早稲田大学(早大)と久慈琥珀博物館の両者は7月17日、岩手県久慈市内の約9000万年前の中生代白亜紀後期の地層である「久慈層群玉川層」から、国内でも極めて希少なこの時代のほ乳類である「多丘歯類」の歯と、ヒトの祖先である「真獣類」の下顎の一部という2種類の化石を発見したと共同で発表した。
同成果は、早大の平山廉教授と久慈琥珀博物館の共同研究チームによるもの。なお、今回発見された2点の化石は、久慈琥珀博物館において10月27日まで特別展示中だ。
超希少な“中生代哺乳類”の化石が岩手で初めて発見
今回の化石が発見された久慈層群玉川層では、2012年3月から平山教授と久慈琥珀博物館が共同発掘調査を実施しており、これまでに恐竜を含む30種類超の脊椎動物化石が計3700点以上発見されている。この発掘調査の中で今回新たに発見されたのが、「多丘歯類」と「真獣類」というほ乳類の2グループの化石だ。久慈層群が堆積した後期白亜紀は、ほ乳類の多様化が進む重要な時代であり、両グループの進化を解明する上で重要な発見だという。
多丘歯類は、中生代の中期ジュラ紀から新生代の始新世(約1億6500万~約3500万年前)まで生息していた、すでに絶滅したほ乳類のグループだ。今回発見された化石はその典型的な歯であり、右下顎の第四小臼歯と確認された。歯冠はほぼ保存されているが、歯冠基部や歯根は欠損していた。歯の形状から多丘歯類の中でも派生的なグループである「キモロドン」類の特徴を持つことが判明した。
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今回発見された多丘歯類の右下顎の第四小臼歯の歯冠。頬側面観(上段左)、舌側面観(上段右)。CTデータから構築された三次元復元画像(下段)。スケールバーは1mm。画像提供:楠橋直・久慈琥珀博物館(出所:早大Webサイト)
なお、キモロドン類はモンゴルの後期白亜紀の地層から発見されたものと、北米で発見されたものでは特徴が異なり、今回の歯は北米のものあるいはその近縁種である可能性が高いという。新種の可能性もあるが、それは今後の検討課題としている。
多丘歯類は下顎の小臼歯の数などにより、基盤的(原始的)な「プラギオラックス」類と派生的なキモロドン類に分けられる。プラギオラックス類はジュラ紀から前期白亜紀にかけて、またキモロドン類は後期白亜紀以降に栄えたグループで、特にキモロドン類は後期白亜紀のアジアや北米において繁栄した。原始的なプラギオラックス類から派生的なキモロドン類へ進化したと推測されているが、化石記録が乏しいため、詳しい進化過程は解明されていない。
アジアにおいては、前期白亜紀の後期にプラギオラックス類が多様化していたことが知られており、日本国内でも複数の地域から化石が発見されている。しかし、今回発見されたような、後期白亜紀の中でも前期に位置する時代の多丘歯類は、アジアでは中央アジアからわずかに発見されているのみだ。それよりも前の前期白亜紀からはキモロドン類の化石はこれまで知られていないことから、今回の化石は、アジア最古のキモロドン類となる可能性もあるという。
一方、今回発見されたもう1つの化石である真獣類は、現生ほ乳類の主要グループであり、ヒトを含む有胎盤類と、その祖先的な化石種を含むグループだ。発掘された化石は右の下顎の一部であり、形が異なる2つの歯が保存されていた。前側の歯は最後方の「第五小臼歯」、後ろ側の歯は「第一大臼歯」と判断された。顎の骨の中に生え替わる歯がなかったことから、成体のものと推定されるという。また、前期と後期白亜紀の真獣類に見られる中間的な特徴を持っており、最初期ほど古くはないが、後期白亜紀の進歩的な真獣類よりは原始的と分析された。
なお、日本国内からは、これまで12種の恐竜時代のほ乳類化石が発見されており(福島1種、石川4種、福井3種、兵庫1種、熊本2種、鹿児島1種)、すべて白亜紀のものだ。真獣類の化石は久慈市以外の2か所(熊本1種と兵庫1種)から知られ、それぞれ新種のほ乳類として報告されている。今回の化石は、これら過去に報告された真獣類とは別の種類になるという。
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真獣類化石のマイクロフォーカスCT画像から復元された三次元画像。第五小臼歯と第一大臼歯が植立した右下顎の一部。(左)頬側から見たもの(画像左が後方)。(右)舌側から見たもの(画像右が後方)。小臼歯は単純な矢尻形だが、大臼歯は窪みがある2つの部位からなる。スケールバーは1mm。画像提供:福井県立恐竜博物館・久慈琥珀博物館(出所:早大Webサイト)
また、今回発見された2点のほ乳類化石は、白亜紀の久慈における動物相を理解する上で重要な化石記録となる。これらの化石により、白亜紀の久慈には多様なほ乳類が生息していたことが示唆された。加えて、白亜紀の後半は真獣類などのほ乳類の多様化が顕著に進み始める重要な時代であり、とりわけ人類の祖先を含む真獣類の進化史の解明に対し、大きな貢献が期待できるとしている。



