10月14日から17日までの4日間、幕張メッセを舞台に日本最大級のデジタルイノベーションの総合展「CEATEC 2025」が開催された。「Innovation for All」をテーマに掲げ、国内外のさまざまな先進技術や最新製品が一堂に会する同展示会には、数々の企業・団体が出展。その中から、マスクに取り付けることで騒音下でも話者の声を正確に捉えるクリップ型マイクでCEATEC AWARDを受賞した村田製作所、名門ゴルフコースの“垂直バンカー”をブース内に再現して人間の能力拡張に貢献するAIを紹介した富士通、毎日の入浴中に心拍をセンシングすることで日々の健康を支える新技術を展示したリンナイの展示内容を紹介する。
マスク内の声だけを検出! 村田製作所の小型クリップ
村田製作所の展示ブースにてひと際多くの注目を集めたのが、マスクに装着することで騒音の中でも話者の声だけをキャッチする「mask voice clip」。同製品は、その年のCEATECで展示された製品の中でも特に新たな価値や市場の創造などに貢献するとして表彰される「CEATEC AWARD 2025」において、デジタル大臣賞を受賞した。
数多くの電子部品を手掛ける村田製作所が開発したこの製品は、使用の際にはマスクに挟み込む形で装着。使用者が発声すると、それを受けて発生したマスクの振動を、デバイスに内蔵された圧電フィルムセンサ「Picoleaf」などによって読み取ることで、話者本人の声のみをリアルタイムかつ高精度で抽出するといい、通常のマイクとは異なり周囲の音声を拾うことが極めて少ないのが特徴だ。
会期中に行われたデモンストレーションでは、一般的なマイクとmask voice clipの両方を装着した状態で発話し、その内容を文字起こしすることで性能の比較が行われた。多くの来場者が集まりざわざわとした環境でのデモンストレーションとなったが、一般的なマイクではそうした周囲の声も拾っていたのに対し、クリップ型マイクはマスクから伝わる振動を正確に検出し、高い精度での文字起こしを実現していた。
現在でもすでに“音声入力”の頻度は増しており、オンライン会議などデバイスを介したコミュニケーションは常態化している。今後ますます音声認識の重要度が高まると目される中、村田製作所はそうした生活をさらに快適なものへと変えていくため、さらなるデバイスの進化を目指すという。
大阪・関西万博でも話題を呼んだ“ふしぎな石ころ”
また同社ブースでは、大阪・関西万博において慶應義塾大学の宮田裕章教授がプロデュースしたことで話題を呼んだシグネチャーパビリオン「Better Co-Being」にも提供された、“ふしぎな石ころ”の「echorb」も展示された。
村田製作所の完全子会社であるミライセンスが開発した3Dハプティクス技術を詰め込んだ同デバイスは、特殊な振動などによって、持っている人に対しさまざまな触覚を与えるもの。ブース内ではその体験が行われ、「右に引っ張られる」「回転しようとする」などさまざまな感覚を体感した来場者からは、驚きの声が上がっていた。
同社によれば、現在はゲーム機をはじめとするエンターテインメント領域への展開が想定されるechorbが、遠隔医療の現場における触覚フィードバックへの活用など、社会課題解決に資する新たな価値を生み出す可能性も大いにあるとのこと。提供するさまざまな電子部品やそれに関する技術を結集し、また新たな価値を生み出すデバイスを生み出すことだろう。
“モンスターバンカー”が鎮座した富士通ブース
一方、幕張メッセ内でも極めて目立つ展示ブースを展開したのが、富士通だ。同社が展示のテーマに据えたのは、“人の能力を「拡張」するAI”。AIで人間の動きをデジタル化し、さらに良くなるためのアドバイスまでも行うなど、新たな価値を生み出す技術が主役となった。
その体験展示としてブース内に用意されたのが、高低差約1.6mという垂直の壁が立ちはだかる、“モンスターバンカー”だ。これは、同社社名を冠したプロツアーでも使用される名門ゴルフコース「東急セブンハンドレッドクラブ西コース」の18番ホールを再現したもの。難しいバンカーからの脱出を目指す挑戦者のフォームを解析し、より良いショットへとつなげるデモンストレーション・体験展示が行われた。
なお、スイングフォームの解析には「Fujitsu Kozuchi for Vision」が活用され、ゴルフコーチングシステムに強みを有するAIGIAのスイング解析アプリと連携することで、ショットが分析された。このシステムでは、関節など人の動きに大きく関わる箇所を検出し、その動きからフォームを再現。ミート率やヘッドスピード、あるいは膝の角度などの姿勢について評価され、理想的なフォームと比較したうえで、AIエージェントによる助言が行われる。
富士通の担当者によれば、AIの活用に際して必要なカメラ台数は最小で1台だといい、手軽な活用も可能とのこと。一方で8台ほど用いればより高精度の解析が可能になるとし、ニーズや場面に応じてさまざまな環境構築が可能な点も強みのひとつとした。
同社は現在すでに、人の動きの解析に関する先進技術を有するさまざまな企業と連携して、新たな価値の創造に向けた取り組みを進めているという。その中には、体操などの採点基準の定量化のようなスポーツ面での活用をはじめ、姿勢解析による健康寿命の延伸、メタバース空間への動きの再現性向上に加え、作業者の動きを検出できることから産業用途での活用可能性もあるといい、今後もAIによる人間の能力拡張はノンストップで続いていきそうだ。
毎日の入浴で心電を計測するリンナイの小型モジュール
そして、日々の疲れを癒す“お風呂”の時間に健康モニタリングの価値を創造するとして、CEATEC AWARDのイノベーション部門賞を受賞したのが、リンナイの浴槽内心電計測モジュールだ。
コンロや給湯器などのさまざまなガス機器を展開するリンナイが開発を目指したのは、同社の中期経営計画「New ERA 2025」に基づいた“健康増進”への価値提供。そこで、毎日のように行う入浴の中で心身の状態をモニタリング・予測するデバイスの開発に着手したという。
8cm×8cm×2cmという小型サイズの新デバイスは、入浴者の心臓の活動によって発生する微弱な電気信号を、湯水を介して非接触で計測。そのデータから、深部体温や自律神経・循環機能などの心身状態を予測することで、生活習慣の改善や不調の予防の提案、あるいはウェルビーイングの向上にも貢献していくとする。
同社によれば、現在は浴槽内に貼り付ける形でのデバイス設置を想定しているものの、これまで培ってきたノウハウにより、将来的には浴槽の循環アダプターに組み込む形であらかじめ住宅に設置することも可能になりうるとのこと。自ら動いてヘルスデータを取得するのではなく、生活習慣の中で自然にデータが取得され、さらに健康につながっていく未来に向け、リンナイは同デバイスのさらなる改良や販売に取り組んでいくとしている。










