オランダ政府は、オランダに本社を構える半導体メーカーNexperiaにおける深刻なガバナンス上の欠陥を理由に、「物品供給法(Wet beschikbaarheid goederen)」を9月末に発動したと10月12日に発表した。

同法は、冷戦時代の1952年に制定された法律で、緊急事態に備えて重要物資の供給を確保するため、民間企業への政府介入を認めるもの。戦争などを想定した法律であり、実際に適用されるのは異例といえる。同法に基づき、Nexperiaの経営権は今後1年間にわたって蘭政府が掌握し、政府の定めた独立管財人の監督下に置かれることになる。

オランダの企業裁判所は、NexperiaのCEOで、同社の親会社である中国Wingtech Technology(聞泰科技)の創業者 兼 会長でもある張学政氏のリーダーシップの下でのNexperiaの健全な経営に疑義を抱く正当な理由があると結論付け、CEOとしての職務停止を決定。これにより同氏はNexperiaのCEOを退任、同社CFOのステファン・ティルガー氏が暫定CEOに就任したほか、政府が指名した社外役員が経営陣に加わることとなった。

Nexperiaの前身はNXP Semiconductorsの標準半導体事業部門で、Freescale Semiconductor買収を機に独立した後、中国政府系投資コンソーシアムに買収され、2019年にWingtechの子会社となった。オランダの半導体サプライチェーン関係者は、同社の半導体情報が親会社経由で中国に流出したことがオランダ政府の今回の処置につながったと見ている。

米国のエンティティリスト掲載は子会社にも影響

Nexperiaは、米国産業安全保障局(BIS)が9月29日付で、エンティティリストに掲載されている事業体が50%以上の株式を保有する事業体も輸出管理規制を適用する規則を公布したことが影響している(2024年12月にWingtechがリストに掲載)ことを指摘するほか、中国商務省が、Nexperia Chinaとその関連会社に対して、中国で製造された製品などの輸出を禁止する通知を発行したとする声明を出し、これらの制限の適用除外に向けて中国当局と協議していることを明らかにしているが、中国政府は今回の件に対する報復的措置を検討しているとも伝えられている。

中国半導体工業会(CSIA)も10月14日付で、この件について深刻な懸念を表明し、事態の進展を注視し、会員の声に積極的に耳を傾け、あらゆる法的手段を通じて中国産業界の共通の懸念を国際社会と共有していくとの声明を出している。

代替先として台湾パワー半導体メーカーに脚光

台湾メディアの経済日報は10月14日付で、Nexperiaが顧客向けに、2025年10月4日以降、中国政府の輸出禁止措置により、一部製品の供給に影響が生じる恐れがあることと、今回の措置は企業の管理の範囲を超えており、契約上の不可抗力に該当すること、ならびに可能な限り出荷を継続することを通知したと伝えている。

台湾業界筋によると、Nexperiaが中国政府から輸出規制を受けたことを踏まえて多くの顧客が代替供給元の確保に動いている模様だという。同紙でもNexperiaの代替先として恩恵を受ける台湾企業として、PANJIT(強茂)、TSC(台湾半導体)、APEC(富鼎)を挙げており、中でもPANJITはNexperiaと製品の多くが重複しており、すでに複数のNexperia顧客が型番照合を進めているほか、新規注文も届くようになっているとしている。