大阪府 吹田市にある井上病院では、2026年1月に音声AIツールを導入した。その旗振り役となったのが、2024年4月に新設した総合内科の部長である濵田治医師。
総合内科では多くの可能性の中から的確に診断するため、丁寧な問診が重要だ。同院とその附属診療所には600~700人の透析患者が通院しており、治療の意思決定をするための患者との対話が1時間に及ぶこともあり、医師や看護師、臨床工学技士は膨大な記録業務に追われていた。
こうした病院全体の記録業務の多さを解消するため、音声AIツールの導入に踏み切ったという。
音声AIツールの利用でカルテ入力時間を10%、心理的な負荷を30%削減
井上病院が導入した音声AIツールは会話を文字に起こし、SOAP形式(Subject:主観的情報、Object:客観的情報、Assessment:評価、Plan:計画の順に体系立てて診療の情報を記載する方法)に自動で要約する。
濵田医師によると、カルテ入力にかかる時間の削減効果は10%程度だが、心理的な負荷は30%ほど軽減されたという。音声AIツールが診療記録を自動で生成する間に、検査オーダーの発行や次の診察の準備ができるようになった。
これにより、午前中の診察が早く終わるようになり、疲労感が劇的に改善。また、患者の目を見て診察をできるようになったという実感のみならず、患者からの「とても丁寧な先生だ」という声も増えた。
中国語診療でも活躍、音声AIが“伝わった”を可視化
音声AIツールの真価は、言語の壁を乗り越えるために、そして、教育の場でも発揮されているという。
以前、井上病院の総合内科で日本語を話せない中国籍の患者を診察する機会があった。同行した通訳を介して問診をした内容と音声AIツールが聞き取った中国語の内容を照合した結果、患者の意図を汲み取れていることが分かり、濵田医師は「互いが分かり合えていたことを確認できた。医師として最高の体験だった」と振り返った。
同院では、指導医の下で実臨床を学ぶ実習「クリニカル・クラークシップ」として、大阪大学の医学生6人を2026年1月から受け入れている。模擬診療で医学生の問診内容と音声AIツールが出力する診療記録を比較することで、診断プロセスの学習に役立つのだという。
今後は、ベッドサイド研修で学生に音声AIツールを持たせ、指導医がすぐにフィードバックをできない状況でも、問診内容が正しかったのかを学生自身が振り返ることができるよう、活用を進めていく方針だ。
※記事中の取材対象者の役職・肩書は、2025年2月の取材当時のもの

