既報の通り、日立製作所は茨城県日立市に、次世代型社会インフラ研究拠点「調和の丘」を、2030年に設置すると発表した。社会課題を起点に、エネルギーやモビリティ、モノづくりなど、複数分野の技術を組み合わせて解決を模索する「コンバージェンス研究」を進めることができる世界最先端の研究拠点を目指す。

また、調和の丘のシンボルとして、日立製作所 研究開発グループ茨城サイト大甕地区内の丘陵部に、建築面積約3000平方メートル、延べ面積約9300平方メートル、低層部で3階、タワー部で7階の新たな研究棟を建設する。

  • 「調和の丘」研究棟のイメージ

    「調和の丘」研究棟のイメージ

調和の丘」が担う役割と研究拠点の狙い

調和の丘では、日立市との協定で推進する「次世代未来都市の実現に向けた共創プロジェクト」などを通じて、Society 5.0の実現に向けた分野横断の研究を加速。積極的な研究投資を行うことで、実証で得られた成果を迅速に社会へ発信・実装することで、新たな事業の創出、持続的な成長を実現し、地域への価値創出を図る。

日立製作所 執行役常務 CTO兼研究開発グループ長の鮫嶋茂稔氏は「社会インフラに関する先端研究を行うことで、新たな事業創出を目指す。創業の地である日立市にシンボルとなる新棟を建設し、地域の活性化に取り組む。また、さまざまなパートナーとオープンなエコシステムを構築することになる。Lumada 3.0や、その先の成長を実現するデジタライズドアセットおよびサービスを創生し、日立の持続的な成長につなげる」と狙いを述べた。

  • 日立製作所 執行役常務 CTO兼研究開発グループ長の鮫嶋茂稔氏

    日立製作所 執行役常務 CTO兼研究開発グループ長の鮫嶋茂稔氏

調和の丘をハブとした産学官のオープンイノベーションを推進する考えも示し、パートナーとの協創をさらに広げるほか、政策の提言や共同研究の創出、人財交流、研究成果および知見の相互活用を強化する。

鮫嶋氏は「グローバルな研究ネットワークを活用し、先端研究人財を強化することで、世界最先端の分野横断型研究開発拠点を目指す」と話し、大甕地区では現在の研究者約650人から今後は増員を計画している。

日立は1918年に工場内に研究係を設置し、これが同社における研究所のスタートとなっている。現在では、グローバルに研究開発拠点を配置しており、事業の近くで研究開発を行う拠点、グローバルに共通技術を開発する拠点をそれぞれに展開。2019年には、東京都国分寺市に、Lumada事業拡大のためのデジタルソリューション創出の拠点として「協創の森」を設置している。

これに対して、調和の丘はプラネタリーバウンダリー(環境合理性)、ウェルビーイング(社会合理性)、経済成長(経済合理性)によって実現するハーモナイズドソサエティの実現に向けて、パートナーとの協創、社会インフラ領域における検証、実証を行う拠点と位置づけている。

  • 研究開発の役割が進化している

    研究開発の役割が進化している

鮫嶋氏は「茨城県内の研究拠点は、創業時のモーターからはじまり、水車、機関車など、リアルな社会インフラの革新、技術の実装、開発に取り組んできた経緯がある。近年では、AIやIoTなども取り入れ、社会インフラにおいて、新たな姿を描いた技術革新を進めている。こうした活動を新たな拠点で加速することになる」と力を込める。

日立市との関係性と地域共創の背景

日立市南部には、調和の丘が設置される同社の研究開発拠点のほか、2021年には日立の歴史に触れることができるオリジンパークを開設。2023年からは日立市と協創プロジェクトを開始しているなど、地域に根差した活動が相次いでいる。

日立製作所 研究開発グループ Sustainability Innovation R&D Managing Directorの杉村和之氏は「調和の丘は日立の過去、現在に連なる取り組みに加えて、その先の未来を、パートナーとともに切り開く機能を新たな追加したものになる。また、日立市とは100年以上にわたり、関係性を変化させながら、ともに歩んできた経緯がある。同市に新たな研究開発拠点を設置する理由はここにある」と背景を語る。

  • 日立製作所 研究開発グループ Sustainability Innovation R&D Managing Directorの杉村和之氏

    日立製作所 研究開発グループ Sustainability Innovation R&D Managing Directorの杉村和之氏

今後は調和の丘を中核拠点としつつ、社会課題起点の研究と実証の好循環を創生し、地域から国内外へ価値を展開する次世代社会インフラ研究を推進。日立の次の成長を支えるLumada事業を発展させていく考えだ。

なお、建設する新棟は銅山の煙害という社会課題を解決するために、1914年に竣工した日立鉱山の大煙突をモチーフにしたデザインを採用し、2027年の着工、2030年の竣工を予定している。

  • 新棟の概要

    新棟の概要

杉村氏は「新棟は大煙突の精神を受け継ぐものとなる。長年にわたり蓄積してきた社会インフラ研究の資産や知を活用するとともに、地域コミュニティのつながりを広げ、フィジカルAIをはじめとした物流社会と接点を持つ新たなデジタル技術との融合を推進するグローバル先端拠点に位置づける」と述べた。

研究テーマの全体像とエネルギーNEXUSの詳細

調和の丘における具体的な研究テーマについても示した。「コンバージェンス研究による社会インフラ革新」を推進するという基本姿勢をベースに、アジェンダの設定からスタート。

エネルギー、情報、モノの流れに注目し、エネルギーと資源の価値の連鎖による「エネルギーNEXUS」、世論とパーソナライゼーションを両立した「個市民駆動型モビリティ」、フィジカルAIでモノづくり産業やインフラ運用を自動化する「フィジカル・インテリジェンス」を進めることになるという。

  • 調和の丘における具体的な研究テーマ

    調和の丘における具体的な研究テーマ

そのなかでも、エネルギーNEXUSについて重点的に説明がなされた。杉村氏は「真の地球温暖化防止には、熱エネルギーの収支改善が重要である」と話す。

単なるCO2削減ではなく「太陽からの入射エネルギー」「宇宙に放出するエネルギー」「人類の活動によって地上で新たに生み出される熱エネルギー」の3つを適切に管理・制御しなくては、温暖化を止めることはできないと同氏は指摘。

  • 真の地球温暖化防止には、熱エネルギーの収支改善が重要だという

    真の地球温暖化防止には、熱エネルギーの収支改善が重要だという

こうした状況をふまえ、同氏は「エネルギーNEXUSでは、再生可能エネルギーの導入を前提に社会を電化し、これを高効率に利用する。発生した熱も有効に利用し、残った熱を地球外へ放出する。そのためには総合的な対策が必要であり、電気と熱の一体化やインフラ、水、産業といった異分野の融合など、究極のコンバージェンスを進めることになる。それを実現するために、ここでは革新インフラ研究、分野融合研究、次世代制御研究に取り組むことになる」と説明している。

  • エネルギーNEXUSの概要

    エネルギーNEXUSの概要

革新インフラ研究では、透過率の高い「大気の窓」を利用し、地球外への熱放射を促進するインフラを研究するほか、組木細工の思想を取り入れてパーツをモジュール化して、容易に解体できる資源循環型高効率モーターの開発を推進。

  • 革新インフラ研究の概要

    革新インフラ研究の概要

分野融合研究では、LNGタンク事業者と、データセンター事業者との融合により、LNGタンクの冷熱を活用して、マネタイズとエネルギーコストの削減を実現するという。また、下水処理場のノウハウを活用しながら、ブルーカーボン技術による自然利用カーボンソリューションを提供することも可能だという。

  • 分野融合研究の概要

    分野融合研究の概要

次世代制御研究においては、エネルギーのライフサイクルにおける形態の変化に追随し、複数分野をまたぎ、エネルギーフロー全体での最適制御により、有効エネルギーを取り出すことに取り組んでいるという。電気と熱をはじめとする異なるエネルギー媒体を協調制御するソリューションの開発に取り組む方針だ。

  • 次世代制御研究の概要

    次世代制御研究の概要

日立では社会インフラとAIの統合技術であるフィジカルAI統合モデル「Integrated World Infrastructure Model(IWIM)」を発展させ、発電や送配電、蓄電、熱の回収、熱の有効利用、CO2の計測・管理など、相互に影響する要素を同一の枠組みで捉え、供給から利用、循環、制御までを含めた運用技術を開発していく。

社会システム全体を見据えて、設計、制御、運用を分野横断で一体的に高度化するための研究および実証を行うことを目指す新たな研究開発拠点から、どんな「日立らしい」技術が創出され、実装されるのかが注目される。