法政大学、国立天文台(NAOJ)の両者は6月5日、これまで謎だった「連星」の形成メカニズムについて、NAOJが運用する天文学専用のスーパーコンピュータ「アテルイIII」などを用いてシミュレーションし、周囲から流れ込むガスと磁場の働きによって天体同士が接近していくという、新しい軌道進化のシナリオを共同で発表した。
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「アテルイIII」によって計算された連星周囲のガスの様子。青いガスは連星を取り囲む周連星円盤を、赤いガスは各々を取り囲む星周円盤を、2個の濃い灰色の球は連星の位置を、星から垂直に伸びる緑色の2対の構造は星から放出されるアウトフローまたはジェットを表す。アウトフローの芯に描かれているのは磁力線だ。(c)Matsumoto, Hotokezaka, Inayoshi 2026(出所:NAOJ CfCA Webサイト)
同成果は、法政大 人間環境学部の松本倫明教授、東大大学院 理学系研究科 附属ビッグバン宇宙国際研究センターの仏坂健太准教授、北京大学 カブリ天文天体物理研究所の稲吉恒平准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する旗艦論文誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載された。
太陽は単独星だが、宇宙には2つ以上の星が共通重心を中心に公転している連星系も数多く存在する。双子のように質量の近い星が至近距離で回る連星系も数多く発見されているが、その距離になるまでどのようにして接近したのかは未解明な点が多い。
この未解決問題は、多くの銀河の中心に存在すると考えられている、超大質量ブラックホール(SMBH)に関しても同様に存在する。2つの銀河が衝突・合体する際、SMBH同士も衝突・合体していると考えられるが、ある程度まで接近すると共通重心を中心とした安定した軌道で公転し始めてしまうため、最後の1パーセク(約3.26光年)をどのように接近しているのかがわかっていなかった。そのため、このSMBH同士の接近に関する謎は「ファイナル・パーセク問題」と呼ばれている。
ところが従来の研究では、連星周囲のガスは、場合によっては天体同士をむしろ引き離す方向に働く可能性も示されていた。そのため、「連星はどのようにして接近するのか」という問いは、星の誕生とSMBHの合体の両方に関わる重要な問題となっていた。そこで研究チームは今回、連星周囲に外側からガスが流れ込み続ける状況を考察し、さらに連星の周囲に存在する磁場の効果を取り入れた研究を行ったという。
磁場は宇宙では身近な存在だ。地球などの惑星には固有磁場があるし、太陽もプラズマの塊であるため、磁場は切っても切り離せない。このようにありふれた存在である磁場だが、ガスの流れを大きく変える重要な役割を果たす。特に、回転するガスの円盤では、磁場によってガスの動きが乱れたり、ガスの一部が上下方向に吹き出したりする。
これら複雑な現象を調べるため、今回の研究では、先代の「アテルイII」や現在運用中の「アテルイIII」などのスーパーコンピュータを用いて、三次元の大規模シミュレーションが実施された。計算では、2つの天体の動きだけでなく、その周囲にできるガス円盤、外から流れ込むガス、磁場、そして外へ吹き出すガスの流れが同時に追跡された。
アテルイIIやアテルイIIIの性能により、磁場によって乱れたガスの流れを精度よく計算することに成功したという。さらに、連星の間隔の200倍に及ぶ巨大空間の計算が実現し、吹き出すガスの流れの様子を現実に近い形でシミュレーションできたとした。
「アテルイIII」による連星周囲のガスのシミュレーション動画。前半は連星付近が拡大表示され、後半は計算領域全体が表示される。周連星円盤に垂直に伸びるアウトフローが、回転の勢い(角運動量)を遠くに運んでいる様子が映し出されている。(出所:YouTube国立天文台天文シミュレーションプロジェクト(CfCA)公式チャンネル)
従来は、計算資源の制約や技術的な困難さから、磁場の効果を取り入れない計算が主流だった。しかし近年は、スパコンの性能が向上したことで、磁場も含めたシミュレーションが行われるようになり、それまでとは異なる成果が出ている。今回も、連星周囲へ流れ込むガスの運動と磁場の効果を同時に取り入れることができたことが大きな特色としている。
そしてシミュレーションの結果、磁場の効果を入れた場合には、2つの天体の間隔が少しずつ縮んでいくことが判明。連星周囲のガス円盤には渦巻き構造の他に、磁場によって乱れたガスの流れが生じることが明らかにされた。さらに、磁場に沿うようにガスが上下方向へ吹き出すアウトフローも確認された。これらの働きによって、連星が持っていた回転の勢いが外側へ運び去られ、2つの天体が接近することが突き止められたのである。
一方、磁場の効果を入れない計算では、2つの天体の間隔はむしろ広がったという。今回の計算では、磁場がある場合、連星の距離は1周するごとに約0.3~0.7%の割合で縮むことが確かめられた。一見小さな変化だが、宇宙の長い時間の中では決定的な違いを生む。
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連星軌道の進化。磁場がない場合には、連星の軌道長半径は増加する(連星が離れる)。磁場があると、軌道長半径は減少する(連星が近づく)。(c)Matsumoto, Hotokezaka, Inayoshi 2026(出所:NAOJ CfCA Webサイト)
今回の研究では、外から流れ込むガスと磁場を同時に考えることで、連星が接近するという新たなシナリオが描き出された。これは、SMBH連星にも応用可能だという。近い双子星がどのようなメカニズムで形成されるのか、またSMBH連星がどのようにして合体へ向かうのかを理解する上で、新しい手がかりになるとした。
これにより、通常の連星とSMBH連星という、一見まったく異なる2種類の天体を、同じ物理の仕組みで理解できる可能性が示された。今後は、より長時間の計算や、多様な条件でのシミュレーションを実施することで、この仕組みがどのような環境でどれほど有効に働くのかを解明する必要があるとする。
また、SMBH連星が合体すると、非常に低い周波数の重力波が発生する。近年、その重力波を探る観測が進んでおり、今回の研究で示されたようなガスと磁場による軌道の縮小は、将来の重力波観測を解釈する上でも重要になる可能性があるとのこと。連星がどのように接近し、最終的に合体へ向かうのかを解明することは、星の誕生から銀河の進化まで、宇宙の多様な階層をつなぐ重要な課題としている。