでのAIシステムのジレンマであった。
XL-FLASH技術は、そうした課題を解決することを目指して同社が開発しているフラッシュメモリ技術。DRAMまで高速ではないが、SSDまで低速ではない、いわゆるDRAMとSSDの中間レイヤのストレージクラスメモリ(SCM)に位置づけられる存在である。頻繁に利用するデータをDRAMに残しつつ、アクセス頻度の低いデータをXL-FLASHへ移すことで、コストを抑えつつ、性能低下も抑えることを狙う。その実現に向けて開発されたのが、第2世代XL-FLASHを搭載するCXL対応メモリ拡張モジュール(CXLメモリモジュール)「KIOXIA XL1シリーズ」である。
第2世代XL-FLASHは第5世代BiCS FLASHをベースに開発したもので、MLCを基本構成としながらSLCとしても利用できる。SLC動作時には5μs以下のリードレイテンシと15万~25万回の書き換え耐久性を実現する。
NANDフラッシュメモリは、セルに蓄えた電圧の高さでデータを識別する。SLCは0と1に相当する2段階(0/1)の電圧状態を判別すればよいが、MLCでは4段階(00/01/10/11)、TLCでは8段階(000~111)の判別が必要になる。多値化するほどセル当たりの容量を増やせる一方、電圧状態の判別精度を高める必要があり、結果としてその処理に時間がかかり、リードレイテンシが長くなる。第2世代XL-FLASHをMLCで利用した場合は、SLC動作時より2~3μs程度遅くなるという。
専用コントローラでテールレイテンシを抑制
XL-FLASH単体で読み出しを高速化しても、書き込みや消去の実行中に読み出し要求が入ると、待ち時間が100μsを超える場合がある。こうしたテールレイテンシも、NANDフラッシュをメインメモリの拡張に利用する際の障壁となっていた。
XL1シリーズでは、専用コントローラによって書き込み・消去中に発生する待ち時間を隠し、CPUからメモリセマンティクスでアクセスできるようにした。これにより、10μs以下のリードレイテンシを安定して実現し、従来方式との比較でレイテンシを90%以上改善できるシミュレーション結果を得たとしている。
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XL-FLASHと専用コントローラを組み合わせたCXLメモリモジュールの構成。書き込み・消去時の待ち時間を抑制する機能とCXLインタフェースを採用することで、10μs以下のリードレイテンシとCPUからのメモリアクセスを可能にする (出所:キオクシア)
またエミュレータを用いた実験では、DRAMに置いていたデータの33%をXL1シリーズへ移しても、DRAMのみ225GBの構成に対して148GBのDRAM+XL-FLASH77GBの構成で95%超の性能を維持できることが実証されたとするほか、同程度のコストで構成を最適化した場合では、実効メモリ容量を2倍に拡張できるほか、容量不足によるSSDへのスワップが抑えられることで、アプリケーション性能も1.3倍に高めることができることが示されたとする。
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XL-FLASH搭載CXLメモリモジュールの導入効果。DRAM上のデータの33%を同モジュールへ移した場合でも95%超の性能を維持でき、同程度のコストで構成を最適化した場合には容量2倍、アプリケーション性能1.3倍を実現できるとしている (出所:キオクシア)
XL1シリーズは今後、ハイパースケーラーを含む顧客やパートナーのシステムで近日中にも評価を進める予定だとしている。量産時期は顧客の評価・認定に応じて決定し、将来は第3世代XL-FLASHも採用する計画としている。
第3世代XL-FLASHはCBA技術で高性能化
第3世代XL-FLASHは、第5世代BiCS FLASHを基礎としながら、第9世代や第10世代BiCS FLASHで活用されているCBA技術や高速インタフェース技術を取り入れて性能を高めたものとなるという。
CBAはメモリセルアレイと周辺回路を別々のウェハに形成し、双方を貼り合わせる技術。セルと周辺回路を個別に最適化できるため、メモリセルの信頼性を維持しながら、データ転送速度や電力効率を向上できる。
第3世代XL-FLASHは、データレートは4.8Gbpsで、第2世代比で読み出し性能を200%、書き込み性能を150%に高めるほか、読み出し電力効率を40%、書き込み電力効率を80%改善することを目指す。
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開発中の第3世代XL-FLASHと第10世代BiCS FLASH QLCの目標性能。第3世代XL-FLASHは第2世代比で読み出し性能2倍、書き込み性能1.5倍を目指し、第10世代QLCは大容量化と電力効率の向上を進める (出所:キオクシア)
その後の世代についても、低レイテンシを最優先する方向性で開発を進めていく予定で、SLCを活用しつつ、MLCでも性能向上を果たすことで低レイテンシ化を進め、容量の増加なども検討をしていくとする。ただし、TLCやQLCの活用は、レイテンシの改善がそこまでたどり着いていないため、現時点での見通しでは活用できるにしても相当先を見据えた話になりそうである。
AI向けSSD市場は4方向に拡大
AI市場では、モデルを構築する学習から、モデルをサービスとして利用する推論へ投資の重点が移りつつある。
画像や音声、テキストなどをAIで処理するには、データを小さな単位に分割してトークン化し、特徴を表す数値情報やインデックスを付加する必要がある。この結果、AIが処理するデータセットが元のデータの100倍から1000倍に拡大する可能性もあるという。
キオクシアでは、AIが生み出すSSD需要を「アーカイブ」「大規模データ取り込み」「学習・推論」「NVIDIA Storage-Next」の4つに分類している。
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キオクシアが示したAI向けSSDの4つの進化方向。超大容量のアーカイブ、大容量と読み出し性能を両立するデータ取り込み、高性能・高耐久性が求められる学習・推論、低レイテンシと細粒度アクセスを重視するNVIDIA Storage-Nextに分類している (出所:キオクシア)
アーカイブ用途には大容量QLCを用いたニアラインSSD、大規模データ取り込みには「KIOXIA LCシリーズ」、学習・推論とコンテキストキャッシングには「KIOXIA CMシリーズ」、GPU近傍での細粒度アクセスには「KIOXIA GPシリーズ」を展開する。
最大245.76TBのLC9で大規模データを格納
アーカイブ用途では、HDDも大容量化が続く一方、容量当たりの性能向上が追い付かず、テラバイト当たりの性能密度が低下している。
キオクシアは、設置面積、消費電力、読み出し性能を含む総所有コストの観点から、大容量SSDがニアラインHDDを置き換える機会が生まれるとみている。
大規模データ取り込み向けにすでに量産出荷している「KIOXIA LC9シリーズ」は、第8世代BiCS FLASHの2TビットQLC品を32枚積層したパッケージを採用し、2.5インチおよびE3.Lフォームファクタで最大245.76TBの容量を実現した。
Dell PowerEdge R7725xdに搭載した構成では、2Uサイズで9.8PBのストレージ容量を確保できる。AI向けデータ取り込み、オブジェクトストレージ、データレイク、ベクトルデータベースなどへの適用を想定している。
CMシリーズで学習・推論とコンテキストキャッシュに対応
学習・推論向けには、PCIe 6.0対応エンタープライズSSD「KIOXIA CM10シリーズ」を限定顧客向けにサンプル出荷している。
CM10シリーズは第10世代BiCS FLASHを採用し、前世代のCM9シリーズ比でシーケンシャルリード性能を最大約92%、ランダムリード性能を最大約85%向上させた。また、空冷に加えて直接液冷にも対応し、NVIDIAのVera Rubinなど液冷を前提とするAIシステムへの対応も可能とした。
AI推論で注目されるSSDの用途の1つがコンテキストキャッシングである。GPUが過去に計算したトークンの結果をSSDへ保存し、同じ処理が必要になった際に再計算せず再利用することで、GPUに再び同じ計算を行いトークンを生成しなおすことなく、新たなトークン生成へ振り向けることでGPUの利用効率を向上させられるようになる。
キオクシアが示した試算では、SSDによるKVキャッシュを追加し、HBM+DRAM+SSD構成とすることで、コストは約10%、消費電力は2~3%増えるだけで、1秒あたりのトークン生成数を約5倍に高められるという。これは、トークンファクトリとして、従来は5台のGPUで処理していたものを1台のGPUで済ませられることを意味し、同社ではゲームチェンジャーになるとの考えを見せている。
コンテキストキャッシング向けには、NVIDIA CMX対応の直接液冷仕様の「CM9シリーズ」を製品化している。今後はPCIe 6.0対応のCM10シリーズも同用途へ展開し、2027年の量産開始を目指すとしている。
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NVIDIA CMXのコンテキストキャッシュ用途に向けた「KIOXIA CM9シリーズ」。第8世代BiCS FLASHを採用し、最大25.6TB、3DWPDの耐久性を備えるほか、空冷と直接液冷に対応する (出所:キオクシア)
1000万IOPSのGP1でGPUへ直接データを供給
より低レイテンシが求められるGPU近接ストレージ向けには、Super High IOPS SSD「KIOXIA GP1シリーズ」を開発した。
GP1シリーズは第2世代XL-FLASH、PCIe 6.0、NVMe 2.2を採用し、512バイト単位のランダムリードで最大1000万IOPSを実現する。NVIDIAがStorage-Nextの枠組みで推進するSCADAを介して、GPUからSSDへ直接アクセスすることを想定している。
ただしGP1シリーズはHBMの代替ではなく、HBMやDRAMに収まりきらない大規模データをSSDに置き、GPUが必要とするデータを必要なタイミングで供給することで、メモリ容量の制約によるGPUの待ち時間を抑える役割を担うという位置づけの存在となる。
FMS 2026では、開催約1週間前にデモ機の稼働を確認できたことから、急きょ1000万IOPSの実機デモを実施したという。そうした取り組みもあり、同シリーズはFMS 2026においてSpecialized Storage部門の「Best of Show Award」を受賞している。
第1弾は800GBのSLC品と1600GBのMLC品を検討しており、E1.SとE3.Sのフォームファクタを用意する。消費電力は25W未満で、限定顧客向けの評価用サンプルを2026年末までに出荷する予定。量産時期は、顧客と適用するユースケースを確認したうえで決定する。
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KIOXIA GPシリーズの開発ロードマップ。第2世代XL-FLASHとPCIe 6.0を採用するGP1シリーズで1000万IOPSを実現し、2028年を目標に第3世代XL-FLASHとPCIe 7.0による1億IOPS超を目指す (出所:キオクシア)
さらに、第3世代XL-FLASHとPCIe 7.0を用いて最大1億IOPS超を目指す次世代GPシリーズも開発している。実現時期はNVIDIAのプラットフォームやSCADAの展開計画に合わせる形で2028年を目標としている。
NANDの電力効率でSSD性能の上限を引き上げ
SSDの性能向上では、PCIeの帯域幅だけでなく、フォームファクタごとに定められた電力上限が制約となる。
SSDの消費電力の半分以上をNANDフラッシュメモリが占めるため、シーケンシャルライトではPCIeの世代が進んでも、インタフェース帯域を使い切ることが難しい。PCIe 7.0世代では、AI用途で重要になるランダムリード性能も電力上限に制約される可能性があるという。
第10世代BiCS FLASHの1TビットTLC品は、332層化と平面方向の高密度化によって、第8世代比でビット密度を59%向上。読み出し電力効率を40%、書き込み電力効率を30%改善した。
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第10世代BiCS FLASHと改良版インタフェースチップによる電力効率向上。第8世代比でビット密度を59%高め、NAND単体の読み出し電力効率を40%、書き込み電力効率を30%改善。パッケージでは最大4TBの容量を実現する計画 (出所:キオクシア)
改良したインタフェースチップと組み合わせたパッケージでは、パッケージ当たり最大4TBの容量を実現しながら、読み出し電力効率を第8世代ベースのパッケージ比で100%、書き込み電力効率を40%改善することを可能とする。限られたSSDの電力枠内でNANDの並列動作数を増やし、PCIe 7.0のランダムリード性能を飽和させることを目指すという。
容量だけでなく用途ごとに性能を最適化
キオクシアが示した戦略は、NANDフラッシュメモリを一律に大容量・低コスト化するのではなく、AIシステム内のデータの置かれ方とアクセス方法に応じて特性を最適化していくものとなる。
そのための技術がXL-FLASHであり、TLC、QLC技術となる。また、高速・中容量が求められるAI PCやスマートフォン向けには第9世代BiCS FLASH、大容量と電力効率が重視されるAIデータセンター向けには第10世代BiCS FLASHと技術を使い分けることで、製造投資と市場ニーズのバランスも図る。
NVIDIAとはCMXやSCADAに加え、AI PC、フィジカルAIを含む将来のストレージ要件についても協議を進めているという。AIが扱うデータ量の増加に対し、大容量化だけでなく、低レイテンシ、細粒度アクセス、帯域幅、耐久性、電力効率を用途ごとに組み合わせ、CPUやGPUへ必要なデータを効率的に供給できるフラッシュストレージの確立を目指すとしている。









