名古屋大学(名大)は5月1日、飲料ボトルなどに広く用いられるPETボトルの廃棄物を原料として、多孔性材料「有機金属構造体」(MOF)を、前処理なしで直接合成する手法を開発したと発表した。

  • 廃PETからMOFを合成しCO2吸着へ応用するコンセプト図

    廃PETからMOFを合成し、CO2吸着へ応用するコンセプト図。(出所:名大プレスリリースPDF)

同成果は、名大大学院 環境学研究科のカイー・チャン博士(現・香港理工大学)、同・ジンチェンコ・アナトーリ准教授、名大大学院 工学研究科の川尻喜章教授、同・フランティシェク・ミクシイク特任准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、環境・エネルギーや先端材料など、化学工学の応用研究を扱う学術誌「Chemical Engineering Journal」に掲載された。

81.7%の高収率でのCO2合成を達成!

世界的に見てプラスチックのリサイクル割合は依然として低く、環境中に廃棄される量も少なくない。プラスチックは微細化しても完全には分解しないため、マイクロプラスチックやナノプラスチックとして、生態系やヒトの健康への深刻な影響を及ぼすことが懸念されている。

また、廃棄プラスチックの多くは焼却処分されており、二酸化炭素(CO2)の排出を招き、温暖化を促進させる要因となっている。産業活動によるCO2排出も含め、大気中のCO2濃度は増加を続けており、最高気温の上昇や両極の氷の融解など、地球温暖化の影響が顕在化している。そのため、大気中からCO2を取り除く技術の開発も早急かつ強く求められている。

こうした状況から、廃プラスチック問題の解決に向けた重要な課題の1つとして、代表的なプラスチックであるPET(ポリエチレンテレフタレート)のより高度な活用が期待されている。PETの主成分である有機化合物「テレフタル酸」は、金属イオンと有機配位子から構成される多孔性材料であるMOFの原材料として利用されることが多い。MOFは極めて高い比表面積と細孔構造を有することから、ガス吸着や分離、触媒などに応用されており、CO2吸着材料として活用することも可能だ。

そこで研究チームは今回、廃PETを単に再利用するのではなく、高機能材料へと転換する「アップサイクル」に着目し、廃PETを原料としてMOFを直接合成してCO2吸着材料として活用することを目指したという。

これまでPETをMOF原料として利用するには、化学的に分解してテレフタル酸を抽出し、精製した後に金属塩と反応させる多段階プロセスが必要だった。それに対し今回の研究では、廃PETボトルを前処理なしでそのまま用い、水熱反応による、単一の反応容器内で連続的に合成を進行させるone-potプロセスにより、クロム系MOF「MIL-101(Cr)」を直接合成する手法が確立された。

反応条件の最適化により、4~8時間という短時間でMOF生成が進行し、8時間で最大81.7%という高収率が達成された。これは従来報告と比較して大幅に高い値であり、材料製造プロセスの効率を大きく向上させる成果とする。さらに、今回の手法では危険性の高い試薬の利用なしでの合成が可能であり、安全性および工程簡略化の観点でも優れていることが特徴だ。

得られたMOFは、平均粒子径約50~100nmの高結晶性ナノ粒子であり、比表面積は約2400m2/gに達することが確認された。比表面積は、材料の単位質量あたりの表面積を示し、この値が大きいほどガス吸着性能が高くなる傾向がある。また、細孔構造も典型的なMIL-101型構造と一致しており、純粋なテレフタル酸から合成したMOFと同等の構造特性を有することも確かめられた。CO2吸着性能についても同等レベルを示し、例えば20℃・100kPa条件において、MOF1gあたり約0.08gのCO2を吸着可能であることが明らかにされた。これは、約100Lの空気中に含まれるCO2量に相当する。

  • 廃PETから作製されたMOFの構造とCO2吸着性能

    廃PETから作製されたMOFの電子顕微鏡像による構造観察(左)とCO2吸着性能(中央・右)。(出所:名大プレスリリースPDF)

さらに、MOFの細孔内にアミン基を導入するアミン修飾により、CO2吸着性能の向上が図られた。アミン分子の導入によりCO2との相互作用が強化され、特に低圧条件において吸着性能の大幅な向上が確認された。特に、アミノ基を多数有するポリエチレンイミンを多く導入した場合には、低圧条件において最大約10倍の吸着量向上が得られたとした。

加えて、実用化を見据えた連続流通条件下での検証も行われた。10gスケールのMOFペレット化試料を用いた評価手法「破過応答試験」により、CO2を含むガス流通下において安定した吸着挙動を示すことが確認された。繰り返しの吸脱着試験においても性能低下はほとんど見られず、高い再利用性を有することも示されたという。さらに、高湿度条件下においても吸着性能は低下せず、むしろ向上する傾向が認められ、実際の排ガス環境に近い条件でも有効に機能することが示されたとした。

今回の成果は、廃プラスチックの高付加価値化とCO2排出削減を同時に実現する技術として、炭素回収・貯留(CCS)や排ガス処理プロセスへの応用が期待されるとしている。