休日の夜、スマホに表示される業務チャットの通知。「急ぎじゃないから週明けで」と一言添えれば配慮は十分──送る側がそう考えていたとしても、届く側が同じように感じているとは限りません。
今回のアンケート調査で時間外連絡を日常的に受け取っている人は52.7%、「控えてほしい」と思っている人は56.3%。しかしデータを管理職・非管理職で比べると、その間に小さくないギャップが存在していました。
【調査概要】
- 調査対象:マイナビニュース会員 501人(うちIT関連技術職150人)
- 調査期間:2026年5月8日~5月23日
- 調査方法:インターネットアンケート
時間外連絡を過半数が経験、過半数が拒否──それでもルールがない現実
まず、今回のアンケート調査の全体像を確認します。
「勤務時間外に仕事の連絡を受け取ることがあるか」という問いに対し、「よくある」(16.0%)と「ときどきある」(36.7%)の回答が合わせて52.7%に及びました。ビジネスパーソンの過半数が時間外連絡を日常的に受け取っています。
| 勤務時間外に仕事の連絡を受け取るか | 割合 |
|---|---|
| よくある | 16.0% |
| ときどきある | 36.7% |
| ほとんどない | 26.7% |
| まったくない | 20.6% |
では、受け取る側は勤務時間外の連絡をどう感じているのでしょうか。「原則として控えてほしい」が32.5%で最多、「できれば控えてほしい」の23.8%と合わせると56.3%が「控えてほしい」と回答しました。一方、「特に気にならない」は10.6%、「多少気になるが、許容できる」は27.5%で、許容派は合計38.1%にとどまります。
| 時間外連絡についての考え | 割合 |
|---|---|
| 特に気にならない | 10.6% |
| 多少気になるが、許容できる | 27.5% |
| できれば控えてほしい | 23.8% |
| 原則として控えてほしい | 32.5% |
| わからない・考えたことがない | 5.6% |
職場に時間外連絡に関するルールや文化はあるのでしょうか。「特にルールも文化もない」が50.5%で最多でした。「明文化されたルールがある」は11.2%にすぎず、「暗黙の了解として配慮する文化がある」の28.7%を含めても、何らかの規範を認識している人は約4割です。
| 職場のルール/文化 | 割合 |
|---|---|
| 明文化されたルールがある | 11.2% |
| 暗黙の了解として配慮する文化がある | 28.7% |
| 特にルールも文化もない | 50.5% |
| わからない | 9.6% |
過半数が「経験している」。過半数が「控えてほしい」と感じている。しかし、半数の職場にはルールすらない──困りごとが広く共有されていながら、対処は個人任せになっている状態が見えてきます。
アンケートの自由回答にも、時間外連絡からプライベートを犠牲にした人の声が届いていました。
「仕事から帰ってきたら電話がかかってきて職場にとんぼ返りした」(27歳/一般社員/IT関連技術職)
時間外連絡は管理職に集中していた──75.3%が示す構造
ここからは回答者の職位(管理職か非管理職か)に着目して調査結果の分析を進めます。回答者の職位構成は以下の通りです。
| 職位 | 割合 |
|---|---|
| 一般社員・スタッフ | 42.7% |
| 係長・主任クラス | 17.8% |
| 課長クラス | 16.2% |
| 部長クラス | 9.2% |
| 経営者・役員 | 8.6% |
| その他 | 5.6% |
回答者を管理職群(課長・部長・経営者/役員、n=170)と非管理職群(一般社員・係長/主任、n=303)に分けてクロス集計すると、受信傾向に決定的な差が現れます。
| 受信頻度 | 管理職(n=170) | 非管理職(n=303) | 差 |
|---|---|---|---|
| よくある | 28.2% | 10.2% | +18.0pt |
| ときどきある | 47.1% | 33.0% | +14.1pt |
| ほとんどない | 18.2% | 31.4% | −13.1pt |
| まったくない | 6.5% | 25.4% | −18.9pt |
管理職の4人に3人が少なくとも「ときどき」は時間外連絡を受け取っている一方、非管理職では半数にも達していません。管理職と非管理職の差は32ポイント超です。
送信側にも同じ構造があります。
| 送信頻度 | 管理職(n=170) | 非管理職(n=303) | 差 |
|---|---|---|---|
| よくある | 15.3% | 5.3% | +10.0pt |
| ときどきある | 31.8% | 25.1% | +6.7pt |
管理職は受信だけでなく送信でも非管理職を大きく上回っています。つまり、時間外連絡は「誰にでも等しく届く」のではなく、管理職に集中して発生しているのです。
管理職自身は、この状況をどう受け止めているのでしょうか。
「出世したら増えた」(44歳/課長/IT関連技術職)
「管理職は勤務時間外も含めて、必要なことは対応することが求められていると認識しています。」(55歳/課長/事務・企画・経営関連)
「やむを得ない」と受け入れつつも、世代間の意識変化を感じ取っている声も寄せられています。
「ある程度の役職に就けば、時間外の仕事は止むを得ないと思う。しかし、この考えが今の若者には通用しなくなってきている感じがする。」(46歳/部長/公共サービス関連)
管理職に時間外連絡が集中している構造は確認できました。では、管理職と非管理職は時間外連絡を同じように受け止めているのでしょうか。職位別に感じ方やルール認識を掘り下げると、同じ職場にいながら見えている景色がまるで違う──そんな断層が浮かび上がってきそうです。
「控えてほしい」非管理職の39.6%──管理職は許容が過半数
届く頻度だけでなく、時間外連絡に対する意識にも明確なギャップがあります。
非管理職では「原則として控えてほしい」が39.6%で最多を占め、「できれば控えてほしい」(22.4%)と合わせると62.0%が拒否的な姿勢を示しました。
一方、管理職では「多少気になるが、許容できる」が35.9%で最多です。「特に気にならない」(14.7%)と合わせた許容派は50.6%と過半数に達しました。「原則として控えてほしい」は19.4%にとどまっています。
| 意識 | 管理職(n=170) | 非管理職(n=303) | 差 |
|---|---|---|---|
| 特に気にならない | 14.7% | 7.9% | +6.8pt |
| 多少気になるが、許容できる | 35.9% | 24.8% | +11.1pt |
| できれば控えてほしい | 28.2% | 22.4% | +5.8pt |
| 原則として控えてほしい | 19.4% | 39.6% | −20.2pt |
「原則として控えてほしい」の差は約20ポイント。管理職にとって時間外連絡は「業務に伴うやむを得ないもの」として許容の閾値が高い一方、非管理職の6割が「控えてほしい」と感じているのに連絡は届き続けます。この意識ギャップが、時間外連絡をめぐる職場の不満の温床になっている可能性があります。
アンケートの自由回答には、この意識差を象徴する声がありました。
「正直、連絡するのもされるのも勘弁してほしいと思っている。」(32歳/一般社員/IT関連技術職)
「若い時は非常に嫌でしたが、慣れと立場が上がり気にならなくなってきました。良くないことは承知しています。」(44歳/課長/営業関連)
立場が変われば意識も変わる──しかし、そのこと自体が「立場の弱い側に我慢を強いる構造」を示しています。
控えてほしい、でも反応する──非管理職が耐える「我慢の構造」
意識と対応行動の乖離はデータにも表れています。
時間外連絡が来た場合に「何らかの形で確認する」と答えた割合を見ると、管理職の91.2%に対し非管理職は73.6%でした(すぐ確認・すぐ返信+すぐ確認・返信は後で+緊急のみ確認)。非管理職のほうが低率とはいえ、4人に3人近くが「届いたら確認する」行動を取っています。
| 対応行動 | 管理職(n=170) | 非管理職(n=303) | 差 |
|---|---|---|---|
| すぐ確認・すぐ返信 | 41.2% | 26.4% | +14.8pt |
| すぐ確認、返信は後で | 20.0% | 11.9% | +8.1pt |
| 緊急のみ確認、必要なら返信 | 30.0% | 35.3% | −5.3pt |
| 勤務時間まで触らない | 4.7% | 6.3% | −1.6pt |
| 連絡はほとんど来ない | 4.1% | 20.1% | −16.0pt |
ここで前章の集計結果を重ねてみましょう。非管理職の62.0%が「控えてほしい」と回答しているにもかかわらず、73.6%が届けば確認しており、意識と行動の乖離がより鮮明です。
自由回答にも、この葛藤がにじむ行動が描かれていました。
「teamsで時間外で連絡来ることがあるので、なるべく既読にならないようにメッセージを読む」(49歳/一般社員/事務・企画・経営関連)
「見ないわけにはいかない。でも反応したとは思われたくない」──この行動そのものが、「我慢の構造」を象徴しています。
管理職は「配慮あり」、非管理職は「ルールなし」のズレ
この構造が放置されている要因のひとつがルール認識の違いです。
「職場に時間外連絡に関するルールや文化はあるか」を聞くと、管理職では「明文化されたルールがある」(15.3%)と「暗黙の了解として配慮する文化がある」(37.1%)。両方を合わせた「規範あり」の認識が52.4%と過半数に達しました。
一方、非管理職では「特にルールも文化もない」が54.8%で過半数です。「規範あり」の認識は35.0%にとどまっています。
| ルール認識 | 管理職(n=170) | 非管理職(n=303) | 差 |
|---|---|---|---|
| 明文化されたルールがある | 15.3% | 8.9% | +6.4pt |
| 暗黙の了解として配慮する文化 | 37.1% | 26.1% | +11.0pt |
| 特にルールも文化もない | 44.1% | 54.8% | −10.7pt |
| わからない | 3.5% | 10.2% | −6.7pt |
このように管理職は「うちには配慮する文化がある」と認識し、非管理職は「特にルールはない」と感じています。管理職からすれば「緊急時以外は送らないよう配慮している」「返信は翌日でいいと一言添えている」といった"暗黙の了解"があるのかもしれません。
しかし、その配慮が非管理職に届いていない──あるいは、非管理職が求める水準と管理職が認識する配慮の間にギャップがある可能性をこのデータは示唆しています。
自由回答には、管理職が自分の配慮を具体的に語る声がありました。
「緊急の連絡の場合、早急に処理しなければならない連絡の場合のみすることがあるが、極力控えるよう徹底しています。緊急かどうかの判断を決定することも勉強の一つのうちであり能力になるかと思います」(53歳/課長/IT関連技術職)
こうした個人レベルの配慮は確かに存在しています。しかし、それが組織の「暗黙の了解」として機能しているかどうかは、受け取る側の認識を見なければわかりません。ルールが「ある」と認識している側と「ない」と感じている側──この距離が縮まらない限り、時間外連絡をめぐる不満は解消されにくいと考えられます。
数字の裏にある声と「つながらない権利」
ここまで各セクションでデータとともに個別の声を紹介してきましたが、最後にもう2つ、時間外連絡の今後を考えるうえで示唆的な自由記述を紹介します。
「お金が出るなら、喜んで対応するけど出ないので役職者か給料の多い人が対応すれば良いと思う」(32歳/一般社員/IT関連技術職)
「休日に返事を送ってくる人がまれにいるが,『つながらない権利』を行使してよいことを伝えている。」(46歳/一般社員/クリエイティブ関連)
「対価がなければ対応する義理はない」という経済的合理性の視点と、欧州で法制化が進む「つながらない権利(Right to Disconnect)」を職場で実践しようとする動き。いずれも、個人の我慢に頼る現状を変えるための異なるアプローチです。
まとめ:調査から見えた3つのこと
1. 時間外連絡は「職位の差」が大きかった
時間外連絡が「よくある」+「ときどきある」の合計は、管理職75.3%、非管理職43.2%で32ポイント超の差がありました。時間外連絡は全員に等しく届くのではなく、管理職に送信・受信ともに集中して発生しています。送信側も管理職47.1%、非管理職30.4%と同様の傾向です。
2. 非管理職の意識と行動に大きな乖離がある
非管理職の62.0%が「控えてほしい」と回答しながら、73.6%は届けば確認しています。6割が拒否的な意識を持ちながら4人に3人が反応している──この乖離が「不満のくすぶり」につながっている可能性があります。
3. ルール認識のズレが問題を見えにくくしている
管理職の52.4%が「規範あり」と認識する一方、非管理職の54.8%は「ルールなし」と感じています。立場によって見えている景色が異なり、このギャップが問題の可視化を阻んでいます。
時間外連絡の問題は、「連絡するな」と一律に禁止すれば解決するものではありません。しかし今回のデータは、管理職と非管理職の間に認識・意識・行動のすべてにおいてズレがあることを示しています。ツールを導入するだけでなく、「誰が、どの頻度で、どう感じているか」を組織として可視化すること──そこが対策の第一歩ではないでしょうか。こうした議論は、欧州で進む「つながらない権利」の考え方とも重なります。






