インテルとソフトバンクの子会社であるSAIMEMORY(サイメモリ)は、AIおよび高性能コンピューティング(HPC)向け次世代メモリ技術の実現を目的とした共同開発プロジェクトが、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業に採択されたと発表した。採択された研究開発テーマは「高メモリ密度・広帯域・低消費電力な革新的メモリの製造技術開発」で、事業期間は研究開発開始時点から原則5年(60か月)としている。
AI・HPCで深刻化するメモリ制約に挑むZAM
AIの学習や推論、ならびにHPC用途では、演算性能の向上とともにメモリ帯域や消費電力がシステム全体の制約要因となるケースが増えている。今回開発が進められる「Z-Angle Memory(ZAM)」は、そうした課題への対応を目的とした次世代積層DRAMアーキテクチャであり、高密度化と広帯域化を進めつつ、電力効率の改善を狙う。
インテルによると、ZAMは米国エネルギー省および国家核安全保障局が管轄するサンディア国立研究所、ローレンス・リバモア国立研究所、ロスアラモス国立研究所が管理する「Advanced Memory Technology(AMT:先進メモリ技術)研究開発プログラム」で進められた次世代メモリの基礎研究を基盤とし、インテルの「Next Generation DRAM Bonding(NGDB:次世代DRAMボンディング)イニシアチブ」で実証された技術的知見を活用することで、低遅延と低消費電力でDRAMの密度と帯域幅を高めるものとなるという。
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2026年2月3日開催の「Intel Connection Japan 2026」にてZAMのプロトタイプを披露したIntelのFellow and CTO Intel Government TechnologiesのJoshua Fryman(ジョシュア・フライマン)博士
具体的には、配線を使用せずに磁界で接続する「磁界結合無線通信I/O」を備えた「垂直ビルド(Z-Angle)」構造を採用することで放熱性能を向上させ、現行のメモリ技術が抱える積層数による制約の解決に取り組むことで、メモリの容量拡大とデータ転送帯域幅の向上、そして低消費電力化を同時に実現し、AI計算基盤のさらなる高度化を目指すとする。
研究プロジェクトには理研も参加
NEDOプロジェクトとしての研究開発体制は、SAIMEMORYが代表事業者、インテルが共同実施者として名を連ねているほか、理化学研究所(理研)が共同研究先として挙げられている。研究内容としては大きく以下の4つが予定されている。
- 磁界結合無線通信の設計および開発
- ZAM製造方法の設計および開発
- ZAMホストダイのリファレンス設計および開発
- ZAM性能評価システムの設計および開発
「磁界結合無線通信の設計および開発」は、垂直ビルドしたメモリとホストダイの接続は、従来技術では実現が難しくなる物理配線にかわり、磁界結合無線通信IOにより実現を目指すとする。「ZAM製造方法の設計および開発」は、新たなウェハボンディング技術を活用した超多積層の実現、ならびに積層精度や側面電極の形成などといった量産に向けたZAMキューブの製造プロセスを整備し、目標性能を満たすキューブを製作することを目指すとする。「ZAMホストダイのリファレンス設計および開発」は、ZAM搭載演算システムの実現に向けたホストダイ(ZAMキューブとxPUを接続するインタフェース)のリファレンス設計・開発を行うとする。そして「ZAM性能評価システムの設計および開発」は、実アプリケーションを想定した性能検証・評価シミュレーション環境の構築を進めるとしている。
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NEDOプロジェクトとして採択された「高メモリ密度・広帯域・低消費電力な革新的メモリの製造技術開発」の概要。現行のGPUなどで活用されるHBMはメモリダイ同士をTSVで積層して、広帯域化とメモリ密度の向上を実現してきたが、同時に関層数が増えれば特に積層の中間層を中心として発生する熱をどうやってチップ外に逃すのかが課題となってくる。最新世代で16層構造、次世代のHBM5で20層と言われているが、その先、さらなる高層化が可能かどうかは不透明な状況となっており、代替技術でさらなる高性能化が期待できるのであれば、そちらに移行してもおかしくはない (出所:NEDO発表資料)
SAIMEMORYはシリーズAラウンドによる資金調達を実施
また、このNEDOプロジェクトの採択に並行する形でSAIMEMORYは、研究開発の加速に向けた資金調達としてシリーズAラウンドを実施。引受先は親会社のソフトバンクのほか、富士通、日本政策投資銀行、理研としており、得た資金を活用する形でZAMの商用化およびメモリメーカーなどへの技術ライセンスの提供を見据えた形での研究開発を推進していくとしている。
今回のNEDOプロジェクトの採択は、インテルとSAIMEMORYによる取り組みが実用化に向けて前進したことを示す一歩と言える。AI時代の計算基盤を支えるメモリ技術をめぐる競争は、HBMの既存技術の延長、特に積層が廃熱処理の問題でどこまで行けるかが不透明な中、単なるメモリデバイスの高性能化だけではなく、アーキテクチャそのものの革新が求められる段階へと移行しつつあるといえるかもしれない。
なお、ZAMの開発は2026年2月のインテルとSAIMEMORYの提携が発表された時点では、2027年度中のプロトタイプ作製、2029年度中の実用化を目指すとしており、その実現に向けてインテルでは大規模かつ迅速な開発と商用化を支えることを目的として、国内外の技術、製造、サプライチェーンのパートナーネットワークも活用していくとしている。