現在のものづくりでは、金属やセラミックスなどの硬い素材と、ゴムやプラスチックなどの柔軟な高分子を組み合わせる「マルチマテリアル化」の重要性が高まっている。しかし、性質の異なる素材同士の接着は容易ではなく、従来は素材の組み合わせごとに、双方になじむ接着剤を設計・開発する必要があるなど、エネルギー消費や環境負荷の観点から課題が存在していた。
物質・材料研究機構(NIMS)は、溶液を塗って乾かすことで形成した多孔質層を「アンカー」として利用することで、片方の素材とは化学的な親和性(接着)を、もう片方とは細孔によって物理的な噛み合わせ(アンカー効果)を活用するハイブリッド技術「塗布型・多孔アンカー層」(PPA)を開発。接着が困難な異素材同士でも7MPa超の強度で強固に接合できることを実証したと、9月10日に発表した。
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今回の研究の概要とその効果。(左)従来の接合技術との比較。PPAでは片側の基材とは化学的な親和性を基に接着しつつ、もう片側とは素材の相性が悪くてもアンカー効果を介して接合できる。(右)PPAを含めることの効果。素材の間に構造を持った層を挟むことで、垂直引張強度が約2倍に向上させ られる(出所:NIMSニュースリリースPDF)
硬柔素材を組み合わせる“マルチマテリアル化”の課題
硬い無機材料と柔らかい高分子材料を融合させるマルチマテリアル化では、それぞれの材料が持つ物理的・化学的性質が大きく異なるため、その「接合界面」に応力が集中し、破壊の起点になりやすいという耐久性の課題がある。従来のネジ・ボルトや溶接などを使う方法は信頼性が高いものの、一点への負荷(応力集中)や重量増加など、薄い基材には適していない。
一方、接着接合には、素材の面全体を利用できるために荷重を分散できる利点がある。しかし多くの場合、接合する素材ペアごとに双方になじむ接着剤を適切に設計する必要があり、開発のハードルが高いことが課題となっていた。
それに対し、基板表面にレーザーや機械加工、化学エッチングで凹凸を作り、そこに被着体である高分子を噛み合わせる機械的インターロック技術(アンカー効果)は、マルチマテリアル化において有効なアプローチとして知られている。ただし、表面加工や洗浄などに大規模な設備や工程が必要であり、エネルギー消費や洗浄・エッチング液の排出といった環境負荷が大きな点が問題となっていた。
そこでNIMSの研究チームは今回、アンカー効果と接着剤を組み合わせるハイブリッド方式で、異種接合の課題解決を図ることにした。
今回の研究成果
ハイブリッド方式として新たに開発された「塗布型・多孔アンカー層」(PPA)技術では、片方の素材を考慮するだけでよく、接着剤の選定が容易だ。また、塗布・乾燥だけで構造体を形成できるため、残渣が生じず洗浄も不要な点が環境面で優れる。
PPAの実現のため、研究チームが今回注目したのが、流体現象「粘弾性相分離」だ。相分離とは、水と油が分離するような現象のことで、通常は体積分率が少ない方の相(少数相)が、体積分率の多い母相の中で、球形の液滴を形成する。それに対し、高分子などの固体成分が含まれると、動きやすい液体が先に集まり、高分子の網目構造が取り残される。この現象が粘弾性相分離であり、たとえ少数相であっても連続的なネットワーク構造を形成できるという特徴がある。
また、相分離の過程で力学的に弱い部分が優先的に淘汰されるため、力学的に強い部分が残ると考えられており、これにより耐久性に優れた多孔構造がボトムアップで得られる点が特徴だ。さらに、適切なタイミングで相分離が止まるように乾燥速度を調整できれば、被着体を接合する足場となる孔の径を制御することもできるようになる。
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粘弾性相分離に基づく多孔質膜の形成機構。揮発性の高い溶媒Iと比較的揮発の遅い溶媒IIの混合溶媒を用いる。塗布後に溶媒Iが揮発し、溶媒II内で高分子がネットワーク構造を形成。この際、溶媒IIの揮発速度を調整することでネットワーク構造が固定化されるタイミングを制御できる。これにより、孔径制御が可能になる (出所:NIMSニュースリリースPDF)
今回、PPAのコンセプトを実証するため、ガラス基材と相性の良い極性高分子を選定し、溶媒の種類や組成を工夫することで、相分離ネットワークが固まるタイミングが制御された。これにより、ナノ〜マイクロメートルスケールの孔を系統的に変更した塗膜(多孔膜)を得ることが可能となった。このような多孔膜は、純粋に溶媒の揮発や相分離現象を用いているため、さまざまなコーティング方法で作成でき、6インチ(直径15cm)の大面積での製膜も行える。
こうして得られた多孔膜中に、被着体となる素材を溶液塗布や熱圧着で陥入させることで、複合体を得ることが可能だ。ここでは被着体として、極性が小さいためガラスや極性高分子とあまり相性の良くないスチレン-ブタジエン系の熱可塑性エラストマーが用いられた。
実際に複合化すると、多孔膜では光の散乱により表面が濁って見えるが、被着体を陥入させることにより、その孔が埋まり、透明化している様子を確認することが可能となる。こうして作製された複合構造体は、垂直引張試験において7MPa超の接合強度が確認された。これは、多孔層を含まない場合や、平坦な塗膜を作った場合のおよそ2倍の値となる。
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実際の多孔膜および複合体の様子。ここではスピンコートを用いて、溶液を塗布して多孔膜が形成された。塗膜の原子間力顕微鏡像からサブ〜数μmで孔径を制御できていることが確認できる。このときマイクロメートルスケールの孔により光が散乱されるため基材は白く濁って見えるが、ここに異なるポリマーを陥入させると、屈折率が近ければ透明な外観に変化する (出所:NIMSニュースリリースPDF)
このような高い耐久性が得られるメカニズムについて、シミュレーションによる調査が行われた。平坦面で2つの素材を貼り合わせた場合、わずかに引き伸ばしただけで界面にひずみが生じ、破断が容易に進むことが示された。
一方で、相互に陥入したPPA型の構造では、界面に沿った破断がそもそも起こりにくいため、各素材の部分的な断裂を伴いながら亀裂が進展する。こうした界面付近の力学的な耐久性は、孔径が小さい領域に柔軟でタフな素材をしっかりと陥入させた場合に最適化される。実際、孔径を系統的に変更した実験を行うことで、力学的な最適化が可能であることが確認された。
このような耐久性を高める機構は、真珠層など、自然界で見られる高耐久素材とも関連しており、複合材の耐久性を向上させる上で、接合層の構造化やその力学設計が重要であることが示されているとした。
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モデル計算と、PPAによって耐久性が向上する仕組み。(a)平坦な界面の場合。わずかな変形で界面に沿って破断する。(b)PPA界面の場合。界面に沿った破断が起こりにくく、材料の一部がちぎれるように破壊が進むため、より大きく変形しても破断しにくい (出所:NIMSニュースリリースPDF)
今回開発されたPPA接合技術は、材料ごとに個別の接着剤を開発する従来のアプローチから脱却し、多様な材料の組み合わせに対応できる汎用的な接合プラットフォームとなる可能性を秘めている。研究チームは現在、さらなる汎用性の拡張に向け、接合部の放熱性や電気的接続を阻害しない「導電性の付与」や、過酷な環境に耐えうる「高耐熱性ポリマーを用いた多孔アンカー層」の開発を進めているとした。
同技術の発展により、将来的には薄く、軽く、曲げられる次世代電子デバイスや、医療・介護現場で活躍するソフトロボットなど、ものづくりの設計自由度を広げる技術として寄与することをめざす。