電気自動車(EV)をはじめとする、電動車向けの蓄電池(二次電池)業界が競争力を高めようと、産官学一体の成長戦略を加速している。

千葉・幕張メッセで開催された総合展示会「CEATEC 2025」(会期:10月14~17日)では、電池サプライチェーン協議会(BASC)が同展最大級のブースを設け、部材からセルまで実物を並べて総合力を訴求した。また、電池工業会(BAJ)の只信一生会長は、中国や韓国勢に押されっぱなしにみえる現状について、「必要なのは世の中の動きについていけるかどうか。適応できれば負ける理由はない」との見解を語った。

  • CEATEC 2025会場で行われた「BATON」(バトン)設立会見にて筆者撮影。左端が、電池サプライチェーン協議会の好田博昭会長(プライムプラネットエナジー&ソリューションズ社長)。その右隣が、電池工業会の只信一生会長(パナソニックエナジー社長)

    CEATEC 2025会場で行われた「BATON」(バトン)設立会見にて筆者撮影。左端が、電池サプライチェーン協議会の好田博昭会長(プライムプラネットエナジー&ソリューションズ社長)。その右隣が、電池工業会の只信一生会長(パナソニックエナジー社長)

“適応能力”の重要性説くBAJ只信会長。「大事なのは勝ち負けではない」

EVだけではなく、主流のリン酸鉄リチウム(LFP)車載蓄電池も海外勢の躍進が著しい。劣勢の日本が巻き返せる可能性はあるのか。ぶらさがり取材に応じたBAJの只信会長は、「大事なのは競争での勝ち負けではない」として、適応能力がカギを握ると重要性を強調した。

かつて日本発の太陽光発電システムや液晶テレビ、ビデオなどなどはことごとく中国勢にシェアを奪われ、撤退を余儀なくされた。これについては「総合力が必要な蓄電池が二の舞になることはない」と即答。「電池産業に必要となる創造的な部分がすべて国内にあるにもかかわらず、これまでばらばらに取り組んでいた」と課題を指摘し、「BASCのような組織でサプライチェーン全体をしっかり強化することが必要」と力を込めた。

「欧米ではものつくりがなかなか難しくなっている現実がある。我々がしっかり進化させねばならない。一番大切なのは、安全な製品をつくるということだ。電池の性能を上げていけば安全性の担保は難しくなっていくが、日本のものつくりの技術や材料とのすりあわせのノウハウをもってすればいけるのではないか」と、強みを活かした勝ち筋を示す。

各国で実用化競争が激しくなっている全個体電池については、「パテントは世界で一番多いし負ける感じはないが、勝っていてもそれがわからないのではないか」と複雑な状況にあるようだ。「各社がいろんなものを出しているが、何の用途にどう使うのか、どのタイミングでどの用途ではじめるのか、ここに注目していくべきだ」とみている。

新組織「BATON」設立、“電池人材”育成などの取り組み加速

一方、全個体電池の最大用途として期待されるのが、EVやハイブリッド(HV)、プラグインハイブリッド(PHV)自動車だ。これら電動車の基幹部品であるモーターをつくるのに欠かせないのが、ディスプロシウムやネオジウムといったレアアース。だが、中国の輸出管理強化で世界中の自動車メーカーはレアアース確保に苦慮している。

この問題をBAJはどう捉えているのか。只信会長は、「足下ではさまざまな短期的な調整が必要な場面があるかもしれないが、代替材の開発もあるし鉱山開発も進んでいる。時間とともに解決する問題だと正直思っている」と、楽観的にみる。EVの売れ行きが鈍化していることについては、「ひとつの波であり、ハイブリッド車を含めて電動化は進んでいる。先進国では成長率が変わっても世界全体でEVはずっと増え続けている。これまでの過熱感がとれてきたという見方もある」と、趨勢は変わらないとする。

「世界の蓄電池市場規模は100兆円以上になり、半導体を超える基幹産業になる」(経済産業省の野原諭 商務情報政策局長)とされるなか、政府は以下のような目標を掲げている。

  1. 遅くとも2030年までに国内製造基盤150GWhの構築
  2. 2030年までに世界市場シェア20%の製造能力確保
  3. 2030年頃に全個体電池の本格実用化

この計画達成に必要とされるのが、3万人の人材育成だ。10月14日にはBAJとBASCが事務局となって、「バッテリー先進人材普及ネットワーク」(BATON:Battery Advanced Talent Outreach Network)が設立された。

BASCの好田博昭会長は、電池人材3万人の輩出のほかにも、資源・精錬の先行確保や電池設備産業の構造変革、中古車の国内環流促進といった「電池エコシステム構築へ7つの取り組みを進めている」と説明した。

蓄電池のサプライチェーンを構築して量産できるのは、世界で日韓中の3カ国だけとされる。リチウムイオン2次電池(LiB)を発明した日本の電池産業の将来がどうなるのか、今後の成り行きが注目される。