千葉大学、早稲田大学(早大)、筑波大学、広島大学の4者は6月16日、アルマ望遠鏡を用い、宇宙誕生から約7億~8億年後(約131億~130億年前)の初期宇宙に存在する銀河4天体から、典型的な星形成銀河内の冷たい中性ガスからの直接的な信号としては最遠方記録となる中性酸素の遠赤外線の輝線「[O I] 145μm」の検出に成功したと共同で発表した。

  • ビッグバンから約7~8億年後の初期宇宙に存在する銀河「A1689-zD1」

    (背景)ビッグバンから約7~8億年後の初期宇宙に存在する銀河「A1689-zD1」。(等高線およびスペクトル)アルマ望遠鏡による観測から検出された中性酸素からの輝線。(出所:千葉大プレスリリースPDF)

同成果は、千葉大 先進科学センターの札本佳伸特任助教、同・大栗真宗教授、早大 理工学術院 先進理工学部の井上昭雄教授、筑波大 数理物質系の橋本拓也助教、広島大 学術院 宇宙科学センターの稲見華恵准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の論文誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

“星の材料”をアルマ望遠鏡で観測

ビッグバン元素合成では、水素(全体の約4分の3)とヘリウム(約4分の1)、そして極めてわずかなリチウムが生成されたと考えられている。宇宙誕生から約38万年が経過して温度が十分に低下し、原子核が電子を捉えることで「宇宙の晴れ上がり」イベントが起きた。これにより、光が直進できるようになったことで全宇宙は星の光が1つもない真の暗闇に包まれたが、約1~2億年後に膨大な量の水素とヘリウムから第一世代の恒星「ファーストスター」が誕生すると、その強力な紫外線によって水素の電離が進行した。その結果、現在の宇宙では、銀河間空間に存在する水素の大半が水素イオン(H+)、つまり陽子として存在している。

一方のヘリウムも、ファーストスターの誕生に伴い、2つある電子の1つが剥ぎ取られていった(He+)。その後、超大質量ブラックホールが誕生してクェーサーが形成されると、そこから放射される高エネルギー紫外線やX線によって、もう1つの電子も剥ぎ取られて完全に電離し、銀河間空間に存在するヘリウムの大半はヘリウム原子核、つまりアルファ粒子として存在している。

これに対し、銀河内の星形成領域には電離していない水素を主体とする「中性ガス」が存在している。中性ガスが冷えて密集することで星は誕生するため、初期宇宙において銀河がどのように形成されたのかを解明するには、銀河を構成する星々の直接の材料である中性ガスの性質を詳細に把握する必要がある。

しかし、初期宇宙を調べるには、極めて遠方の宇宙を観測する必要があり、その光が膨大な時間をかけて地球まで届く間に、宇宙膨張で波長が引き伸ばされてしまう。天体から放射された時には紫外線や可視光線であっても、地球に届くころには赤外線に変化するため、初期宇宙を観測するには赤外線で宇宙を見る必要がある。そのため、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)では、優れた赤外線観測機器を複数搭載し、ハッブル宇宙望遠鏡では捉えられなかった遠方宇宙を観測し、大きな成果を挙げている。

だが、JWSTを含めた可視・近赤外線望遠鏡では、電離ガスや星そのものを観測することは可能だが、冷たい中性ガスを直接捉えることまでは叶わない。中性ガスを捉えるには、それが放つ電波を観測する必要があるため、アルマ望遠鏡のような電波望遠鏡が必要だ。しかし、これまで世界最高峰の性能を持つアルマ望遠鏡でも、初期宇宙の銀河に対する直接観測を実施した例は極めて稀だった。それでも研究チームは今回、アルマ望遠鏡を用いて、その困難な初期宇宙における銀河内の中性ガス観測を行ったという。

今回の観測では、「REBELS-38」、「A1689-zD1」、「REBELS-25」、「REBELS-18」という、宇宙誕生から約7億~8億年後の星形成銀河4天体が対象とされた。その結果、中性ガスの存在を示す輝線「[OI]145μm」が検出された。これまで、同輝線は初期宇宙の星形成銀河では観測例が存在せず、典型的な星形成銀河としては最遠方での検出例となった。

さらに、複数の輝線観測を組み合わせた解析の結果、これらの銀河は現在の「スターバースト銀河」に匹敵する高密度の中性ガスを持つことが解明された。初期宇宙の銀河は“星の材料が豊富に詰まった”星形成の現場だったのである。さらに、JWSTによる酸素組成比の測定結果と組み合わせることで、中性ガス質量の直接推定にも成功したとする。

なお、スターバーストとは、銀河内で通常を大きく上回るペースで爆発的な星形成が起こる現象のことを指す。銀河同士の衝突や合体によってガスが中心部へ集中することなどが主因と考えられており、その結果、多数の大質量星が誕生する。大質量星は寿命が短いため、数百万~数千万年の間に超新星爆発が相次いで発生し、強力な放射線や衝撃波によって銀河内のガスが加熱・飛散する。このような現象が進行している銀河をスターバースト銀河と呼ぶ。

また今回の研究では、電離した窒素が放つ遠赤外線の輝線「[N II]205μm」も観測され、複数の遠赤外線輝線が比較解析された。これまで広く観測されてきた、電離した炭素が放つ赤外線の輝線「[C II]158μm」は、中性ガスと電離ガスの両方から放射されうるため、その主な起源には曖昧さが残っていたという。しかし今回の観測との比較から、主に中性ガスから放射されていることが初めて直接的に検証された。これにより、蓄積されてきた[C II]観測データを中性ガスの研究に活かす道が開かれたとした。

今回の成果は、初期宇宙の銀河で星がどのように生まれ育ったのかを解明する上で、新たな観測の窓を開くものとしている。