理化学研究所(理研)、東京大学(東大)、米・テネシー大学、米・オークリッジ国立研究所(ORNL)の4者は5月28日、原子番号52の半金属テルルの同位体の内、これまで確認されていなかった、極短寿命の放射性同位体「104Te」のアルファ(α)崩壊を直接測定することに初めて成功し、その半減期が約7.2ナノ秒(ns)であることを共同で発表した。
同成果は、理研 仁科加速器科学研究センター RI物理研究部の西村俊二先任研究員、同・櫻井博儀部長、同・RIビーム分離生成装置チームの福田直樹技師、同・核構造研究部の郷慎太郎研究員(開拓研究所 上野核分光研究室兼務)、東大大学院 理学系研究科 附属原子核科学研究センターの横山輪助教、同・大学院 理学系研究科の北村徳隆助教、テネシー大のイアン・コックス研究員、同・ロバート・ジバチ教授、ORLNLのトビアス・キング研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、シュプリンガー・ネイチャー社が刊行する世界最高峰の総合学術誌「Nature」にオンライン掲載された。
α崩壊は、不安定な放射性同位体(原子核)がα粒子(ヘリウム原子核)を放出することで、原子番号が2つ小さい別の原子核へと核種変換する現象だ。α粒子は陽子2個と中性子2個が極めて強く結合しており、原子核内で独立した「クラスター」として形成される可能性がある。しかし、陽子と中性子がほぼ均一に分布していると考えられる重い原子核の内部で、どのようにα粒子が形成されるのかという根本的な仕組みは、今なお不明な点が多い。
この理解の鍵となるのが、原子番号50のスズの放射性同位体で「二重魔法核」を持つ「100Sn」である。原子核内の陽子または中性子がある一定数を持つ時、結合が強まることが知られており、その数は「魔法数」(2、8、20、28、50、82、126など)と呼ばれる。同じ放射性同位体でも、魔法数を持つ同位体は持たない同位体よりも寿命が長くなる傾向がある。
陽子と中性子が50個ずつの100Snの半減期は約1.1秒だが、これは陽子同士が反発しあう「クーロン力」(静電気の反発力)が、魔法数の安定化の力よりも上回るためだ。原子番号が増えるほど、原子核を安定させるには中性子を増やす必要があり、陽子50個に対し本来なら中性子は62個ないと安定同位体にはなれない。しかし、それでも二重魔法数は寿命に大きく寄与しており、この安定化効果なければ、寿命は何桁も短く一瞬で崩壊する可能性が高いとされている。
この100Snは、周辺核の芯となる可能性があり、特に104Te(陽子数52、中性子数52)は、100Snを芯とする特異な構造から、高確率でα粒子が形成される可能性が理論的に予測されていた。だが、104Teは極めて短寿命と予想されており、生成と識別が技術的に困難であり、これまで観測されていなかった。そこで研究チームは今回、比較的長寿命なキセノンの放射性同位体「108Xe」(陽子数54、中性子数54)を生成・識別し、その崩壊系列をたどることで104Teの同定を試みたという。
ただし、108Xeの生成自体も容易ではない。今回は、同じキセノンの放射性同位体「124Xe」(中整数70)を、ベリリウム唯一の安定同位体「9Be」(陽子数4、中性子数5)の厚さ6mmの標的に照射し、中性子のみ16個取り除く極めて希な反応が利用された。生成確率はわずか1000兆分の1であるため、これまでに成功例は存在しなかったという。さらに、極短時間で連続するα崩壊を確実に捉えるための検出技術の開発も不可欠だった。
実験では、理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー」(RIBF)を用いて約124時間(約5日)運転し、12個の108Xeを生成・同定することに成功。続いて、非常に短寿命のα崩壊を測定できる位置検出型崩壊検出器「LYSO検出器」により、打ち込まれた108Xeの到達時間と停止位置を測定し、同じ位置から放出されるα粒子を検出。その結果、108Xeは半減期約75マイクロ秒でα崩壊し、104Teへ変換されることが確認された。
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(上)RIBFとLYSO検出器の配置図。同検出器の周囲には、崩壊時に放出されるガンマ線を測定するためのLaBr3(Ce)検出器が配置されている。(下)毎秒約7500億個の124Xeを標的の9Beに照射し(1)、16個の中性子を剥ぎ取ることで108Xeを生成(2)。装置下流に輸送された108Xeが、連続的なα崩壊により104Teを経由して二重魔法核である100Snに至る過程の概要(3)。(出所:理研Webサイト)
さらに、生成された104Teが極短時間でα粒子を放出し、100Snへと変換する課程を観測することに成功。その半減期はわずか約7.2ナノ秒であり、基底状態からα崩壊する原子核として既知の中では最短寿命あることが突き止められた。
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核図表上で見る今回の変換過程と魔法数。124Xeから16個の中性子を剥ぎ取って108Xeを生成後、α崩壊を経て104Teが生成され、さらに約7.2nsでα崩壊して陽子・中性子共に魔法数である100Snへと至る。(出所:理研Webサイト)
また、原子核内でのα粒子の形成量を示すα粒子形成の強さを評価したところ、104Teは既知の全原子核中で最も強いことが判明した。これは、104Teが二重魔法核100Snに近接する構造を持つためと考えられるという。つまり、104Teの原子核は、二重魔法核100Snという特別な安定構造の周囲に、同様に強く結合したα粒子が付加されたクラスター構造を取ることが示された形だ。
今回の成果により、104Teが理論予測されていた「超許容α崩壊」の典型例であることが実験的に確認された。超許容α崩壊とは、原子核内部でのα粒子形成確率が非常に大きい場合に起こるα崩壊のことを指す。通常のα崩壊よりも崩壊確率が高く、寿命が極端に短くなるのが特徴だ。
今回の成果は、重い原子核内におけるα粒子形成という長年の謎に対し、重要な手掛かりを与えるものとなったとする。特に、原子核表面の低密度領域でα粒子が形成されるとする理論モデルの検証につながることが期待されるとした。
今後は、魔法数近傍の数多くの原子核について同様の測定を進めることで、αクラスター形成と原子核構造の体系的に理解が進む可能性があるという。これにより、原子核内におけるクラスター構造の普遍的な形成機構の解明が進むことが期待されるとしている。

