令和8年熊本地震など、各地で地震が相次ぐ中、物流倉庫の荷物を被災しないようにするための防震構法の開発に、金沢工業大学が産学連携で成功した。床に球体の人工骨材をまいた上に敷板を乗せ、後はパレット敷きの荷物を置けばよいという。球体の最適な大きさや摩擦力により、地震の際にほどよいタイミングで敷板がすべり、荷崩れを防ぐ。倉庫では建物の耐震化や免震化が進められてきたが、この構法により安価で荷物の安全確保と建物の損傷を低減する効果が得られる。今後、事業者と実証化に向けて研究を進めたいとしている。

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    球体の鉱石が摩擦力により揺れを低減する(山川産業提供)

金沢工業大学建築学部建築学科の山岸邦彰教授(耐震工学)は、経済合理性と事業継続の観点から建築構造のあり方に関する研究に取り組んできた。震災時に物流が止まると、その影響が様々な面に波及するため、物流倉庫は何としても「生かす」必要がある。

だが、物流倉庫は人が住む場所ではないため、常に低コストの対策を求められる。高額な免震装置の導入などは事業の採算性を左右するため、物流倉庫の耐震性の議論は後手に回りがちだ。近年、大型倉庫では免震が採用されるケースは多いが、中型以下の倉庫では一般的な耐震構造が多い。また、令和8年熊本地震では、市庁舎の免震装置が大きく変形するなど、免震といえども万能ではないことが明らかになってきている。

山岸教授は、2014年からより安価で免震並みの機能を持つ物流倉庫の実現に向けた研究を開始した。荷崩れや転倒を大幅に抑制することで建物の変形も低減する、荷物と建物の揺れ対策を一石二鳥で行う「スライド効果」を考案。効果を設計に反映させるには、積載荷重の大きな物流倉庫が適切と考えた。

しかし、スライド効果を実現するためのデバイスや素材作りが課題だった。地震に対してほどよく滑る物質を探していたところ、2018年に鋳物を作るときの型材として使われる人工骨材を販売するメーカーの商品が目に留まり、問い合わせた。その山川産業(兵庫県尼崎市)より、「エスパール」の商品名で呼ばれる球体の人工骨材のサンプルを無償で譲り受け、今回の研究が始まった。エスパールの素材はサファイアだ。純度が低いため、比較的安価に入手できる。

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    今回開発した球体の人工骨材を利用して、物流倉庫の荷物を守る仕組み(金沢工業大学提供)

山岸教授はエスパールと様々な敷板、床仕上げ材を組み合わせて、敷板が滑るタイミングを把握する実験を重ねた。その結果、床に50~425マイクロメートル(1マイクロは100万分の1)の粒径のものと敷板の組み合わせがスライド効果を発揮することが分かった。

 実際に地震を想定して揺らしてみると、震度5程度ではほぼ荷物は滑らなかった。震度6弱でも数ミリ~数センチメートルしか動かず、荷崩れが起きなかった。費用面でも、1平方メートル当たり数百円に収まり、「敷板のほうが高い」と山岸教授は苦笑いする。

 エスパールのメリットは、球体の大きさを変えることにより滑るタイミングを変化させることができること。フロアごとに最適な大きさのものを撒くことにより、スライド効果をより高めたり、敷板のすべり幅を調整したりすることができる。このように最適に調整された人工骨材を用いることにより、新築の物流倉庫の建設コストを下げることができ、既存の物流倉庫の耐震性を高め荷物の転倒リスクを低減させることができるという。

 ただし、2階建て以上の物流倉庫にしかスライド効果は生じないなど、留意点もある。今後は物流業界と共に実証実験を重ねて、より良いものを作りたいという。山岸教授は「導入コストは安いのに効果は免震並み。新しい構法に対して躊躇するかもしれないが、効果は折り紙付きだ」と話した。