九州大学(九大)は7月16日、星形成プロセスにおける磁場の役割に関する解明に向け、太陽系に最も近い星形成領域「おうし座分子雲」内に位置する典型的な「前恒星コア」において、磁場の影響を受けるイオンと受けない中性ガスの2種類の分子を観測した結果、両者間に速度差が存在することを検出したと発表した。
併せて、この速度差は磁場と中性ガスが分離する「両極性拡散」現象で説明可能であり、同現象が前恒星コアの磁場を弱めることで、星形成における重要な役割を果たすことも示されたと発表した。
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フィラメントに埋め込まれた前恒星コアL1544のイメージ。青線は磁力線を表し、コアの重力収縮により歪んでいる。赤点はイオン種、緑点は中性分子種を示し、矢印の長さはコア中心へ向かう流入運動の向きと速度を表す。コア外側では、両者共に磁力線に結合しているが、コア中心部では、中性分子が磁力線から切り離され、結合したままのイオンに比べてより速い速度で落下する。この分離は「両極性拡散」として知られて、前恒星コアが原始星へと重力崩壊を開始するために不可欠な現象だ。(出所:九大プレスリリースPDF)
同成果は、九大 高等研究院 稲盛フロンティアプログラムのアルズマニアン・ドリス准教授を中心に、国立天文台、ドイツ・マックス・プランク地球外物理学研究所、鹿児島大学、九州産業大学、欧州・ミリ波電波天文学研究所、ヨーロッパ南天天文台などの研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、欧州各国の主要機関が共同刊行する、天文学・天体物理学分野の総合論文誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載された。
磁場とガスの分離による初期星形成の過程を解明
星は星形成領域内で誕生するが、その内部にはいくつかの階層構造が存在することが知られている。まず、星間ガスや星間ダストからなる細長い高密度構造「フィラメント」があり、その内部にはさらに高密度な構造「クランプ」が形成される場合がある。そしてフィラメントやクランプ内には、星の卵と呼ばれるさらに高密度な「分子雲コア」が形成される。
ただし、すべての分子雲コアが星へと成長するわけではない。さらに重力による束縛が進み、星になることがほぼ確実となった段階は「前恒星コア」と呼ばれる。この前恒星コアが重力崩壊すると、その中心に「原始星」が誕生する。その後も原始星は周囲から物質を取り込みながら自身も重力収縮を続け、中心温度が約1000万℃に達すると水素の核融合が始まって主系列星としての生涯をスタートさせる。
前恒星コアの重力収縮プロセスにおいて、イオンは磁場に束縛されている一方で、中性ガスはコア中心に向かって落ち込んでいくため、イオンと中性ガスは異なる速度構造を持つと予測されていた。しかし、このイオン・中性ガス間の速度ドリフトは、これまで観測的には明確に検出されていなかった。そこで研究チームは今回、スペイン南部に設置された欧州・ミリ波電波天文学研究所が運営するIRAM30m単一鏡電波望遠鏡を用いて、おうし座分子雲内に存在する前恒星コア「L1544」を観測し、イオン・中性ガス間の速度ドリフトの検出を試みたという。
今回の研究では、イオン分子である「重水素化ジアゼニリウムイオン」(N2D+)と、中性分子である「重水素化アンモニア」(NH2D)の2種類の放射が観測された。そして両者の速度分布を比較した結果、コア内で平均0.05km/sの速度差が検出された。
さらに、ダスト粒子の成長を考慮した両極性拡散の磁気抵抗およびドリフト速度の理論予測と比較したところ、この速度差はダスト成長によって効率が増大した両極性拡散の観測的兆候として解釈された。両極性拡散は前恒星コアの磁場強度を弱めて星形成に必要な重力崩壊を引き起こすことから、今回の研究では両極性拡散の兆候が捉えられたことで、初期星形成に必要なメカニズムが解明されることとなった。
今回の成果は、生命や惑星系の起源に関する根本的な問いと結びつくものだという。星形成前のコアにおける物理的・化学的条件を理解することで、惑星や生命がどのように形成されるのかをより的確に追跡できるようになる。研究チームは今後、さらに多くの前恒星コアに対する観測を実施し、今回判明した事実の普遍性を確認すると同時に、アルマ望遠鏡などの高解像度の観測施設を用いて、コア内部におけるドリフト速度の空間変動をマッピングすることを試みるとしている。