TeamsやSlackの@メンションで『さん』を付けるか――職場でたびたび起きる小さな論争だ。「最近の若手はSNS感覚でフランクすぎる」「年配層はメール文化を引きずってマナーにうるさい」といった世代間ギャップを想像する人も多いだろう。しかし今回、ビジネスチャット利用者の実態を調査したところ、そんな思い込みを覆す傾向が見えてきた。
【調査概要】
- 調査対象:マイナビニュース会員のうち、TeamsやSlackなどのビジネスチャットを「日常的に使っている」「たまに使っている」と回答した271名
- 調査期間:2026年4月6日
- 属性分布(世代別):20〜30代(若手)47名、40〜50代(ベテラン)224名
- 属性分布(職種・業種別):IT関連職・業種59名、IT関連以外212名
TeamsやSlackのメンションに4割が「必ずさん付け」
今回のアンケート調査で「ビジネスチャットで相手に@メンションする際、『さん』を付けていますか」と尋ねたところ、最も多かったのは「必ず『さん』を付ける」で40.6%に上った。次いで「相手によって変える(25.1%)」、「付けない(表示名のまま送る)(21.8%)」と続く。
| 【設問】ビジネスチャットで@メンションする際、「さん」を付けていますか? | |
|---|---|
| 必ず「さん」を付ける | 40.6% |
| 相手によって付けたり付けなかったりする | 25.1% |
| 付けない(表示名のまま送る) | 21.8% |
| メンション機能を使わない | 12.5% |
若者は「さん付けしない派」なのか?
では、約2割存在する「付けない派」や、逆にきっちりとマナーを守る「必ず付ける派」は、どのような世代なのだろうか。20〜30代を「若手」、40〜50代を「ベテラン層」としてクロス集計を行ったところ、予想に反する事実が判明した。
「必ず『さん』を付ける」と回答した割合は、若手で40.4%、ベテラン層で40.6%とほぼ一致したのだ。また、「付けない」と回答した割合も、若手23.4%に対してベテラン層21.4%と、有意な差は見られなかった。少なくとも今回の調査範囲では、世代差は大きくないと言えそうだ。
| 【設問】ビジネスチャットで@メンションする際、「さん」を付けていますか? | ||
|---|---|---|
| 若手(20~39歳) | ベテラン(40~59歳) | |
| 必ず「さん」を付ける | 40.4% | 40.6% |
| 相手によって付けたり付けなかったりする | 27.7% | 24.6% |
| 付けない(表示名のまま送る) | 23.4% | 21.4% |
| メンション機能を使わない | 8.5% | 13.4% |
「さん付けなし」にイラッとする人は約3割
世代による違いがないのであれば、私たちはチャットの作法をどう捉えればいいのか。「メンションで『さん』を付けない相手からメッセージが届いた場合の感情」を聞いたところ、全体の71.2%が「寛容(気にならない・許容範囲)」と答えた一方で、28.8%が「やや失礼だと感じる」「失礼だと感じる」と回答した。
つまり、不用意に呼び捨てにすると、約3割の確率で相手を静かに不快にさせる「トラップ」が潜んでいることが示された。
| 【設問】「さん」を付けないメンションが届いた場合、どう感じますか? | |
|---|---|
| 特に気にならない | 47.2% |
| 少し気になるが許容範囲 | 24.0% |
| やや失礼だと感じる | 17.7% |
| 失礼だと感じる | 11.1% |
IT関連とIT関連以外の温度差
興味深いのは、この感情をIT関連の業種・職種(以下、IT界隈)と一般層(IT関連以外)で分けたときのデータだ。
さん付け無しに対して「特に気にならない」「少し気になるが許容範囲」と答えた「寛容派」の合計は、IT界隈で72.8%、一般層で70.8%と、実は業界間で大きな差は見られなかった。ただし、内訳を見るとIT界隈は「特に気にならない(完全にスルーできる)」層が過半数(52.5%)を占めており、一般層(45.8%)に比べて「よりドライに受け止めている」傾向はうかがえる。
受け手としての感情には決定的な差がないIT界隈と一般層だが、さらにデータを深掘りすると、業界の違いによる文化のギャップが浮かび上がってきそうだ。
| 【設問】「さん」を付けないメンションが届いた場合、どう感じますか? | ||
|---|---|---|
| IT界隈 | 一般層 | |
| 特に気にならない | 52.5% | 45.8% |
| 少し気になるが許容範囲 | 20.3% | 25.0% |
| やや失礼だと感じる | 18.6% | 17.5% |
| 失礼だと感じる | 8.5% | 11.8% |
TeamsやSlackで「さん付けしない」のはIT界隈の文化だった
結論から言えば、実際にTeamsやSlackなどのビジネスチャットで「さん」を付けていないクラスターは、若者ではなく「IT界隈」の人たちだった。
自身のメンションルールについて「付けない(表示名のまま送る)」と回答した割合は、一般層が19.3%だったのに対し、IT界隈では30.5%と約1.5倍に跳ね上がった。
| 【設問】ビジネスチャットで@メンションする際、「さん」を付けていますか? | ||
|---|---|---|
| IT界隈 | 一般層 | |
| 必ず「さん」を付ける | 30.5% | 43.4% |
| 相手によって付けたり付けなかったりする | 32.2% | 23.1% |
| 付けない(表示名のまま送る) | 30.5% | 19.3% |
| メンション機能を使わない | 6.8% | 14.2% |
IT界隈が「さん付け」をしない背景には、シリコンバレーから波及した「フラットな組織文化」や、スピードを重んじるアジャイル開発が影響した可能性がある。そもそも「@アカウント名」のメンション自体が明確な宛先指定として機能するため、テキストの簡潔さや効率を重視するエンジニア層を中心に、自然と敬称を省く習慣が定着していったのだろう。
相手によって「さん付け」する/しないの判断基準
では、省略派と「さん付け」派の間をとるような、「相手によって付けたり付けなかったりする」層は、一体何を基準に使い分けているのだろうか。該当する約68名に判断基準を聞いた結果が以下のグラフだ。
| 【設問】メンションで「さん」を付ける・付けないについて、気にしているポイントは?(複数回答可) | |
|---|---|
| 相手との関係性(親しさ) | 54.4% |
| 社内か社外か | 44.1% |
| 相手の役職や立場 | 39.7% |
| 周囲の人がどうしているか | 22.1% |
| チャットの公開範囲(1対1か、グループか) | 16.2% |
| 特に気にしていない | 11.8% |
| ※対象母数:「相手によって付けたり付けなかったりする」との回答者68名 | |
実際、グラフを見ると「社内外の関係性」や「相手の役職」といった指標が上位に挙がっている。このことからも、相手がフラットな文化を共有している内輪の人間かどうかが、無意識の判断基準になっている様子がうかがえる。
現場のリアルな声:文化の衝突、IT界隈にも守旧派
アンケートに寄せられた自由回答(生の声)を見ると、数字だけでは見えない現場の温度感や、世代・業界ごとの異なる文化が衝突する生々しい様子が伝わってくる。
効率・システム重視派の声
- 「わざわざ『さん』をつけるとそれだけ効率が落ちてしまうし、相手に対しても『さん』をつけないといけないと思わせてしまう。対面の時に敬意をもって『さん』をつければそれで十分」(32歳/食品/技能工・運輸・設備関連)
- 「メンション自体が固有名詞だからつける必要はない。拘ってる人はSNSに慣れてないのでは?」(51歳/建設コンサルタント/営業)
- 「さん付け呼びよりもスピードを重視しています」(42歳/ゲーム関連/クリエイティブ)
マナー・コミュニケーション重視派の声
- 「ビジネスチャットであれば相手に『さん』をつける癖をつけるといい。馬鹿丁寧と言われることはあるがクレームになった事はなく、マイナスには動かない」(38歳/建設・土木/IT関連技術職)
- 「やはり何事も相手を敬う気持ちが大切だから」(42歳/広告・出版/クリエイティブ)
- 「新入社員がさんをつけずに送り、注意されているのを見た」(48歳/その他/営業)
効率を求める「システム処理」としてのチャットと、人間関係を円滑にする「コミュニケーション」としてのチャット。この2つの文化が交差する職場で、不用意な省略は火種になりかねない。
空気を読む派の声
興味深いことに20代・30代からは「相手や周囲の空気に合わせる」という柔軟な声も多く見られた。
- 「相手がさんを付けてきたら付けるというイメージ。あまり周囲の人が付けていないので考えたことがなかった」(33歳/インターネット関連/IT関連技術職)
- 「基本的には付けるけれど、私が付けてメッセージし相手が付けずに返信してきたら外すようにしている」(36歳/輸送用機器/その他技術職)
IT界隈でも捉え方は人それぞれ
「IT界隈」であっても決して一枚岩ではない。若手エンジニアから「付ける意味はないと思う」(34歳/インターネット関連)というドライな声が上がる一方で、こんな本音を漏らすベテランもいる。
- 「自分より大きく年下で、立場もずっと下の仕事仲間からさん付け無しだと、気分的に納得できない思いがある」(57歳/サービス/IT関連)
このように、同じ業界内でも年齢や企業風土によっては保守的な感覚を持つ層も存在している。
相手の「文化」に合わせるのが最高のチャット術
「さん付け」の有無に絶対的な正解はない。今回のデータが示すのは、コミュニケーションのすれ違いは「世代」ではなく、「相手が属する界隈の文化」の違いから生まれるということだ。
社内の開発チーム内など、共通の文化が浸透している間柄であれば、呼び捨てでスピーディに会話を進めても問題ない。しかし、他部署や社外のクライアント、あるいは同じ業界でも目上の相手とのチャットでは、約3割が不快に感じるリスクを考慮し、「さん」を付けるハイブリッドな対応が無難だろう。
相手のバックボーンや職場の文化を想像し、柔軟にスタンスを変えること。それこそが、現代のビジネスパーソンに求められるチャット術と言えるはずだ。 あなたの職場の「チャットの掟」は、いまどうなっているだろうか?









