NECは、2026年6月19日に神奈川県川崎市のNEC玉川ルネッサンスシティホールにおいて、第188期定時株主総会を開催した。同社 取締役 代表執行役社長兼CEOの森田隆之氏は、2025年度を最終年度とした「2025中期経営計画」の目標を達成するとともに、過去最高益を更新した成果を総括した。

NEC森田社長、AI時代の成長戦略 - BluStellarがけん引役

まず、森田氏は「2000年代初頭の業績低迷期以降、再成長に向けて事業の選択と集中を進め、実行力の改革に取り組んできた。継続的な変革の積み重ねが現在につながっている」と発言。

  • NEC 取締役 代表執行役社長兼CEOの森田隆之氏

    NEC 取締役 代表執行役社長兼CEOの森田隆之氏

同氏は「AIの本格展開や、それによる産業革命が生まれ、これまでの延長線上にはない新たな段階に移行している。AIによる社会変革と、新たな安全保障環境の時代が到来し、世界の秩序を変容させるとともに、脅威と機会が拡大している。NECはAI産業革命で、脅威よりも新たに創出される機会に着目している。AIを活用したシステム刷新、AIのためのデータ整備、AIプラットフォームの進化などが事業機会となり、フィジカルAIとして実社会にも広がることになる。こうした環境のなかでは、企業の優勝劣敗が進むことになるが、NECは勝ち抜く企業になる」と、力強く宣言した。

  • AI産業革命が本格化し、優勝劣敗が鮮明になるなかでNECは勝ち抜く企業になるという

    AI産業革命が本格化し、優勝劣敗が鮮明になるなかでNECは勝ち抜く企業になるという

そのうえで、森田氏は「NECはAIの社会実装と、新たな安全保障の技術実装を併せ持つ強みを最大限に生かしていく。AIの社会実装では、BluStellar(ブルーステラ)を軸に価値を生み出していく。新たな安全保障の技術実装では、海底ケーブル、宇宙、通信、サイバーを横断する知見を持つ稀有な企業として、積み重ねてきた実績をもとに価値を拡大する」との方針を述べた。

BluStellarは2030年度に売上高1兆3000億円、営業利益率25%を目指し、ITサービス全体の成長を牽引することになる。そして、企業の経営課題やDXの推進テーマに対し、解決への具体的な道筋と成功パターンを体系化した「BluStellar Scenario」のすべてに対し、AIを適用する計画も改めて強調した。

  • BluStellarは2030年度に売上高1兆3000億円、営業利益率25%を計画

    BluStellarは2030年度に売上高1兆3000億円、営業利益率25%を計画

AI活用の具体的な事例

説明のなかでは、いくつかの事例について紹介した。ダンロップとは2020年からAIを活用したR&D(研究開発)での共創活動を推進。研究開発のテーマ設定から、NECの研究開発者が伴走するとともに、新材料の探索ではAIエージェントを活用することで探索時間を60~70%削減したという。プレミアムタイヤの最適な材料配合予測では、疑似量子アニーリングの活用により、導出時間を95%削減したとのことだ。

また、サイバーセキュリティ関連では、2026年4月に発足した地域金融機関向けサイバーセキュリティ共同センターを通じて、包括的なサイバーセキュリティサービスを提供する。加えて、金融機関のユーザー同士がノウハウを共有することで対策の高度化に貢献し、社会全体のセキュリティ水準の底上げに寄与することができる意気込みを示す。

さらに、防衛関連では政府方針に則った装備移転の事例について触れ、2026年4月にオーストラリア政府に対して、護衛艦向け防衛装備品の提供契約を結び、水上艦ソナー、複合空中線など、9種類の装備を提供することになる。

他方、NEC自身が「AIネイティブカンパニー」になることを強調。経営コックピットを通じて全社の経営指標を可視化し、意思決定のスピードを向上させていること、森田氏の思考を学習した社長AIが経営者の視点で、社員にアドバイスを行っていることなどをビデオで紹介した。

  • NECではAIネイティブカンパニーを目指している

    NECではAIネイティブカンパニーを目指している

事業ポートフォリオ戦略については、事業効果が出る領域を明確に定め、集中した買収を推進する一方で、集中領域から外れた領域についてはタイムリーに事業整理を行う姿勢を継続する考えを示した。

森田氏は「NECの強みを生かす事業の整備と強化を徹底していく。AIによる社会変革と新たな安全保障環境が重なり合う時代において、NECは変革を加速する」と強調していた。

Anthropicとの連携とマルチアライアンス戦略の狙い

株主からの事前質問に対しては、NEC 取締役 代表執行役 副社長兼CFOの雨宮邦和氏が回答。そのなかで、Anthropicとの提携について以下のように話した。

「競合他社と比べて、より強い関係となるグローバルパートナーシップを締結しており、この提携が、NECのAI戦略にとって重要な柱になる。LLM(大規模言語モデル)は、Anthropicを含む複数の企業と等距離で協業するが、業界特化型モデルや社内活用領域では、Anthropicとの連携を進め、開発効率の向上や標準化を強化する。金融、製造、公共分野での高付加価値ソリューションの提供を拡大し、スピード感を持った実装力で、顧客の期待に応える」(雨宮氏)

同社のアライアンス戦略に関して、NEC 執行役 副社長兼COOの吉崎敏文氏は「先日、2026年度の戦略アライアンスについて社内決定をした。クラウドはAWS(Amazon Web Services)、マイクロソフト、AIではAnthropic、OpenAI、ミドルウェアではレッドハット、HPE、SaaSではSalesforce、ServiceNowとの連携強化がビジネス、将来性、技術補完性があると考えている」と紹介した。

森田氏によると、Anthropicは日本の商習慣や既存システムに対するノウハウ、ナレッジの部分を、NECに依存したいという狙いがあると指摘。同氏は「NECはテクノロジーが最高の武器ではあるが、現在は1社のテクノロジーだけではサービスや商品を実現できない。世界トップのビッグテックや先進的なベンチャー企業との複層的なアライアンスを結ぶ必要がある」との認識だ。

同氏は技術的な相互関係だけでなく、パーソナルな関係も重要であることから、年に数回は企業のトップと直接会ったり、電話でさまざまな話ができたりする関係を構築しているという。結果としてサプライチェーンが厳しいなかでも、NECに対して優先的に供給してもらえるようになっているとのことだ。

たとえば、マイクロソフトとの関係では、Azureを世界最大規模で利用するだけでなく、海底ケーブルや通信、データセンター向け技術を提供したり、活用で得たナレッジをマイクロソフトにフィードバックしたりといった関係が構築されている。そして、ビッグテックやベンチャー企業の技術を、BluStellarに織り込んで提供している点も強調していた。

量子技術・人材育成・顔認証

量子コンピュータへの取り組みについては、NEDOの国家研究プロジェクトに参画していること、短期的には量子アニーリングの原理を用いた組み合わせ最適化技術を自社ソリューションに実装し、業務効率化や新たな価値の創出で成果が出ていることを示す。中長期では、量子コンピュータの実用化に向けた産業界との連携や国際標準化に注力し、持続的な技術革新と事業化を目指している。

AIとDX人材の育成に関しては、BluStellar Academy for DXを中心にDX人材を育成。さらに、社内で有効性を実証した研修プログラムを社外にも展開し、リスキリングやオンライン学習の機会を提供している。NECグループ全体で、人材基盤の強化に取り組み、デジタル時代にふさわしい人材育成と持続的成長を実現するとした。

同社が得意とする顔認証について森田氏は「技術には色がついていない。正しい使い方をコントロールできるようにしている。NECが倫理を示して売り先や使い方をコントロールし、各国のレギュレーションに則って提供している。従来はサービス提供側が情報を持つ中央型だったが、これでは個人情報漏洩のリスクが高い。Face VCは個人が情報の使途を知ることができるようになり、分散型の環境を実現できる。現在、みずほフィナンシャルグループと連携し、実証実験を行っており、世界に普及させていきたいと考えている。NECは、人権保護と技術の正しい使い方を最も重視している」と語った。

さらに、国際回線の99%は海底ケーブルによるものであり、NECは世界で25%のシェアを持つ。Starlinkをはじめとした衛星通信が注目を集めており、有事の発生時や災害発生時には有効であるが、安定的なサービスを提供する場合には、海底ケーブルの有用性が高く、こうした状況はこれからも変わらないようだ。

森田氏は「海底ケーブルの建設ラッシュとなっており、年間2000億円以上の受注額がある。サイバーセキュリティの観点では、海底ケーブルを通るデータが窃取したり、システムを停止させる命令を通したりといった課題も生まれている。2026年6月には、英国BAE Systemsとの協業を発表し、根本から防ぐ対応を進めている」と説明した。

AIリスクと主権の重要性、企業に求められる新たなガバナンス

一方、森田氏は「NECの売上構成比のなかでは、ソフトウェアやクラウドの比率が高まっていく傾向にある。ハードウェア単体の比率は減少し、ハードウェアの標準化も進んでいる。IT領域ではこの傾向がますます進むだろう。しかし、防衛、宇宙、海底ケーブルといった安全保障分野では、特殊品や国産化などに対するニーズが高まっており、拠点の拡張などにも取り組んでいる。NECグループ全体でのハードウェアの売上高は7000~8000億円程度である」とした。逆算するとハードウェア比率は22%程度になる。

  • 森田氏

    森田氏

そして、同氏はSaaS is Dead(SaaSの死)にも言及。これまでのAIはツールとして、個人の生産性を高めるために使われていたが、今後は業務のなかに入って使われるようになり、既存システムや各種情報とのインタラクションが必要になると示唆した。

また、AIは必ず正しいことを言うとは限らず、法制度や企業のルールに合致した形で提供することも必要になり、個人の利用から、部門での利用、企業での利用、企業間での利用という形に広がると、求められる要件が複雑になると指摘。同時に、企業が持っているノウハウ、ナレッジを外部に出さずに、AIで活用できるようにするかということも重要との見立てだ。

そのうえで、森田氏は「システムの脆弱性を見つけるAIによって、全体を裸にしてしまうことに対する危険性も捉えなくてはならない。どういう形でAIを使うのかを考え、主権性を持ってAIを使っていく必要がある。そのためのノウハウ、ナレッジ、技術力が必要であり、これを業務・業界ごとにどれだけ速く、深く提供できるかが勝負になる。NECにとってはこれから1~2年が勝負であり、そこには大きなチャンスがあると考えている」と展望を示した。

さらに、AI創薬への取り組みが、従来は研究開発部門の担当であったが、ITサービス部門へと移行し、事業化に乗り出していることにも触れた。なお、場所の定めのない株主総会であるバーチャルオンリー株主総会を開催することを可能にする定款の一部変更を行う第1号議案、取締役10人選任の第2号議案はいずれも可決した。所要時間は1時間41分で、会場への参加株主は302人。前年の180人から大きく増加した。