『わたしの「対話人生」』国際社会経済研究所理事長・藤沢久美 AI時代の若手育成

AI(人工知能)ネイティブな組織のあり方について、経営者と対話する機会が増えた。企業がAIを積極的に導入し、業務や事業そのものを変革していくと、人の仕事はどう変わるのか。

 多くの経営者から聞かれるのは、日々の業務の相当部分をAIが担い、人は問いを立て、指示を出し、AIの答えを評価し、最後に責任を取るようになるという見方だ。そこで浮上するのが、若手をどう育てるのかという問題である。問いを立て、指示し、評価できる人材なしに、変革は進まない。

 これまで若手は実務を自ら経験し、試行錯誤することで仕事の本質を学んできた。その部分を最初からAIが担ったとしたら、将来、AIの仕事を評価し、よりよくする人はどう育つのだろうか。

 先日、トヨタの工場で鍛造ラインを視察した。量産ラインは機械化されている一方、少量生産の部品などでは、手作業による鍛造が今も残されている。鍛造の本質を人が学び、理解するためにも重要なのだという。

 かつて新たな鍛造ラインを立ち上げた際にも、中心となったのは、一連の工程を自ら担える人たちだったという。新しい取り組みに疑問の声もあった。しかし彼らには、いざとなれば自分たちの手でつくれるという自信があった。その自信が、未知の技術に挑む原動力にもなった。

 大切なのは、その力が非常時の備えにとどまらないことだ。仕事の本質を理解しているからこそ、日々ラインに工夫を加え、改善を重ねられる。機械を動かすだけでなく、機械の使い方や工程そのものを進化させていくのである。

 これはAIによる変革にも通じる。AIの答えの正しさを確認するだけでなく、問いの立て方や任せる仕事の範囲、仕事の進め方を見直し続ける。そのためにも、自ら手を動かし、仕事の原理を理解する力を育て続ける必要がある。

 だからといって、すべての若手に従来と同じ実務を経験させ続ける必要はない。問われるのは、AIに任せる仕事の中から、人が自ら経験すべき核心を見極めることである。

 例えば、自分で仮説を立て、AIの答えと比べ、違いの理由を先輩と考える。AIを使いながら判断力や改善する力を磨く学び方もあるはずだ。日々の仕事に埋め込まれていた学びを、意識して設計し直す。それも経営者の重要な仕事ではないだろうか。

 ものづくりの現場を訪れると、AI化で初めて生じたと思っていた課題が、機械化の時代から続く問いと重なることに気づく。AIネイティブな組織を考えるヒントは、最先端のAI企業だけにあるのではない。長年、機械と人との役割を考え続けてきた製造現場にもあるのだと思う。

【 370兆円の官民投資の虚像 】ABC経済研究所 代表エコノミスト・熊野英生