筑波大学と福島県立博物館の両者は7月16日、福島県いわき市で見つかった化石が、植物食恐竜「イグアノドン」類の胸骨の一部と判明し、そこから推定された全長が、国内で発見された同恐竜類の化石から推定された全長の中では小型の3m程度であったことから、後期白亜紀の東アジア沿岸において多様なサイズの個体が生息していたことが示されたと共同で発表した。
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日本における後期白亜紀のイグアノドン類の発見場所、および今回の研究で調査された恐竜化石(日本における化石産出地は久保田、2023をもとに作成;地質図は安藤ほか、1995をもとに作成)。(出所:筑波大プレスリリースPDF)
同成果は、筑波大 生命環境系の近藤征海大学院生、同・田中康平准教授、福島県立博物館 学芸課の吉田純輝副主任学芸員らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本古生物学会が刊行する、古生物学全般を扱う英文オープンアクセスジャーナル「Paleontological Research」に掲載された。
イグアノドン類は、イグアノドンのほか「カンプトサウルス」、進化したグループである「ハドロサウルス」類なども含む、植物食の鳥脚類恐竜類の一群で、植物を効率よく咀嚼できる構造の歯を備えていることなどを特徴とする。後期ジュラ紀から白亜紀末にかけて(約1億6150万年前~6600万年前)、世界的に繁栄し、すべての大陸から化石が発見されている。そのサイズは全長約2mの小型種から、10mを超す大型種まで多彩だ。アジアは当時の北米およびヨーロッパへの分散に重要な地域であり、特に中国やモンゴルでは多様なイグアノドン類化石が発見されている。
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イグアノドン類を含む鳥盤類恐竜の系統樹と胸骨形態の比較(Dieudonné et al., 2020; Poole, 2022; Fonseca et al., 2024をもとに作成)。胸骨は大きく「腎臓型」と「手斧型」に分けられ、今回の標本は手斧型に分類される。(出所:筑波大プレスリリースPDF)
一方、日本でも近年は、イグアノドン類化石の産出報告が増加している。例えば、北海道では後期白亜紀(約1億50万年前~6600万年前)の海成層から全長8mと推定される大型種「カムイサウルス・ジャポニクス」が発見されており、沿岸環境に適応していた可能性が指摘されている。しかし、日本産イグアノドン類化石の多くは歯などの断片的なものが大半を占め、その多様性や生態については未解明な部分も多い。
1999年、福島県のいわき市アンモナイトセンター施設内に露出する後期白亜紀の地層「双葉層群足沢層大久川部層」(堆積年代:チューロニアン期後期?~コニアシアン期中期、約9000万~8800万年前、堆積環境:浅海域)から骨化石が産出した。この化石は、暫定的にハドロサウルス類の右胸骨と同定されたが、その後、詳細な研究は行われず、同施設に収蔵されたままだった。そこで研究チームは2022年から、この化石の分類研究を開始し、部位の同定や分類を進めたという。
調査の結果、化石は早い段階で鳥脚類恐竜、特にイグアノドン類に分類される可能性が浮上し、また海成層から発見された点において、その発見意義が注目された。そして最終的に、イグアノドン類の中でも「棘胸骨」類に属することが明らかにされた。この化石は「手斧型」と呼ばれ、棒状の「柄」の部分と平らな「刃」の部分で構成される。この形状は恐竜類の中でも、イグアノドン類またはパキケファロサウルス類に見られる特徴だ。
既存種とさらに詳細な比較をしたところ、この化石の形態は5種の棘胸骨類(ルルドゥサウルス、マンテリサウルス、プロバクトロサウルス、バティロサウルス、アルティリヌス)に共通する特徴と一致した。具体的には、(1)手斧の「刃」部分が左右で癒合していないこと、(2)手斧の正中尾部にある突起が鋭利に尖っていないこと、(3)手斧の「刃」から「柄」にかけての外側縁が凹状を呈すること、そして(4)手斧の「柄」部分が「刃」部分より短く、(5)その横断面が丸みを帯びている点が挙げられた。発見されたのが胸骨1点であるため、より下位の分類階級への同定は難しく、今回の研究では「属種不明の棘胸骨類」に留められた。
また、この化石から個体の成長段階を推定することは困難だが、全身骨格が発見されているモンゴル産の近縁種「ゴビハドロス・モンゴリエンシス」とほぼ同じ大きさの胸骨であるため、全長3m程度の小型個体と推定された。これまで、日本の後期白亜紀の地層からは中型から大型個体(全長3m以上)に由来するイグアノドン類が報告されてきたが、今回の発見は、東アジアにおいて、沿岸域で小型個体を含む多様な体サイズのイグアノドン類が生息していたことを示す結果となった。従って、今回の研究は後期白亜紀の沿岸環境における恐竜類の生態系を考える上でも重要な手がかりとなるとした。
双葉層群からはこれまで、サメ類や大型海生は虫類である「プレシオサウルス」類など、海生脊椎動物化石が数多く発見されている。近年では、恐竜類やほ乳類など、陸生脊椎動物化石の報告も増加しており、当時の海洋や沿岸域の陸上生態系の両方に新たな知見がもたらされている。
双葉層群が堆積した時代(チューロニアン期?~サントニアン期:約9000万~8600万年前)は世界的に地層や化石が限られており、この時代の陸上脊椎動物相には未解明な点が多く残されている。そのため、双葉層群から産出する化石は、後期白亜紀の東アジアにおける生態系や生物の進化を理解する上で重要な資料になるという。研究チームは今後、恐竜類に加えて、同地層から産出した魚類などの脊椎動物化石についても本格的に調査を進め、当時の生物相や生態系のより詳細な復元を目指すとしている。


