この半導体ニュースのまとめ
・ルネサスは「Capital Market Day 2026」で、AIを軸にした3段ロケット型の成長戦略を提示
・向こう数年はAIインフラとコンピュート、2030年以降はフィジカルAI/SDV、その先はインテリジェンス・アット・ザ・エッジを成長ドライバと位置付けた
・ハードウェアとソフトウェアのコデザイン、デジタルスレッド、オープンなプラットフォームを強化し、プロダクト会社からプラットフォーム会社への転換を進める
AIを軸に「3段ロケット」で成長を狙う
ルネサス エレクトロニクスは6月25日、投資家向け説明会「Capital Market Day 2026」を開催した。同社の代表執行役社長兼CEOである柴田英利氏は冒頭、CEO就任以降の7年間を大きく「3×」「25%」「Top 3」の3つに分け、現状の分析を説明した。3×については、CEO就任当時の2019年から現在の2026年にかけて売上高は2.1倍、EBITDAは3.0倍、時価総額が8.7倍(就任前日の値と2026年6月19日の段階を比較)になったと振り返った。ちなみに2026年の売上高が1.5兆円超としているが、これは第1四半期の実績と第2四半期のガイダンスの数値を単純に足して残りの2四半期分として2倍にしたもので、実際の同社の通期売上高見通しではない点に注意が必要である。ただし「足元の需要は非常に好調であり、トラブルがなければ数字としては強い展開が今年は十分に期待できるのではないかと考えている」と、これ以上の売上高になる可能性も示唆し、今後はAIを中心とした複数段階の成長シナリオで、長期的にトップ3を視野に入れる考えを示した。
同社が示した成長の時間軸は明確だ。まず今後3~4年についてはAIとITのインフラが成長のけん引役となり、「順調にいけば全社の売り上げの4割くらいを占める」とのことで、そのためのデバイスソリューションを提供していくということが第一の成長エンジンだとする。
そこから「2段ロケットに点火」と同氏が表現するのが「フィジカルAI」への対応。同社の場合、SDVも含むことになるが、そうしたフィジカルAI領域が第2弾のセットとなって、2030年以降の成長をけん引する役割を担うとしており、「第一段階がAIのイネーブルメントだったのに対し、この領域はAIのディベロップメント」(同)と表現し、人々の生活の近いところにAIを提供していくということが成長のロケットとなるとする。
そしてロケットの3段階目が、2035年ころを見据えた「デジタライゼーションビジョン」の存在を踏まえた「Intelligence at the Edge」。デジタライゼーションビジョンは、ハードウェアの性能をフルに活用するためにソフトウェアの使い勝手を向上し、半導体設計から半導体製造、そして半導体が駆動するエレクトロニクスのサブシステムまでつなげるためのソフトウェアの活用を目指そうというもの。そのため、同社はAltiumやPictorusといったソフトウェアベンダの買収を推進。ユーザーエクスペリエンス(UX)の向上まで含めて、ハードウェアを労力をかけずに使いこなす世の中にすることを目指している。自社での活用から、市場の拡大を図っていくことでソフトウェアの売り上げを拡大させていくことを目指しており、同社CFOの新開崇平氏によると、将来的な売上構成として、自動車35%、IoT50%、ソフトウェア15%とすることを目指しており、ハード偏重ではない収益構造へと進化していくことを目指していることを強調する。
今後の数年はAIインフラ需要が牽引、AI関連売上は4割規模へ
AIインフラとコンピューティングについて柴田氏は、これまでルネサスがどちらかといえば電力供給系で存在感を示してきた一方、足元ではGPU向け電源一辺倒から、より複雑でヘテロジニアスな計算基盤を最適化する方向へ市場が移りつつあり、需要もMPUやコントロールプレーン関連が高まりを見せてきているとする。
こうした従来の電源のほか、MPU、コントロールプレーンを新たな機会とし、既存のパワーデリバリやメモリインタフェースの強みに加え、GreenPAKやMCU、ESS(Energy Storage Systems)、SST(Solid State Transformer:半導体変圧器)、サイドカー/ラック、ボード領域といった上流・周辺へ広げていく方針だ。柴田氏は、向こう数年で全社売り上げの4割ほどがAIインフラに関わる領域になるとの見通しも示した。
2030年以降はフィジカルAIとSDVに期待
一方、2030年以降のエンジンとするフィジカルAIとSDVについてルネサスは、市場機会として2025年から2030年にかけて5倍、2035年に向けて15倍というTAM拡大イメージを示し、自動車が先行し、その先をロボティクスが引っ張る構図を描く。もとよりマイコンを中心に存在感を発揮してきた領域だが、SDVに進む自動車業界の延長線上にロボティクスの市場成長を見据える。
「ローエンドから2000TOPSくらいのハイエンドコンピュートまでスケーラブルに展開できている数少ない企業の1社であり、クルマやロボットなどでハイパフォーマンスなことができることを見てもらいたい」(同)とし、実際に顧客からの反応も良く、先週もドイツで大きな商談をしていたことを明らかにした。
また、IT領域とは異なる時間軸で動いている領域であり、ようやく最近になって組み込み分野で「Transformer」を用いたアプリケーションの開発が盛んになってきているとし、ヒューマノイドロボットにさまざまな機能が実際にデプロイされるようになるのも相応の時間がかかると見て、現実的な時間軸としては2030年以降に到来するとの予測のもとに準備を進めているとする。
第3の柱となるIntelligence at the Edge
さらに、現在のAIはあくまで確率をもとに回答を行っているため、ユーザー側がそれをもう1回、本当にあっているのかという検証をする必要性がある。「ただ、ここでデジタルスレッドがしっかりしているとデターミニスティック(確定的)な提案をAIができるようになり、検証をしないでそのまま使えるようになる。そうなるにはかなり大きなギャップがある話だと考えているが、その実現のために今からしっかりとした投資を進めている」と説明。そうした中で勝っていくためにAIインフラ、フィジカルAI、そしてIntelligence at the Edgeそれぞれでしっかりと市場にマッチした取り組みを推進していくことを強調した。
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いわゆるエッジAI領域での成長。ハードウェアだけでは電力、性能、コストのバランスを取ることは難しく、その上で動くソフトまで含めて、システムとして設計できるようにしなければ、ハードウェアの性能を十二分に発揮することができないという考えから、現在同社はソフトポートフォリオの拡充を推進している
柴田氏は、「ハードウェアとソフトウェアのコデザイン」がキーワードだとし、AIモデルが急速に進化し、ハードウェアのプロセスも高度化する一方で、ハードウェアでうたった性能が顧客環境では十分に出ない事例が各所で起きていることを指摘。ルネサス独自の取り組みにより、ハードの性能を顧客が実際に引き出せる状態まで持っていきたい考えで、そのためにコアIP、非シリコン項目、顧客ユースケースとの密着、設計サイクル短縮を重要成功要因に据えた。
こうしたソフトウェア分野に対する取り組みとして同社は基盤整備としてUX、Altium、Renesas 365といった顧客接点の高度化、ソフトウェア/IT・AIインフラ/設計メソドロジーの整備、さらに組織面ではリーダーシップ育成やコラボレーション環境の刷新を進めるとする。プロダクトカンパニーからプラットフォームカンパニーへの転換を進める中で、同社のプラットフォームは「バーティカルでありながらホリゾンタルにオープン」であり、競合や受動部品メーカーも含めて使える環境にしていくことで、エレクトロニクスの自由化、民主化を実現したい考えも示した。
なお同氏は最後に、同社のパーパス「To Make Our Lives Easier」を引き合いに、AIとフィジカルAIが現実味を帯びる中で、人々の毎日を楽にするというビジョンがこれまで以上にリアルになってきたと説明。フィジカルAIを実現するための材料は多々有しており、そうした多くのソリューションを提供していくことにより成長を実現していくとし、デジタルプラットフォームの提供を通じて、今後、これまで以上にAIにとってフレンドリーなプラットフォームになっていくことを目指すとした。
AIを軸にした3段ロケット戦略は、ルネサスが単なる半導体ベンダではなく、AI時代のプラットフォーム企業へと変わろうとしていることを示すものと言える。






