新潟大学(新大)、岐阜大学、理化学研究所(理研)、京都大学(京大)の4者は7月9日、アルマ望遠鏡を用いた観測により、約1600年前に超新星が爆発した領域に、原始星を包む暖かい分子ガスのゆりかごである「ホットコア」を世界で初めて発見し、そこに複雑な有機分子や水など、多様な分子が含まれていることも明らかにしたと共同で発表した。
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超新星残骸において発見された原始星を包むホットコアのイメージ。青色は超新星爆発により生じた高エネルギー粒子や光子、茶色は星間物質を表す。(c)下西隆(新潟大学)、今回の観測結果に基づき、Google GeminiおよびChatGPTによる描画支援を利用(出所:岐阜大Webサイト)
同成果は、新大 理学部の下西隆准教授、岐阜大大学院 自然科学技術研究科の佐野栄俊准教授、理研 開拓研究所の古家健次研究員、京大 基礎物理学研究所 極限構造研究部門の大屋瑶子講師らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の論文誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
有機分子を含んだ“ゆりかご”を世界初発見
約46億年前の形成時の情報を保持する物質に含まれる放射性同位体の分析から、太陽系は超新星爆発の影響を強く受けた領域で誕生した可能性があることが示唆されている。太陽質量の約8倍以上の大質量星が生涯の最期に起こす超新星爆発は、宇宙において最も高いエネルギーを放つ現象の1つであり、鉄より重い元素の生成、宇宙線(高エネルギーの荷電粒子)の加速、そして次世代の星形成の誘発など、銀河の進化に多大な影響をもたらすとされる。
太陽系の材料となった物質には、多種多様な有機分子やアミノ酸など、生命の材料となる物質が含まれていたことが近年の研究によって明らかにされている。星や惑星が誕生するガスやダストの塊である「分子雲」の大部分は、-260℃以下という極めて低温だ。しかし、塵の表面を触媒とした化学反応が進むことが知られており、複雑な有機分子の多くはこの表面反応を介して氷として生成されると考えられている。
ホットコアは、星・惑星材料物質の化学的な複雑性を探る上で非常に重要な天体だ。しかし、これまで超新星爆発が起きた領域で発見された例は存在しなかった。そのため、超新星爆発の影響下で誕生しつつある星・惑星系において、その材料に含まれる多様な有機分子が生き残れるのかという点については、未解明の部分が多く残されていたのである。
超新星爆発により生じる高エネルギー粒子や強い衝撃波は、複雑な有機分子を破壊したり、あるいは新たな分子の生成を促したりする可能性がある。そこで研究チームは今回、超新星残骸「RX J1713.7-3946」に着目。アルマ望遠鏡を用いて、同残骸の周辺にホットコアをまとった原始星を探すことにしたという。
この超新星残骸は、中国の歴史文献に記録が残る約1600年前の超新星爆発「SN 393」によって形成されたものだ。この領域は、太陽系近傍の分子雲に比べて10~100倍以上の強い宇宙線や、強烈なX線・ガンマ線放射、秒速数千kmに達する激しい衝撃波など、通常の星形成領域では見られない過酷な環境にあることが知られている。今回の研究では、天体から放射される波長約0.9~1.2mmのサブミリ波からミリ波にかけての電波を、アルマ望遠鏡ならではの約0.5秒角という非常に高い解像度で探る観測が実施された。
観測の結果、この領域に原始星を包む2つのホットコアが発見された。超新星残骸にてホットコアが発見されたのは今回が世界初となる。加えて、どちらの天体にも多様な有機分子が付随していることも確認された。超新星の爆発時期を考慮すると、どちらの天体も爆発が起きる前からすでに存在していたことが考えられるとした。
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超新星残骸RX J1713.7-3946において発見された2つのホットコア。背景は当該領域の観測画像で、青色はX線が捉えた高エネルギー領域、緑色は4.6μmの赤外線による恒星の分布、赤色は22μmの赤外線から推定される暖かいダストの分布、そして白色の等高線は冷たいガスの分布を示す。2つのホットコアの位置は緑色の四角で示されている。左上および右下のパネルはアルマ望遠鏡による観測結果で、メタノールやジメチルエーテルなど、多様な分子が検出された。X線はXMM-Newton衛星、赤外線はWISE衛星、冷たいガスの分布はNANTEN, NANTEN2, ATCA, Parkes望遠鏡による一酸化炭素および中性水素の観測(Fukui et al. 2012)に基づいたもの。(c)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Shimonishi et al.(出所:新大プレスリリースPDF)
両天体のうちの1つについては、検出された輝線に基づいたより詳細な分析と比較研究が行われた。その結果、複雑な有機分子の存在割合が、通常の環境下にある同様の天体と類似していることが突き止められた。これは、超新星爆発の現場においても原始星はホットコアに保護され、そこに含まれる複雑な有機分子は破壊などの影響を受けていないことを示すものだ。この結果は、生命の材料と成り得る有機分子が存在する領域は、これまで考えられてきたよりも多様であり、過酷な宇宙環境でも化学的な豊かさが保たれることを示唆しているとした。
超新星爆発の影響下においてもホットコアが保護されている要因については、現在、複数の仮説が提唱されている。1つは、超新星爆発に曝され始めてからまだ十分な時間が経過しておらず、有機分子の破壊が本格的に始まっていないというもの。もう1つは、超新星爆発の衝撃波により発生するとされる強力な磁場が、宇宙線のホットコアへの侵入を妨げ、有機分子を保護しているというものだ。
今回発見された天体のホットコアは、超新星爆発の現場にありながらもその影響から守られ、複雑な有機分子は生き延びていることが示された。しかし、これが普遍的な描像なのかどうかはまだ不明だ。爆発した星との位置関係や、爆発に曝され始めてからの経過時間、星が爆発する前の環境など、超新星爆発が星や惑星の材料物質に与える影響は多様な要因により変化する可能性がある。超新星爆発の影響により、複雑な分子が破壊されたり、別の分子へと姿を変えたりしている星や惑星系もあり得るとした。
今後、電波望遠鏡による分子ガスの大規模観測や、赤外線望遠鏡によるダストや氷の観測が進むことで、超新星爆発の影響を受けた星のゆりかごやその中にある原始惑星系円盤の物理的・化学的性質がより詳細に明らかにされる可能性があるという。これにより、太陽系形成環境の普遍性または特殊性に対し、従来にない新たな知見がもたらされることが期待されるとしている。