スターライナーは再び飛べるのか?
NASAとボーイングは、スターライナーCFTの帰還以降、ミッション中に生じた課題の特定と対処に協力している。技術的な根本原因の調査も継続中だ。
現時点で、ISSへのドッキング前にスラスターが故障した直接の原因として最も有力視されているのは、酸化剤の流れが二相流となったこと(気化やキャビテーション)と、バルブ内のテフロン製ポペットが押し出されて流路が妨げられたことが重なった結果と考えられている。
ヘリウム漏れについては、酸化剤(NTO)に適合しないシール材を特定し、適合する材料への交換やOリングの寸法の見直しを進めているという。他の故障についても、原因究明と検証を続け、対策が進んでいる。
報告書は、NASAとボーイングの協力体制についても見直しを勧告しており、意思決定権限の枠組みを整理し、再構築することを挙げている。推進システムやパラシュートなど、過去に問題が起きやすいことがわかっている領域では、設計段階からNASAとボーイングが共同で開発・認定計画を策定することを契約で義務付ける案も示した。
さらに、下請け業者の詳細な設計・試験データへのアクセスと共有の仕組み、NASAとボーイングおよび技術部門間のリーダーシップや情報共有、対話チャンネル、スケジュール管理の見直しなども改善項目に挙げている。
スターライナーは現在、早ければ2026年4月にも、ISSへ物資を輸送する無人ミッション「スターライナー1」の実施をめざしている。この飛行では、これまでに明らかになった問題への対策も検証する。
また、アイザックマン長官は「問題が根本的に解決されるまで、スターライナーに宇宙飛行士は乗せない」と強調した。
「宇宙ビジネスの観点からも、スターライナーは重要」
一方でアイザックマン長官は、ISSへの宇宙飛行士輸送におけるスターライナーの重要性も強調している。NASAはCCPで、「異機種冗長性」(dissimilar redundancy)の考え方に基づき、スペースXのクルー・ドラゴンと、企業も技術も異なるボーイングのスターライナーを併存させている。どちらかに問題が起きてもISSへの輸送が止まらない体制を確保する狙いであり、その方針は変わっていない。
アイザックマン長官はまた、低軌道経済を活性化するには将来の商業宇宙ステーションの拡大と、乗員・貨物を軌道へ運ぶ複数手段の確保が重要になるとの見方も示した。「地球低軌道に多数の商業宇宙ステーションが必要となり、人間と貨物を軌道に運べる複数の手段を持つことが利益を生み出す」と述べ、宇宙ビジネスの観点からもスターライナーは重要だと語った。
ただ、ボーイング側の事情はやや異なる。NASAのCCPでは、宇宙船の開発は基本的に固定価格契約であり、NASAから支払われるのは当初に定めた金額が中心となる。開発費が契約額を上回った場合、その超過分は原則としてボーイングが負担することになる。
また、ボーイングはスターライナーを運用に移して初めて収益を得られる。当面はNASAが宇宙飛行士の商業輸送サービスを一定期間にわたり購入することで収入が見込まれ、将来的には商業宇宙ステーションへの飛行や宇宙旅行なども念頭に置いている。一方で運用に入れない限り、ボーイングが開発費を回収して利益を上げることは難しい。
報道によれば、ボーイング側の持ち出しは20億ドル規模に達しているとされる(ただし、特例としてNASAから追加資金が支払われたとの指摘もある)。さらに、いまなお続く原因究明や改修、追加試験によって、開発期間と開発費は一段と増える見通しとなっている。別の未知の問題が残っている場合、対応が長期化するおそれもある。経営上の判断として、ボーイングがスターライナーの事業から撤退を決める可能性もありうるだろう。
宇宙開発では「Space is hard(宇宙は難しい)」という言葉がたびたび使われる。入念に試験と検証を重ねても、なお失敗を完全には排しきれないという現実を言い表したものだ。しかし、試験や検証が不十分だったのであればそれ以前の問題である。
NASAとボーイングは、この苦境から立ち直ることができるのか。それはスターライナーだけでなく、米国の宇宙開発の未来をも左右することになるだろう。
参考文献

