この半導体ニュースのまとめ
・NTTがAIとロボットを組み合わせた「解釈可能な自律成膜」を実証
・成膜・評価サイクルを約3倍に高速化し、β-Ga2O3単結晶薄膜の作製に成功
・AIの最適化データから研究者が理解・転用できる成膜ルールを抽出
NTTは8月25日、AIと自動化技術を活用して薄膜の成長条件を自律的に最適化するとともに、その過程で得られたデータから研究者が理解・転用できる成膜ルールを抽出する「解釈可能な自律成膜」を実証したことを発表した。
次世代パワー半導体材料として期待されるβ型酸化ガリウム(β-Ga2O3)の成膜に適用し、スパッタ法として世界初となる単結晶薄膜の作製に成功したという。研究成果は2026年8月13日付で学術誌「Nature Communications」に掲載された。
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従来の自律実験が最適条件の探索にとどまっていたのに対し、NTTが開発した「解釈可能な自律成膜」では、最適化の過程で得たデータをAIで解析し、研究者が理解して別の材料や装置にも転用できる成膜ルールとして抽出する (出所:NTT)
成膜から評価、次の条件決定までを自律化
半導体薄膜の品質は、基板温度や投入電力、ガス流量など複数の成膜条件に左右される。条件同士も相互に影響するため、研究者が実験と評価を繰り返して最適な条件を見つけるには多くの時間を要する。
こうした課題の解決に向けてNTTの研究チームは今回、自動スパッタ成膜、自動光学評価、ベイズ最適化による次の成膜条件の決定を連携させた自律成膜基盤を構築した。
スパッタ装置内でウェハを自動搬送し、AIが提案した温度、スパッタ電力、アルゴン(Ar)流量、酸素(O2)流量の条件で成膜を実施。成膜後の光学測定データから薄膜品質を自動で解析・評価し、その結果を予測モデルへ戻すことで次の成膜条件を選択するという成膜、評価、次の条件決定からなるフィードバックループを構築したことで、技術者や研究者が運用する従来の実験と比べ、成膜・評価サイクルを約3倍に高速化したという。
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自動スパッタ成膜、自動光学評価、ベイズ最適化による次の成膜条件の決定を連携させた自律成膜基盤。成膜から品質評価、予測モデルの更新、次の条件選択までを繰り返すことで、成膜・評価サイクルを従来比約3倍に高速化した (出所:NTT)
56回の自律探索で単結晶薄膜を実現
今回の実証対象となったβ-Ga2O3は、約5eVの広いバンドギャップを持つウルトラワイドギャップ半導体で、高耐圧・低損失なパワーデバイスなどへの応用が期待されている。一方、大面積化や低コスト化に適するスパッタ法では、高品質な単結晶薄膜を形成することが難しかった。
実験では、まずサファイア製ウェハ上で温度、スパッタ電力、Ar流量、O2流量の4つの成膜条件を自律的に探索。薄膜中の欠陥や原子配列の乱れと相関するアーバックエネルギーを品質指標とし、この値が小さくなる条件を探索した。
56回の自律探索により、アーバックエネルギーが182meVとなる成膜条件を見いだしたほか、異なる結晶相を含まず、目的とするβ-Ga2O3結晶のみで構成されたヘテロエピタキシャル成長を確認した。さらに、サファイア製ウェハ上で見いだした条件をβ-Ga2O3基板上の成膜へ転用することで、高品質なβ-Ga2O3単結晶薄膜を実現したとしている。
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AIによる56回の自律探索でβ-Ga2O3薄膜の成膜条件を最適化。サファイア製ウェハ上で見いだした条件をβ-Ga2O3基板上の成膜へ転用し、スパッタ法として世界初となる高品質なβ-Ga2O3単結晶薄膜を実現した (出所:NTTY)
AIの探索結果から研究者が使える成膜ルールを抽出
従来の自律実験では、AIが最適条件を発見できても、なぜその条件が有効なのかを研究者が理解し、ほかの材料や成膜装置へ応用することが難しかったという。
NTTでは今回の実験において、自律探索で得た成膜条件と薄膜品質のデータを、複数の決定木を組み合わせる機械学習手法「ランダムフォレスト」で解析。各パラメータの寄与とパラメータ間の相互作用を調べた結果、薄膜品質の変化の大部分は、温度、スパッタ電力、Ar流量、O2流量それぞれの影響を足し合わせることで予測できる一方、温度とO2流量の組み合わせについては相互作用があり、重点的な調整が必要であることが明らかになったという。
この知見から、「各パラメータを順に調整し、最後に温度とO2流量を重点的に調整する」という、研究者が理解して実行できる成膜ルールを抽出したとするほか、研究者がこのルールに基づいて成膜条件を再最適化したところ、アーバックエネルギーを182meVから163meVへ低減できたことから、抽出した成膜ルールが、AIの判断を説明するだけでなく、実際の薄膜品質向上にも活用できることを確認したとする。
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自律探索で得たデータを機械学習で解析し、各成膜パラメータの寄与と相互作用を可視化。抽出した「各パラメータを順に調整し、最後に温度とO2流量を重点的に調整する」という成膜ルールに基づく再最適化により、アーバックエネルギーを182meVから163meVへ低減した (出所:NTT)
条件探索から科学知識の創出へ
今回の成果は、自律実験を最適条件の探索にとどめず、得られたデータを研究者が理解し、別の材料や装置にも転用できる科学知識へ変換する取り組みとなる。
ロボットによる高スループット実験と、機械学習による条件提案およびデータ解析を組み合わせることで、複雑な成膜条件を効率的に探索しながら、その過程で得られた知見を研究者が扱える成膜ルールとして蓄積できる成果であり、今後、NTTでは複数の評価指標を同時に扱う最適化や、材料物性および成膜プロセスの知識を取り入れたAIモデルの高度化を進めるとしており、半導体材料に加え、酸化物材料や量子材料などへ適用範囲を広げ、材料・デバイス研究の自動化と効率化につなげていくとしている。