これまで系外衛星は複数の候補が発見されているが、まだ確定には至っていない。そんな中、鹿児島大学はアルマ望遠鏡を用いた観測により、まだ観測例が非常に少ない、形成途上の系外惑星「PDS 70c」の周囲に存在するダストが円盤(ディスク)ではなく、輪状(ダストリング)に分布していることを、理論モデルによる研究で明らかにしたと9月4日に発表。このダストリングが、衛星の材料となり得ることを示している。

  • 理論モデルによるPDS 70cのアルマ望遠鏡多波長観測の再現のグラフ。Shibaike et al. (2026)より (出所:鹿児島大Webサイト)

    理論モデルによるPDS 70cのアルマ望遠鏡多波長観測の再現のグラフ。Shibaike et al. (2026)より (出所:鹿児島大Webサイト)

  • (左)アルマ望遠鏡によるPDS 70系のダスト熱放射観測 (Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Benisty et al.) (右)今回のダストリングモデルが予測するPDS 70cの周惑星円盤のダスト熱放射強度マップ。予想されるダストリングは、2040年代の本格稼働をめざす米国のngVLA望遠鏡によって明瞭に観測できることが期待されるとした (Credit:Shibaike et al.)(出所:鹿児島大Webサイト)

    (左)アルマ望遠鏡によるPDS 70系のダスト熱放射観測 (Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Benisty et al.) (右)今回のダストリングモデルが予測するPDS 70cの周惑星円盤のダスト熱放射強度マップ。予想されるダストリングは、2040年代の本格稼働をめざす米国のngVLA望遠鏡によって明瞭に観測できることが期待されるとした (Credit:Shibaike et al.)(出所:鹿児島大Webサイト)

同成果は、鹿児島大 理工学研究科 天の川銀河研究センターの芝池 諭人特任助教らの研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の論文誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

周惑星円盤に関する予想と、アルマ望遠鏡の観測結果の不一致のナゾ

系外惑星の発見により、惑星形成理論は大きく進展した。しかし、発見された系外惑星の大半はすでに形成が完了しており、形成過程そのものを観測することは、近年まで困難だった。

形成途中の恒星である若いTタウリ型星「PDS 70」は、「PDS 70b」および「PDS 70c」という2つの惑星を持つことが知られている。両惑星はいずれも、これまで10例ほどしか確認されていない形成途上の系外惑星だ。この2つの惑星は、太陽系の木星や土星と同様に多量の大気をまとった巨大ガス惑星であると考えられ、現在まさにこのガスを周囲の「原始惑星系円盤」から集積している最中にある。

特にPDS 70cは、電波領域のサブミリ・ミリ波でも検出された、唯一の形成中の系外惑星として知られる。この電波は、ガス集積中の惑星周囲にできる小さなガス円盤「周惑星円盤」に含まれるダストの熱放射だと考えられている。

近年、アルマ望遠鏡によって、このPDS 70cが複数の波長で検出され、その結果、周惑星円盤がサブミリ・ミリ波帯で「光学的に厚い」ことが示唆された。光学的に厚いとは、周惑星円盤内に反対側が見通せないほど大量のダストが存在することを意味する。

これまで、周惑星円盤内のダストは、円盤のガス抵抗を受けて角運動量を失い、惑星に向かって螺旋状に落下し(ドリフト現象)、周惑星円盤は光学的に薄くなると予測されていたため、観測結果はこれに反していた。そこで研究チームは今回、この謎の解明に挑むことにした。

今回の研究成果

今回の研究では、周惑星円盤内に光学的に厚いダストリングの存在が仮定された。PDS 70系は、原始惑星系円盤に大きなダストリングを保持していることから、この仮定が正しければ、その内部に位置するPDS 70cもまた、小さなダストリングを持つことになる。

まず、ダストリングの簡易モデルを作成し、従来の「ドリフトモデル」と共に、典型的なパラメータでの周惑星円盤全体からの「フラックス密度」の波長依存性が調べられた。なお、ここでのフラックス密度とは、単位時間に単位面積を通過する電磁波の単位振動数あたりのエネルギーを指す。計算の結果、ドリフトモデルではアルマ望遠鏡の多波長観測結果を再現できないが、ダストリングモデルでは再現可能であることが確かめられた。

次に、実際にはPDS 70cの多くの物理量が不明であるため、各種パラメータに幅広い値を与えた計算が行われた。観測結果との比較の結果、ドリフトモデルでは、周惑星円盤が光学的に厚くなる条件が非常に厳しいことが示された。つまり、ダストが次々と惑星に落下してしまう状況で円盤を光学的に厚くするには、大量のダストを周惑星円盤に供給し続ける必要があることが明らかにされた。

一方で、リングモデルでは、円盤全体にダストが満遍なく満たされているディスク状ではなく、円盤の一部の半径にのみ細くリング状にダストが集中し、その部分のみ光学的に厚くなれば良いため、円盤へのダスト供給量が少なくて済む。そして、アルマ望遠鏡では周惑星円盤を空間解像できないため、そのダストリングからの放射が十分に強ければ、円盤全体が光学的に厚いように「見える」とされた。結果、ドリフトモデルよりも容易に達成可能な条件で、観測結果を再現できることが示された。

  • パラメータを幅広い値で変動させた場合の、ドリフトモデルおよびリングモデルでのPDS 70c観測の再現。(左)ドリフトモデルによる観測値の再現。極端な状況を仮定しないと、観測値を再現できない。(右)リングモデルによる観測値の再現。多くの場合で観測値が再現され、ダストリングのダスト/ガス面密度比Zpeakが0.003以上であれば、観測再現の可能性があることが判明した。Shibaike et al. (2026)より (出所:鹿児島大Webサイト)

    パラメータを幅広い値で変動させた場合の、ドリフトモデルおよびリングモデルでのPDS 70c観測の再現。(左)ドリフトモデルによる観測値の再現。極端な状況を仮定しないと、観測値を再現できない。(右)リングモデルによる観測値の再現。多くの場合で観測値が再現され、ダストリングのダスト/ガス面密度比Zpeakが0.003以上であれば、観測再現の可能性があることが判明した。Shibaike et al. (2026)より (出所:鹿児島大Webサイト)

このようなダストリングが存在する可能性は、これまでの「衛星形成論」の文脈ではすでに予測されていた。木星のガリレオ衛星や、土星のタイタンなどの巨大衛星は、原始惑星系円盤のミニチュア版的に、周惑星円盤内でダストが集まって形成されたと考えられている。しかし、惑星へのダスト落下は、これら巨大衛星の形成過程でも障害と考えられていた。

そのため、研究者たちは、惑星に集積されるガスの流れを詳細に数値シミュレーションし、惑星から外に向かって流れるガス流や、周惑星円盤にできる溝がダスト落下を妨げ、結果としてダストリングが形成されると予測していたという。つまり、今回のPDS 70cの観測から示唆されたダストリングの存在は、これまでのガス集積過程の数値シミュレーション結果を支持するものとなる。さらに今回の研究では、観測を再現するようなダストリングは、その後の衛星形成につながるほど十分に、ダストを集めている可能性を示す形となった。

なお、日本も参加を検討している次世代の大型電波望遠鏡プロジェクトとして、合計263台のパラボラアンテナを北米全域に分散設置し、超長基線電波干渉計(VLBI)を用いて最大口径が約9000kmに相当する巨大な電波望遠鏡(電波干渉計)を実現する「ngVLA望遠鏡」計画が、2040年代からの本格運用をめざして進められている。今回の研究で予測されたダストリングは、このngVLA望遠鏡であれば、明瞭に観測できることが期待されることも確認された。

今回の研究は、周惑星円盤内にダストリングが存在することを仮定することで、アルマ望遠鏡によるPDS 70cの多波長観測の結果を再現することに成功した。これは、惑星形成論において重要な惑星の「ガス集積」過程に制約を加えるだけでなく、その後の周惑星円盤内における衛星形成の可能性も示唆する、非常に重要な研究成果だとしている。