会社を出た後にSlackの通知音。「上司から、しかも自分がメンションされているメッセージだ……。対応するしかない」という人もいるだろう。このようなケースに対して、欧州では「つながらない権利」として業務時間ではないメッセージに対応しなくとも良いと、法制化されている国もある。最新の動きが英国だ。政府が法案を提出するなど、導入に向けて動きが始まっている。

最初に権利が法令化されたのは2016年のフランス

冒頭のようなシチュエーションは、ITの発達と浸透前には不可能だった。ネットワーク、スマートフォンなどのデバイス、そしてアプリが揃ったことで、いつでも・どこでも仕事ができ、連絡がつく状態になっている。

一方で、いつでも仕事ができてしまう、連絡がついてしまう。オフィスを出ても、リモートで業務時間が終わった後も、通知は届く。そこで、”つながらない権利”という考え方が生まれた。最初に法制化されたのはフランスで、2016年のことだ。その後、イタリアやスペイン、ベルギー、ポルトガル、アイルランドなどで導入されているとのこと。

ベルギーでは、従業員20人以上の企業はつながらない権利に関する協定を締結しなければならない。アイルランドでは雇用主に対し、従業員や労働組合と協議し、通常の勤務時間外にその従業員と連絡を取ることができる状況を定めて、つながらない権利の方針を策定することを求めているという。

BBCによると、英国政府は“スイッチオフできる権利”として、業務外の状態にある労働者をスイッチオフできることを明確にする。「自宅が24時間365日オフィス状態にならないようにするという。これにより、雇用主は従業員に対し、勤務時間外に業務上のやり取りをしたり、業務を要求したりすることはできなくなる。

興味深いのは、スイッチオフの権利を明確にする最大の理由(少なくとも表向きには)を生産性と経済成長にしていること。BBCは「仕事以外の時間に仕事を切り離す権利は生産性の鍵を握るものであり、英国の経済成長を後押しする」と説明している。

生産性の改善と経済成長に寄与する?

仕事が終わった後にはつながらないことが保証されることで、(1)生産性が改善し、(2)経済が成長すると推測していることになる。確かに、仕事が終わって一息という時に連絡が来ると、休んだ気にならない。次の日のコンディションに差し支えるだろう。

キア・スターマー英首相の副報道官は「優れた雇用主は、労働者が仕事へのモチベーションを維持しつつ、生産性を高めるためにはスイッチオフしなければならないこと、そして病気でも出社するような文化(プレゼンティズム)は生産性に悪い影響を及ぼす可能性があることを理解している。スイッチオフする権利により、仕事とプライベートの境界線を無意識のうちに曖昧にしないようにする」との見解だ。働くことと休むことをセットで考えていることが伺える。

休暇を大切にする欧州らしい考え方と言えばそうだろう。英国の有給休暇は、週の就労日×5.6日間と計算することになっており、通常1年で25日~28日になる。

日本では、つながらない権利に相当するような業務時間外のやり取りを拒否することを認める法はない。勤務時間外の対応は時間外労働として扱うことになり、一部の企業は連絡しない時間帯を設けるなど、自主的に取り組んでいる段階だ。

2020年のコロナ禍で広まったリモートにより柔軟な働き方が可能であることがわかった。次は、柔軟な働き方を雇用主と従業員が快く進めることができるためのルールづくりを進める段階だろう。英国のように、視点を生産性に変えることが鍵を握りそうだ。