軽くて優れた強度や耐熱性を持ち、自動車部品や家庭用品など、身の回りに広く利用されている「ポリプロピレン」。熱可塑性樹脂の一種だが、3Dプリントの造形材料として利用すると、冷えて固まる際に大きく縮む「結晶化収縮」という性質があるため、造形した製品が反る(変形する)という製造上の大きな課題があった。
そうした中で、大阪工業大学(大工大)、静岡大学、東洋レヂンの3者は、安価な鉱物「タルク」と高性能な植物由来の超微細繊維「セルロースナノファイバー」を添加することで、ポリプロピレンの3Dプリント時の反りを約81.8%低減できることを実証したと、9月10日に共同発表した。
同成果は、大工大 機械工学科の上辻靖智教授、静岡大 グローバル共創科学部の青木憲治准教授、東洋レヂン、日東電工の産学共同研究チームによるもの。詳細は、複合材料の基礎から応用までを扱う専門論文誌「Composites Science and Technology」に掲載された。
なぜ? ポリプロピレンが3Dプリントに向かない理由
3Dプリントでは、一般的に植物由来の代替樹脂(PLAなど)が使われているが、自動車産業や製造業の開発現場では最終製品と同じポリプロピレンを使った試作や小ロット生産が強く求められていた。しかし、ポリプロピレンは結晶性プラスチックのため熱収縮が大きく、造形中の反りや基板からのはがれが実用化の最大の障壁となっていた。
ポリプロピレンは性能を向上させるため、さまざまなフィラー(添加剤)が添加されることがある。そこで研究チームは今回、課題である冷え固まる際の結晶化収縮に伴う変形を抑制可能な材料を探索し、その効果を検証することにした。
今回の研究成果
今回の研究では、2種類のフィラーが選ばれた。
ひとつは、安価でプラスチックの耐熱性や剛性を高める効果を持つ、マグネシウムを含む天然の鉱物を粉砕した「滑石」(かっせき)とも呼ばれる微細粉末の「タルク」だ。3Dプリントにおいては、造形材料に添加することで全体の形状を安定させ、熱伝導性を向上させる役割を果たす。
そしてもうひとつは、木材などの植物繊維をナノサイズまで細かく解きほぐしたバイオマス素材の「セルロースナノファイバー」(CNF)だ。熱による変形(熱膨張)が極めて小さいという優れた特性を備え、3Dプリントにおける樹脂の収縮を抑制できることから、今回組み合わされた。
タルクとCNFを同量添加したポリプロピレンを3Dプリントの造形材料として使用した結果、反りが約81.8%低減することが確認された。なお、タルクのみを添加した際の変形は31.5%減、CNFのみでは48.5%減だったことから、両者の組み合わせによる相乗効果が明確に示された形だ。
CNFは植物由来のため環境負荷が低く、鋼鉄の5分の1の軽さでありながら5倍の強度を持つ。ポリプロピレンと組み合わせることで自動車部品などの軽量化を実現し、走行時のCO2排出量削減や燃費向上に貢献することができる。ただし、CNFは高価であることが課題であるため、今回はコスト抑制を目的に安価なタルクとのハイブリッド化が図られた。
これまでポリプロピレン部品は、大量のエネルギーと高価な金型を必要とする「射出成形」が主流だった。それに対し、3Dプリント(FFF方式)での精密造形が可能になれば、必要な時に必要な場所で必要な分だけ形成する「オンデマンド製造」が実現する。また、試作や修理部品(補修部品)を現地で3Dプリントできるようになれば、余剰在庫の廃棄や長距離輸送に伴う環境負荷・サプライチェーンのリスクの低減にもつながる。
さらに、ポリプロピレンは材料として再利用することが比較的容易な熱可塑性樹脂であるため、今回の研究により同材料をベースとした複合材料の性能向上が実現すれば、「作って使って何度も再資源化する」循環型社会の構築の後押しにもつながるとしている。
