今や経済安全保障の要として、国会のさまざまな政策と切っては切れなくなった半導体産業。そのけん引役であるAIを筆頭に、自動車、産業機器、PC、スマートフォンとなければ生活に支障が出るものばかりに必ずと言ってよいほど搭載されている。

本稿では、市場の成長が続く半導体産業について、注目すべきニュースや技術トレンド、研究成果などをタイムリーにお届けしていく。

今回は、2025年10月11日~10月17日にかけて弊誌TECH+にて注目された半導体関連のトピックスをいくつか紹介する。ディスクリート半導体などに強みを持つ蘭Nexperia。同社は現在、中国Wingtech Technology(聞泰科技)の子会社で、CEOにはWingtechの創業者 兼 会長でもある張学政氏が就任していたが、オランダ政府は同氏のリーダーシップの下でのNexperiaの健全な経営に疑義を抱く正当な理由があると結論付け、CEOとしての職務停止を決定し、政府指名の社外役員を同社に送り込むなど介入を行ったことが話題となっている。

安全保障のリスクと判断されたNexperia

Nexperiaはもともと、NXP Semiconductorsのスタンダード・プロダクト事業部門(ディスクリート、ロジック、MOSFETなどの製造・販売)であったものが、NXPのFreescale Semiconductor買収に際し、中国のBeijing Jianguang Asset Management(JAC Capital)とWise Road Capitalによる金融投資家コンソーシアムに売却されて設立された半導体メーカー。その後、2018年にWingtechが株式の75.86%を取得し、2019年に完全子会社としていた。

この間、本社は一貫してオランダ・ナイメーヘン(Nijmegen)に置かれてきたが、Wingtechの張氏がCEOとして事業の指揮を執ってきた。今回のオランダ政府の声明文では、今回の「物品供給法(Wet beschikbaarheid goederen)」の発動について、「深刻なガバナンス上の欠陥および行為に関する最近の深刻な兆候を受けて発動された」とし、「それらの兆候が、オランダおよび欧州における重要な技術知識と能力の継続性と保護に対する脅威となり、それらの能力の喪失がオランダおよび欧州の経済安全保障にリスクをもたらす可能性がある」ためであることに起因したものであると説明しているが、具体的な説明は行われていない。

今回の措置の結果、Nexperiaの暫定CEOにNXPから同社で勤務してきたCFOのステファン・ティルガー氏が就任したほか、オランダ政府指名の社外役員が経営陣として参画することとなり、同社は1年間は政府の監督下に置かれることとなる。

張氏は「地政学的偏見」として反発しているほか、中国メディアからも反発の声が上がっているほか、中国政府からも不満が表明されている。

今回のオランダ政府が強硬な対応を行った背景には、米国の産業安全保障局(BIS)が、米国のエンティティリストに掲載されている事業体が50%以上の株式を保有する事業体にも輸出管理規制を適用するという新たなルールを打ち出したことがあるとみられる。

中国は一時期、米国の半導体企業に対する買収や出資を積極的に行っていたが、第1次トランプ政権はその多くを拒否。その結果、中国勢は狙いを欧州の半導体産業に変更し、Nexperiaをはじめとする半導体企業に対する事業買収や半導体工場の取得を進めてきた。しかし、近年、こうした取り組みについても、地政学的リスクなどを背景に規制する動きがでてきており、例えばNexperiaは2021年に英国のレガシーシリコンおよび化合物半導体ファウンドリ企業Newport Wafer Fabを買収したが、この件に関して、当時の英国首相であったボリス・ジョンソン(Boris Johnson)氏が安全保障への影響があるとの疑義申し立てを行うなど動きがあった結果、2023年に同工場はVishay Intertechnologyに1億7700万ドルで売却されることとなった。

今回のNexperiaへのオランダ政府の措置を受けて、すでに一部の自動車メーカー(OEM)からも影響を受けたサプライヤネットワークに対して、潜在的な供給リスクの早期の特定と適切な対応に向けた評価を行っているという話が出てきているほか、台湾のディスクリート半導体メーカーなどが代替候補として、すでに製品の照合や新規注文が届くようになっているという話もでてきている模様である。

  • 2017年に開催されたNexperia設立会見で同社が用いたスライド

    2017年に開催されたNexperia設立会見で同社が用いたスライド。自動車業界に注力していることもあり、今回のオランダ政府の措置がどのような影響を自動車産業にもたらすのかについて、OEMやティア1からも注視される状況になっている

外販フォトマスクシェアトップのテクセンドが東証に上場

一方日本では16日、テクセンドフォトマスクが東京証券取引所(東証)プライム市場への上場を果たした。

テクセンドの出自は凸版印刷の半導体フォトマスク事業。2022年に半導体フォトマスク事業会社「トッパンフォトマスク」として独立し、2024年に現在の社名に変更していた。

同社は半導体フォトマスク専業メーカーで、IDMやファウンドリが自前でフォトマスクを製作する内作を除いて、半導体メーカーなどからの依頼でフォトマスクを製造する外販フォトマスクメーカーとしてはシェア38.9%(2024年)とトップ。今後もimecやIBMといった先端プロセス開発で世界をリードする企業と協力していくことで、先端プロセスに求められるフォトマスクの供給を目指していきつつ、そうした先端プロセスに注力の度合いを高めリソースを集中させているファウンドリやIDMから、先端ではないプロセス領域のフォトマスク製造を受託することなども含め、さらなる成長を目指していくとしている。

  • 二ノ宮照雄氏

    上場後の記者会見にて事業の概況などを説明する同社代表取締役社長執行役員CEOの二ノ宮照雄氏(右)と取締役 執行役員 CFOの糸雅誠一氏(左)

外販フォトマスク分野は同社のほか、大日本印刷も強みを発揮しており、半導体部材の中でも日本が強みを発揮できる分野の1つとなっている。そうした中でテクセンドでは、世界の各国・地域の顧客の工場に近い場所にフォトマスクの製造拠点を構えることで、顧客と協力してフォトマスクの供給や課題解決を推進してきた。現在、シンガポールにもフォトマスク製造工場の建設を進めており、2026年の稼働開始が予定されている。シンガポールには、GlobalFoundries(GF)やUMCといったファウンドリのほか、NXP Semiconductors、Vanguard International Semiconductor(VIS)、STMicroelectronics、Micron Technologyなども前工程工場を有している。これら各社は近年の半導体需要の高まりを背景にシンガポールへの投資を推進しており、テクセンドの新工場建設もこうした各社の動きに合わせたものと考えられる。

Appleが第3世代3nmプロセスを採用した「M5」を発表

また15日には、Appleが第3世代3nmプロセスを採用したSoC「M5」を発表し、「14インチMacBook Pro」、「iPad Pro」、「Apple Vision Pro」の3製品に搭載したことを明らかにしている。

6つの高効率コアと最大4つの高性能コアで構成した最大10コアのCPUを搭載しており、前世代のM4比で最大15%高速なマルチスレッドパフォーマンスを提供するという。また、改良した16コアNeural Engineとメディアエンジンにより、ユニファイドメモリ帯域幅はM4比で約30%増の153GB/sに強化したとする。これは初代のM1チップと比べて2倍以上の増強となるという。

  • 「M5」の機能ブロックイメージ

    Appleの「M5」の機能ブロックイメージ (出所:Apple)

さらに、GPUについては、すべての演算ブロックをAIのために最適化したとしており、AIパフォーマンスのためのGPU演算性能(ピーク時)は、初代M1比で6倍超としている。

なお、これら3製品は現在、日本でも予約注文を受け付けており、2025年10月22日に発売される予定である。