STMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)は日本時間の5月4日、同社のLEO(Low Earth Orbit:低軌道衛星)向けビジネスの状況を投資家およびアナリスト向けに「The LEO Opportunity」というタイトルのWebcastで公開したので、その内容をご紹介したい(Photo01)。
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Photo01:説明を行ったRemi El-Ouazzane(レミ・エル-ワザン)氏(President, Microcontrollers, Digital ICs and RF products Group) (出所:STMicroelectronics、以下すべて)
まず宇宙産業は、従来の政府主導の国家プロジェクトから、民間資本が主導する巨大な経済圏(New Space)へ構造転換中であるとし、この転換の核心はLEOにあり、半導体メーカーにとっては単なる技術供給を超えて指数関数的な需要創出の場となっているとする(Photo02)。
宇宙利用の活性化で高まる半導体の需要
この経済性の劇的な改善は、SpaceX(スペースX)のStarshipなどで実現された再利用型ロケットの登場により、打ち上げコストの劇的な低下(1/100以下)に起因するもので(Photo03)、この結果として宇宙がもはや特殊な空間ではなく、地球上のテラビット級インフラのバックボーンとして機能し始めたことを示しており、これはそのまま半導体需要の爆発的増加につながるとする(Photo04)。
ただ同社は実はもうこの宇宙という市場に対して10年以上も顧客と共に投資を行ってきており(Photo05)、その意味では突然マーケットが生まれた訳ではない(Photo06)。
同社はこのLEO向けのRFというマーケットで90%以上のシェアを確保しており、他社に比べて有利なポジションを確保しているとする。
極めて高い半導体インテンシティ
このLEOのマーケットだが、現在は大きく3つの分野が存在する(Photo07)。
まずは「Broadband」で、未接続の30億人を対象としたDigital Divideの解消に加え、航空・海上などに対するモビリティの機会が広がるとする。2つ目が「Direct-to-Cell」で、衛星を「空飛ぶ基地局」とし、既存のスマホやIoT機器を直接接続。ローミングレスな接続性と、広域アセットトラッキングを実現できる。3つ目が「Orbital Data Center」、いわゆる「軌道上データセンター」である。Blue OriginのProject SunriseやGoogleのSun Catcherに代表される、計算資源の宇宙配置。Elon Musk氏は年間100GWの計算能力が追加される巨大な計算フロンティアが出現すると預言しており、これの実現に向けてのビジネスが加速しているとする。
まずBroadbandマーケットの伸びの予測はすさまじい(Photo08)し、足元でも同社の業績に大きく貢献している(Photo09)。
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Photo08:Starlinkが先行した衛星Broadbandは国内でも急速に普及が進んでいる。各国とも5G基地局のDeployが一段落し、現在残っているのはコスト的に割が合わない人口密度過疎地帯のみ(ここが一番面積が広大)で、ここに向けての良いソリューションになるからという事も大きいだろう
また半導体のIntensity(搭載密度)が深化している事も大きなポイントである。Starlinkの衛星がv1.5からv3に進化する中、衛星一基当たりの通信容量が40倍以上になったが、これに伴い一基あたりのBOMは8倍に増加。同社の売り上げは衛星1基あたり数万ドル規模に達しているそうで、こうしたサービスの高度化が同社の売り上げに大きく貢献する事につながっているとする。またUser Terminal(UT)の方はどんどんコストが下がっており(Photo11)、その出荷量は年間数百万~数千万台に達する事も説明されている。
こうした形で弾みがついたことで、STにおけるLEO Broadband向けのマーケットは急速に拡張する、というのが同社の計画である(Photo12)。
ここでの強みはFD-SOIとBiCMOSプロセスとPLPである(Photo13)。
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Photo13:加えて言えば、個々の要素を別々のファウンドリに発注して自分で統合するのはそこでも困難がある訳だが、STはこれを統合した宇宙・衛星向けビジネスにすでに45年の経験があり、そこでのノウハウが差別化の大きな要因になっているとする
もちろん、これらは他社(例えばFD-SOIならGlobalFoundriesがあるし、BiCMOSはさまざまなファウンドリが提供中。PLPはOSAT各社が現在提供を開始しつつある)でも入手可能な技術ではあるが、それをワンストップで提供できる部分が同社の強みである。実際その技術を使って、LEO向けにさまざまなコンポーネントを提供可能であり(Photo14)、こうした積み重ねでLEOビジネスを着実に伸ばして行ける、としている(Photo15)。
2028年には30億ドル規模を想定しているというのがSTの予測であり、今後はさらにマーケットは広がる想定で、ここに向けて引き続きビジネスを拡大してゆく、という説明であった(Photo17)。
IDMとしての強みでLEOビジネスでの成長を目指すST
ちなみにQ&Aでは以下のような話が出た。
まず2026年~2028年の収益予測(30億ドル)と2026年の収益予測(10億ドル)のミスマッチについて、SpaceXのSharshipやBlue OriginのNew Glennなどの次世代ロケットが成功すれば、急速に成長率が拡大すると見込んでいる。
また現在の同社の収益の主要な部分はUTで、この中でも信号増幅やBeam Formingを担うFEMが重要であり、ここを構成する同社のBiCMOS技術が他社との差別化の大きな要因であり、今後競合が出てきても競争力を維持できると考えているとの事。
中国市場に関しては、輸出規制の関係からUTへの技術提供のみで、衛星本体の技術は提供しないとの事。これにより市場シェアはやや落ちることになるが、それでも高いレベルを維持できると見込んでいるとの話だった。
またIDMであることの強みについては、FEMはASICとして開発されることが多く、設計リソースが必要で、加えてフロントエンドのBiCMOSとバックエンドのPLPを纏めて提供できるのがコスト競争力と性能の確保の両面で強みになっているとする。
このほか、軍事向けに関しては、ST全体でも非常に限定的であり、LEOビジネスは民間向けのみとなるという話であった。













