これまでに3例が見つかっている恒星間天体のうち、「アトラス彗星」(3I/ATLAS)の観測結果を詳細に分析したところ、大量の鉄やニッケルを検出したことを、京都産業大学が8月20日に発表した。

  • アトラス彗星。写真撮影:津村光則氏 (出所:京産大 神山天文台Webサイト)

    アトラス彗星。写真撮影:津村光則氏 (出所:京産大 神山天文台Webサイト)

京産大はこれまでにも、同大学 神山天文台の荒木望遠鏡などによって観測を行い、太陽系の彗星と比べてアンモニアが欠乏している可能性などを解明してきた。今回イタリアとの共同研究により、太陽系の一般的な彗星よりもきわめて多量の鉄やニッケルなどの金属原子を新たに検出することに成功した。

同成果は、京産大 理学部 宇宙物理・気象学科の河北秀世教授(京産大 神山宇宙科学研究所 副所長兼任)らに加え、イタリア・パドバ大学の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、欧州各国の主要機関が共同刊行する、天文学・天体物理学分野の総合論文誌「Astronomy and Astrophysics」に掲載された。

  • アトラス彗星の紫外・可視光波長域におけるスペクトル。一般的な彗星で強く観測されるシアノラジカル(CN)分子の輝線が波長388nm付近に確認できる(緑色のハッチ)。●印は、鉄やニッケルが発する輝線パターンを理論的に再現したもので、観測結果ときわめて良く一致している(鉄:オレンジ、ニッケル:青)。太陽系の一般的な彗星に比べ、鉄やニッケルの輝線がきわめて強い点が特徴的だ (出所:京産大 神山天文台Webサイト)

    アトラス彗星の紫外・可視光波長域におけるスペクトル。一般的な彗星で強く観測されるシアノラジカル(CN)分子の輝線が波長388nm付近に確認できる(緑色のハッチ)。●印は、鉄やニッケルが発する輝線パターンを理論的に再現したもので、観測結果ときわめて良く一致している(鉄:オレンジ、ニッケル:青)。太陽系の一般的な彗星に比べ、鉄やニッケルの輝線がきわめて強い点が特徴的だ (出所:京産大 神山天文台Webサイト)

これまで、太陽系外から飛来した恒星間天体は、2017年の「オウムアムア」、2019年の「ボリソフ彗星」、そして2025年の「アトラス彗星」の3天体である。太陽系内の多くの天体は、太陽を片方の焦点とする楕円軌道を公転している(地球のように、公転軌道が真円に近い天体もある)。それに対し恒星間天体は、恒星間空間から飛来して太陽近傍を通過し、再び恒星間空間へと去って行く1回限りの双曲線軌道を描く。

これら3例の恒星間天体のうち、3例目のアトラス彗星は昨年7月に発見された後(後に過去のアーカイブ画像からも検出)、同年10月後半に太陽へ最接近して最も明るくなった。現在は急速に太陽から遠ざかりつつある。

これまで京産大 神山宇宙科学研究所は、同研究所が運営する神山天文台の口径1.3mの荒木望遠鏡や、国立天文台のすばる望遠鏡を用いた観測により、アトラス彗星に関する研究成果を上げてきた。その一連の研究によれば、アトラス彗星は太陽系の彗星と比べてアンモニアが欠乏している可能性や、CO2の割合が多めである点などが明らかにされていた。

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そこで研究チームは今回、パドバ大学の研究者らと協力し、イタリアのアジアーゴ天文台で観測されたアトラス彗星の紫外・可視光波長域における分光スペクトルを精密解析する共同研究を行うことにしたという。

太陽系の彗星では、ダスト(塵)に鉄やニッケルなどの金属が多く含まれていることが知られている。太陽へきわめて接近した彗星ではダストの尾が蒸発し、そこから鉄やニッケルの原子が実際に検出されてきた。その観測で得られた鉄とニッケルの成分比は太陽のガス組成比とほぼ一致しており、太陽系の形成材料となった初期物質の組成を反映していると考えられてきた。

しかし2021年、欧州の研究チームにより、太陽熱でダストが蒸発しないほど遠方にある彗星においても、コマ(ガスやダストからなる彗星の大気)内から鉄やニッケルが検出された。しかも、その成分比は太陽のガス組成比とは一致しないことが判明した。

その理由として現在、金属がダスト起源でない場合、金属原子を含む分子が彗星の氷に含まれており、ガスとして放出された後に光解離を起こして金属原子が露出した説が有力視されている。彗星の鉄やニッケルが発するシグナル(輝線)は、紫外線波長域に多く現れるものの、起源となる親分子の特定には至っていない。

  • アトラス彗星における鉄・ニッケルとCNの生成率の比較。横軸はCNの生成率、縦軸は鉄とニッケルを合わせた生成率を示す(赤点:太陽系の彗星、青点:アトラス彗星)。アトラス彗星では、CNに対する鉄・ニッケルの相対量が太陽系の彗星より著しく高く、組成比として100倍近くに達する可能性が示された。VLT/UVESなどによる観測での先行報告はあったが、今回の研究ではロングスリット分光により、彗星コマ内での空間的な広がりまで精密に検証した点が重要とされた。(出所:京産大 神山天文台Webサイト)

    アトラス彗星における鉄・ニッケルとCNの生成率の比較。横軸はCNの生成率、縦軸は鉄とニッケルを合わせた生成率を示す(赤点:太陽系の彗星、青点:アトラス彗星)。アトラス彗星では、CNに対する鉄・ニッケルの相対量が太陽系の彗星より著しく高く、組成比として100倍近くに達する可能性が示された。VLT/UVESなどによる観測での先行報告はあったが、今回の研究ではロングスリット分光により、彗星コマ内での空間的な広がりまで精密に検証した点が重要とされた。(出所:京産大 神山天文台Webサイト)

過去の恒星間天体ではボリソフ彗星からも鉄やニッケルの原子ガスが検出されていたが、太陽系の彗星との際立った違いは見出されていなかった。ところがアトラス彗星は異なり、前出のように太陽系の彗星を大幅に上回る、きわめて多量の鉄やニッケルなどの金属原子が検出された。

水に対する相対比は一般的な太陽系の彗星の数十倍以上と推定され、このような特異性がアトラス彗星において確認されるとは、研究チームにとっても予期しない結果だったという。海外の他の望遠鏡による観測でも同様の兆候が報告されつつあるが、今回の研究では広がった彗星コマをより広範囲にカバーする観測を行い、不確定性の少ない検証を実施した点が特筆されるとした。

ただし、この金属過剰の根本的な原因解明は将来の研究に委ねられるかたちだ。アトラス彗星は、太陽系とは極端に異なる環境で形成された可能性が高く、どのような化学過程を経てその氷が形成されたのか、今後の解明が期待されるとしている。