大阪大学(阪大)、東北大学、芝浦工業大学(芝浦工大)、東京理科大学(理科大)の4者は7月9日、日本主導のX線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」と、米国航空宇宙局(NASA)のX線天文衛星「NuSTAR(ニュースター)」を用いて、超大質量ブラックホール(SMBH)近傍の降着円盤の構造が時間変化する様子を捉え、一般相対性理論の予言の1つである「レンズ・ティリング歳差運動」として説明できることを明らかにしたと共同で発表した。

  • Resolveと日本のかつてのX線天文衛星「すざく」のX線スペクトル

    Resolve(黒)と日本のかつてのX線天文衛星「すざく」(灰色)のX線スペクトル。エネルギー6keV付近で、遠くを比較的ゆっくりと動いているガスからの細い特性X線(青線)に加え、降着円盤からの広がった成分(オレンジ線)が、Resolveによって綺麗に分離されている。(右上挿図)SMBH近傍から出たX線が降着円盤や遠方のガスに当たり、特性X線が出るパスを示した図。(出所:阪大Webサイト)

同成果は、阪大大学院 理学研究科の川室太希助教、東北大 学際科学フロンティア研究所の山田智史助教、東北大大学院 理学研究科の野田博文准教授、阪大 理学研究科宇宙地球科学専攻の井上芳幸准教授(現・芝浦工大 システム理工学部 教授(高エネルギー宇宙物理研究室))、理科大 創域理工学部 先端物理学科の小川翔司助教、福岡教育大学 教育学部 理科教育研究ユニットの水本岬希准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の論文誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

“銀河最深部”の動きをX線で追跡!

太陽の数百万倍から100億倍の質量を持つSMBHが、どのようにしてその巨大な質量を獲得したのかは未解明である。この謎を解き明かすには、SMBH近傍での物質の運動と、それが飲み込まれていく過程を理解する必要がある。しかし、SMBH近傍での物質の運動は、一般相対性理論が予言する強い重力や時空の効果が大きく影響する。つまり、SMBHの成長の仕組みを理解するには、一般相対性理論の効果も含めた上で近傍物質の動きを知ることが不可欠だ。

その鍵となるのが、鉄原子から放たれる「特性X線」だ。SMBHへと落ち込む過程で、降着円盤内のガスは極めて高温になる。その際に放たれる強いX線が周囲の物質中の鉄原子を照らすことで放出されるのが、特性X線である。降着円盤の回転によって領域ごとにドップラー効果が働き、重力や物質の動きもあって特性X線のエネルギーは変化する。その変化を正確に計測することで、SMBH周囲の物質の運動を調べられるようになる。特に、特性X線の低いエネルギー側に広がった成分は、SMBH近傍を高速回転するガスから出た光が、強い重力やドップラー効果によってゆがめられたものとされる。このような成分を詳細に調べれば、降着円盤の構造を探れる可能性がある。

しかし、SMBHから比較的遠方のガスからも特性X線が放たれ、近傍からの信号と混ざってしまうため、ゆがんだ特性X線だけを計測するのは容易ではない点が課題だ。そこに登場したのが、X線エネルギーを極めて詳細に計測できる、XRISM搭載のX線分光装置「Resolve(リゾルブ)」である。同装置であれば、SMBHから離れたゆっくりと動く物質から出る細い特性X線と、近傍の物質から出る広がった特性X線を分離して調べることが可能だ。これにより、従来は見分けるのが困難だった降着円盤の構造を、より詳しく調べられるようになった。

ただし、Resolveをもってしても、数日程度の観測では降着円盤の時間変化を追うのは難しい。多くの銀河中心に位置するSMBHは巨大な質量を持ち、降着円盤の構造が変化するには時間を要するためだ。そこで研究チームは今回、銀河「NGC 4395」に着目。同銀河のSMBHは小質量であり、太陽の約1万~10万倍と見積もられている。つまり、数日の観測でもSMBH近傍の動きを追える可能性がある。そこで今回の観測では、XRISMと、より高いエネルギーのX線を観測できるNuSTARを連携させ、NGC4395を約5日間にわたって観測することにしたという。

XRISMとNuSTARの連携観測は2024年11月に実施され、SMBH近傍から届くX線の全体像の詳細が捉えられた。まず、鉄の特性X線のエネルギー分布が詳しく分析された。その結果、遠方の比較的ゆっくりと動く物質から出たと考えられるX線に加えて、低エネルギー側に広がった成分が観測された。この広がった成分は、高速回転する降着円盤から放たれた光が、強い重力や高速運動の影響を受けてゆがんだものとしてよく説明できるとする。

さらに、特性X線の形状が時間変化していることも確認された。そして、降着円盤の内側がSMBHに接近している様子、さらに円盤の見かけの傾きが時間変化していることも捉えられた。その見かけの傾きには、約2.4日の周期的な変化の兆候も観測された。このような変化は、SMBHの自転が時空をも回転させており、その結果として傾いた円盤が振り回され、コマのように首振り運動をする「レンズ・ティリング歳差運動」で説明できることが明らかにされた。降着円盤からの鉄の特性X線の時間変化から、一般相対性理論が予言する「時空の引きずり」の効果による歳差運動で降着円盤が揺れ動く兆候が捉えられたのは世界初のことになる。

  • 鉄の特性X線の形状の約半日ごとの時間変化

    鉄の特性X線の形状の約半日ごとの時間変化。降着円盤からの広がった成分(オレンジ線)が観測期間中に刻々と変化している。オレンジ破線は、最初の約半日で観測された特性X線の形状を比較のために表示したもの。青色線は、遠くのゆっくりと動く構造からの特性X線。赤破線は、SMBH近傍からのX線放射が、周囲と相互作用せずに直接地球に届く成分。(出所:阪大Webサイト)

  • 鉄の特性X線から推測された降着円盤に対する見込み角の時間変化

    鉄の特性X線から推測された降着円盤に対する見込み角の時間変化。赤い線は、フィッティングされた約2.4日周期のサイン関数を示す。(出所:阪大Webサイト)

今回の成果は、SMBHが物質を飲み込み成長する現場を、一般相対性理論の効果も含めて理解するための重要な一歩とする。今後、降着円盤内のガスがどのようにSMBHへと流れ込み、その過程に歳差運動がどのような影響を及ぼしているのかについての理解が進むことが期待されるという。また、このような研究は、より長い時間スケールにわたるSMBHの質量成長を理解する上でも重要とされる。歳差運動を引き起こすSMBHの自転そのものは、過去にどのように物質を取り込んできたかによって変化すると考えられているため、歳差運動から自転速度を測定していくことで、SMBHの成長の歴史に関する理解が進むことが期待されるとしている。

  • 降着円盤の時間変化の模式図

    降着円盤の時間変化の模式図。SMBH周囲には降着円盤が存在し、特性X線を放つ。回転などにより、遠のく領域からのX線はより低エネルギーになり、逆に近づく領域からのX線はより高エネルギーになる。SMBHの自転軸(黒矢印)の周囲を降着円盤の回転軸(紫矢印)が回ることで、円盤の見え方が変わる。その結果、特性X線が広くなったり狭くなったりと変化する。(出所:阪大Webサイト)