この半導体ニュースのまとめ
・AMDが組み込みシステム開発向けエージェンティックAI「AMD Ross」の提供を開始
・自然言語でAMDの開発ツールを操作し、設計やデバッグ、最適化を支援
・専門家の設計手法を再利用可能なスキルとして共有し、技術継承を促進
AMDは9月30日(米国時間)、組み込みシステムの設計、最適化、デバッグ、実装を支援するエージェンティックAIアシスタント「AMD Ross」の提供を開始したことを発表した。
AMD Rossは、自然言語による指示を解釈し、AMDが検証した技術情報や専門家の設計手法を参照しながら、開発ツールの操作や設計結果の解析を行う。
対応範囲はシステムアーキテクチャ、回路図・プリント基板、FPGA、アルゴリズム、組み込みソフトウェア、AI推論、デバッグ、システムへの展開までに及ぶ。FPGAやアダプティブSoC、x86組み込みプロセッサ、エッジAIプラットフォームなどで構成するAMD Embedded製品群を横断して利用できるとしている。
自然言語の指示を設計作業へ変換
AMD Rossは、開発者から受け取った自然言語の指示を解釈し、関連するAMDの技術情報や開発ツールへ接続する。
質問に回答するだけでなく、開発ツールの状態確認、コマンド実行、コード生成、エラー解析、設計結果の確認などを行い、必要に応じて次の設計作業へ進む点を特徴とする。
対応する開発環境には、FPGAやアダプティブSoC向けの「Vivado Design Suite」、高位合成を含む「Vitis」、ハードウェアデバッグ向けの「ChipScope」、電力解析を行う「Power Design Manager」、AI開発向けの「Vitis AI」「ROCm」「Ryzen AI Software」などが含まれる。
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エージェンティックAIアシスタント「AMD Ross」の基本構成。開発者の質問や設計意図を解釈し、MCP、AMD Knowledge Base、Agent Skillsを介してVivado Design SuiteやVitis、Power Design Manager、ChipScopeなどへ接続する。システムアーキテクチャから回路図・基板、FPGA、アルゴリズム、組み込みソフトウェア、AI推論、デバッグ、システム展開までを横断して支援する (出所:AMD)
利用するクライアントは特定の統合開発環境や大規模言語モデル(LLM)に限定せず、VS Code、Claude Code、Cursor、Devin、OpenCode CLIをはじめ、MCPに対応するクライアントから接続できる。
開発チームは利用目的やセキュリティ要件に応じてLLMや開発環境を選びながら、AMD Rossを既存の開発フローへ組み込めるとしている。
MCP、Knowledge Base、Agent Skillsで構成
AMD Rossは、「MCPサーバ」「AMD Knowledge Base」「Agent Skills」「Design Examples」の4要素で構成される。
MCPサーバは、オープンスタンダードのModel Context Protocol(MCP)を用いてAIエージェントとAMDの開発ツールを接続。AIエージェントはツールの情報を取得するだけでなく、設計環境内でコマンドを実行し、その結果を後続の作業へ反映できる。
AMD Knowledge Baseは、AMDのユーザーガイド、製品ガイド、ホワイトペーパー、アプリケーションノート、過去の問い合わせに対する回答などを検索可能にしたものとなる。
一般的なインターネット情報だけで回答するのではなく、AMDが検証した情報を参照することで、対象となるデバイスや開発ツールに沿った回答を提示する。
クラウド経由で利用できるほか、ローカル環境へ配置したオフライン構成にも対応するため、設計情報を外部へ送信できない開発環境にも導入できるとしている。
熟練技術者の設計手法を再利用
Agent Skillsは、熟練技術者が持つ設計手法や作業手順を、再利用可能なマークダウン形式のファイルとして記述する仕組みだとする。例えば、タイミング違反を解消する場合、違反箇所の特定、回路構成や制約条件の確認、設計変更、再実装、結果確認といった手順をAgent Skillsへ保存できる。
Vitis HLSを用いたC++設計では、パイプライン化、ループ最適化、プラグマの挿入、アーキテクチャ変更などを構造化された手順に沿って進められる。Ready-to-run形式のデザインサンプルも用意し、Agent Skillsを実際の組み込みアプリケーションへ適用する方法を示すことができるという。
専門家の知識を個人の経験にとどめず、チームやプロジェクトをまたいで共有することで、若手技術者の立ち上げ期間を短縮し、設計手法を標準化する狙いがあるようだ。
エラー解析や消費電力の最適化にも対応
AMD Rossは、開発ツールが出力したエラーを解析し、エラーの意味や原因、確認すべき設定、修正候補を提示する。
タイミング解析では、違反が発生しているパスや制約条件を確認し、設計変更や実装結果を改善する方法を提案する。ハードウェアデバッグでは、観測信号の選択、デバッグコアの設定、インタフェース解析、取得データの確認、原因特定などを支援する。
電力設計では消費電力を見積もり、目標とする性能を維持しながら電力を抑える設計変更を提案。システム設計では回路図のレビューや基板レイアウトの最適化も支援する。
一般的なAIコーディング支援ツールと異なり、AMDの開発ツール、技術情報、専門家の設計手法を一体化し、組み込みシステムの設計から実装までを支援する専用基盤と位置付ける。
ただし、AMD Rossが生成したコードや設計変更、解析結果については、開発者が内容を確認したうえで実装する必要がある。機密情報や個人情報、規制対象データについても、利用するLLMや導入環境が適切に認可されている場合に限って入力するよう求めている。
なお、AMDは対応する開発ツールやAgent Skills、設計事例を毎月追加し、ハードウェア、ソフトウェア、AI、基板を横断する組み込み開発環境として機能を拡張していく予定で、反復作業の自動化やデバッグ期間の短縮に加え、組織内に蓄積された設計ノウハウを再利用可能な形で共有することで、設計意図から試作、実装、市場投入までの期間短縮を支援していくとしている。