九州大学(九大)は7月2日、時空の特定の量子重ね合わせを含むシナリオについて、量子重力理論を導入せずに再解釈できることを記述する「時空の重ね合わせの相対性」と呼ばれる理論的枠組みを新たに構築したと発表した。

同成果は、九大 高等研究院 稲盛フロンティアプログラムのフー・ジョシュア准教授、スウェーデン・ストックホルム大学のマグダレナ・ジッチ博士らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英総合学術誌「Nature」系の量子情報を扱うオープンアクセスジャーナル「npj Quantum Information」に掲載された。

  • 同じ物理的状況を異なる視点から見た2つの解釈図

    同じ物理的状況を、異なる視点から見た2つの解釈図。(上)重力場または時空の量子重ね合わせ。(下)通常の重力場における位置の量子重ね合わせにある「試験」粒子。この重力場は、星やブラックホール、あるいは別の量子「源」粒子によって生み出されたものである可能性があるという。(出所:九大プレスリリースPDF)

現代物理学を支えるのは、原子以下のミクロの世界を記述する「量子力学」と、星や銀河のようなマクロの世界の重力を記述する「一般相対性理論」という2本柱だ。両者を統合した理論「量子重力」が実現すれば、自然界の基本法則をより統一的に理解できるようになるだけでなく、自然界に働く4つの基本的な力を統一的に説明する「万物の理論」の実現にもつながる可能性がある。しかしその統合は、現在も物理学の大きな未解決課題として残されている。

多くの量子重力理論では、重力も量子力学に従う量子的な性質を持つと考えられており、重力が量子の重ね合わせ状態を取る可能性も議論されてきた。量子の重ね合わせとは、例えば量子コンピュータの情報の基本単位である量子ビットが、通常のコンピュータのように0か1のどちらかではなく、0と1が同時に重ね合わさった状態を取ることができる性質のことだ。量子重力理論では、このような量子力学特有の性質が重力にも現れる可能性があると考えられている。

そうした中で近年は、重力を介して相互作用する量子粒子の振る舞いから、そのような性質を間接的に検証する理論的手法が提案されている。しかし、実験で観測される現象が重力そのものの量子性を示しているのか、それとも別の仕組みでも説明できるのかが明確ではない点が課題となっていた。そのため、結果を解釈するための新たな理論的枠組みが求められていた。

そこで研究チームは今回、「重力(つまり時空)の量子重ね合わせ」の物理的意味を明確にし、提案されている実験からどのような結論を正当に導き出せるかを明らかにすることを目的とした研究を進めたという。

今回の研究における研究チームの目標は、どの兆候が量子重力の真の証拠となり得るか、またどの兆候には別の説明が可能であるかを特定することだった。そのため、「時空重ね合わせの相対性」と呼ばれる理論的枠組みが構築された。

この理論的枠組みは、時空の特定の量子重ね合わせを含む特定のシナリオが、量子重力理論を必要とせずにどのように再解釈できるのかを記述するものだ。これらのシナリオでは、重力そのものが量子重ね合わせ状態にある必要なく、同じ物理的予測を再現することが可能だ。

次に、この枠組みが、重力による量子もつれ(エンタングルメント)や重力によるデコヒーレンスを伴う実験を含む、いくつかの有力な提案に適用された。その結果、量子重力効果の証拠として一般的に解釈されている多くのシナリオには、本質的な曖昧さが存在することが判明したという。同じ観測結果は、物理的には同等であるものの、2つの異なる方法で理解することが可能だとした。1つ目は重力の量子重ね合わせを伴うものであり、2つ目は古典的な重力背景上を移動する量子粒子を記述するものだった。

重力と量子力学がどのように結びついているのかを理解することは、現代物理学における最大の課題の1つだ。重力の量子的な性質を検証する前に、それが発見されたことを証明する証拠が何であるのかを把握することが必要である。今回の研究成果は、研究者たちに実験を設計するための指針を与えるものになるという。どの観測が重力の古典的記述と量子的記述を真に区別できるかを特定することで、現代科学において最も注目されている理論の1つに関する証拠の探索範囲を絞り込むことができるようになるとしている。