日立製作所は7月22日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」のテーマ「社会課題解決に向けた量子コンピュータ次世代機開発・実証の加速」に実施予定先として採択されたことを発表。Intel日本法人(以下、インテル)、および産業技術総合研究所との協力を通じ、同事業を推進していくことを明らかにした。

2030年度には1000量子ビット規模の実現を目指す

従来のコンピュータでは解決が難しい社会課題への対応を見据え、量子コンピュータへの期待が高まっている、ただし実社会で明確な価値を発揮するには、ノイズによる誤りを訂正できる「誤り耐性型量子コンピュータ」の実現が必要不可欠で、そのために100万規模の量子ビットを集積する必要があるとされる。そうした大規模化に適した手段として、既存の半導体製造技術を活用したシリコン量子コンピュータへの注目が集まっているとのこと。今後の実用化に向けて、研究段階から量産・産業化段階への円滑な橋渡しや、デバイスの性能ばらつきへの対応など、製造・実装・運用を一体で捉えた課題解決が求められている。

そうした中で日立は、内閣府が主導するムーンショット型研究開発事業においても、研究開発を強力に推進しており、理化学研究所(理研)やimecなどの研究機関とも連携して、量子ビットを長時間安定して動作させる制御技術などの基礎技術成果を重ねているとする。そして同社は今般、こうした学術的成果を実用化・産業応用へとつなげるための取り組みであるNEDOの事業に参画。量産プロセスへの展開を見据えた量子デバイス製造およびシステム設計基盤の確立に向け、量子ビットチップの設計、3D実装、クラウド運用までを一体で進める。これにより、将来の大規模かつ高信頼なシリコン量子コンピュータの実現に必要となる、設計・製造・運用基盤の構築を目指すとした。なお具体的な開発項目としては、以下4つが挙げられている。

  • 産業品質100量子ビット・シリコン量子コンピュータ向け量子ビットチップ設計およびパッケージング技術開発
  • 産業品質100量子ビット・シリコン量子コンピュータ向けプロセスデザインキットの開発
  • 1000量子ビット・シリコン量子コンピュータ向け3D実装技術開発 -シリコン量子コンピュータのクラウド展開向けシステム開発

なお量子ビットチップ設計およびパッケージング技術開発については、日立とインテルが連携し、量子ビットを安定して動作させるためのチップ設計を開発する。併せてインテルの18Aプロセス技術に基づく量子デバイス製造プロセスの適用により、研究・試作段階における課題であった“デバイスごとの性能ばらつき”の克服を目的とした開発も進めるとのこと。加えて、将来の誤り訂正実装を見据え、周辺回路を含むチップ全体の設計を進めるとともに、チップを搭載する部分の設計や配線数を抑えた制御回路の開発にも取り組み、100量子ビット以上を搭載するチップ全体の設計と実装に必要な基盤技術の確立を目指すとした。

またプロセスデザインキットの開発については、その活用によって、日立として実際の製造条件を踏まえたうえで量産を見据えたチップ設計を進めることが可能になるといい、インテルは日立による設計を支援するとともに、将来の量産意向を見据えた設計環境の整備を進めるという。

一方で日立は、将来的な1000量子ビット級システムの実現に向けた基盤づくりも進めるといい、量子ビット数の増加に伴って生じる配線や実装面積の課題を解決するため、極低温環境で用いる量子コンピュータ向けの高密度な実装技術を開発するとのこと。チップ同士や部品を狭い間隔で接続する技術を評価しながら、多くの量子ビットを効率よく実装できる方法の確立を進めるとしている。

そして同社は産総研と共同で、シリコン量子コンピュータの実験環境に対応したクラウドシステムを開発し、産総研量子・AI融合技術ビジネス開発グローバルセンター(G-QuAT)を通じた公開を目指すとする。実現すれば、外部の研究者・技術者も量子ビットチップや制御装置の実験環境を利用可能となり、研究開発の効率向上が期待されるとともに、幅広い人材が参画できる環境を整えることで、オープンな開発エコシステムの形成につなげるとした。

なお、今回の事業期間は2029年3月までが予定されているとのこと。日立は、同事業で開発する量子ビットチップ設計、実装、クラウド運用の基盤技術をもとに、2027年度までにクラウド公開を実施、その後の段階的なサービス展開を構想しているという。併せて実用化に向けたマイルストーンとして、2028年度に100量子ビット、2030年には1000量子ビット規模の、量子誤り訂正符号を実装したシリコン量子コンピュータ試作機の実現に取り組むとし、今後もインテルや産総研など協力者との連携を通じて研究開発を加速させるとする。さらに日立は、同事業による成果を通じてLumadaの進化を支え、従来の計算基盤では対応が難しい社会課題の解決に貢献することで、産業・社会インフラの高度化と持続可能な社会の実現を目指すとしている。