ソフトバンクは5月8日、2024年4月〜2025年3月期の決算(国際会計基準=IFRS)を公表。すべての事業で増収増益となったことを報告した。報道陣向けの決算説明会の中で、同社の宮川潤一社長兼CEOは“ちょっとサプライズ”として、AIデータセンター向けの次世代メモリの開発を進めていることも明らかにした。
次世代メモリ開発については、次世代社会インフラの構築に向けた取り組み強化の一環として、宮川社長が言及したもの(後述)。説明会では、PayPayの上場準備開始など注力事業の現況を紹介したほか、報道陣からの質問に応えるかたちで、衛星とスマートフォンの直接通信サービスを来年2026年にも自社サービスとして提供開始する考えであることにもふれた。モバイルダイレクトの料金体系やパートナーとなる具体的な衛星会社の名前は伏せたものの、「準備は実際は終わっている」とのこと。
2024年度の連結業績は、売上高が前年同期比7.6%増の6兆5,443億円で、「中期経営計画の目標であった6.5兆円を1年前倒して達成した」(宮川社長、以下同)。営業利益は同12.9%増の9,890億円で、こちらも中計目標を1年前倒して達成したという。
セグメント別の内訳では全事業が増収で、なかでもファイナンス、ディストリビューション、エンタープライズの3事業は2ケタ成長となった。経常利益は同9.2%増の8,800億円。純利益は同7.6%増の5,261億円で、「実は純利益も1年前倒して中継目標を達成できると思っていたが、期末に投資先の評価損が発生したため、2025年度に持ち越しとなった」。
2025年度の連結売上高予想については、中計目標を2,000億円上方修正して6兆7,000億円とし、10期連続で過去最高額の更新をめざす。「今年度も全セグメントでの増収をめざす。天候によって左右される、コンシューマー事業の電気の販売は読みづらいが、全体的には言い訳なしで、全事業で増収させていきたい」。
また通期営業利益予想についても、2023年度の中計では“2025年度は9,700億円をめざす”としていたが、2期連続で好調な業績を記録したことから、2025年度はAI(人工知能)への積極投資を継続し、生成AIなどへの研究開発費増加を吸収しながら、1兆円超えをめざす考えだ。
純利益の中計目標も50億円上方修正し、過去最高益をめざす。なお株主への配当については、2025年度も1株あたり年間8.6円を見込む。「このインフレ環境下にあるなかで、“横ばいの配当は実質の減配と同じでは”と自問自答もしているが、AIへの攻めの投資を実行したほうが、将来の企業価値の向上につながると考えており、今年度も同額とした。先行投資も実行した上で、さらに業績が伸びるようであれば、自社株買いや増配を検討していきたい」。
ソフトバンクが今後注力していく領域としては、AIデータセンター、日本語国産LLM(大規模言語モデル)となる「Sarashina」、データ・技術・運用の主権を重視したソブリンクラウド、ソフトバンクグループとOpenAIが企業向けの最先端AIとして発表した「クリスタル・インテリジェンス」(Cristal intelligence、仮称)に加え、今回初めて言及した「次世代メモリ技術」の5つを挙げる。
大規模なAIデータセンター「Brain DataCenter」の進捗として、シャープ堺工場の土地・建物を約1,000億円で取得完了したことを3月14日に発表しており、ソフトバンクが展開する「AIエージェント」の重要運用拠点として活用していく。自社開発のSarashina mini(700億パラメーター)は、2026年3月期中の商用開始を見込んでおり、説明会の中では現行のGPT-4oやGPT-4o miniとの比較デモを見せた。「ソブリンCloud」と「ソブリンAI」については、2027年3月期以降、順次サービスを提供開始予定とのこと。
宮川社長は今回初めて、ソフトバンクで次世代メモリの開発を進めていることを明らかにした。AIの中心が推論になると、AIデータセンターではGPUのパフォーマンスを最大化し、より大量のデータを処理する必要が出てくる。GPUに大量のデータを転送する高性能メモリが重要になってくるが、現状のメモリは電力消費が大きく、処理能力にも限界があった。
こうした課題解決に向け、同社では高性能で省電力なAIデータセンター向けの次世代メモリの開発に取り組んでおり、パートナー企業とともに今後2年間でコア部分のサンプルを作り、有用性を見極める。その開発にあたり、投資額は約30億円を見込んでいる。パートナー企業や技術の詳細は今後発表するとしており、宮川社長は「HBM(High Bandwidth Memory)の3D積層メモリはちょっと異なる構造。次世代社会インフラを支える重要な要素として期待を込めて開発していきたい」と話した。
なお報道陣との質疑応答の中で、宮川社長は次世代メモリについて、「ちょっとサプライズだったが、メモリメーカーになりたいわけではない。日本のとある大学に非常にすばらしい特許があり、これを実現すると今のGPUの横に並べても遜色ないカタチのメモリ構造になるのではないかと思う」とコメント。
「ちょうど1年ほど前から、高名な先生と議論をしてきた。誰かが最初にリスクを取らないと(このメモリは)実現しない。あまりソフトバンクの投資領域ではないと思った。しかしAI開発をしている中で、他社の例でいえばDeepResearchのような構造、我々はSarashinaリサーチと呼んでいるが、Webのクローリングしながら新しい回答を出そうとするといつもHBMで詰まる。HBMが進化しなければ、GPU性能が上がってもリサーチ機能が使い物にならない。であれば、メモリ(の開発)をやってみようかとだんだん思えてきた」(宮川社長)。
宮川社長は続けて、次世代メモリ開発の位置づけを次のようにも話している。
「ソフトバンクとしてメモリ事業を本業にするのかというと、今のところ僕の考え方は、どちらかというとIP側に回ろうと。本業の方々が製品にしてもらえればよく、僕は使わせてもらえさえすればいいと期待している。我々が巨額なメモリ事業に参入する、ということではありません」。
【お詫びと訂正】初出時に社名、およびクリスタル・インテリジェンスのアルファベット表記を誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします(5月8日 20:15) |