テクセンドフォトマスクが東証プライム市場に上場
経済活動の維持や経済安全保障に不可欠な戦略物資として注目される半導体。AIニーズの増加に伴い、その重要性は増す一方である。日本も例外ではなく、半導体の供給確保に向けてさまざまな政策が打ち出される中、半導体デバイスを製造するうえで、その回路の基礎となるフォトマスクを手掛けるテクセンドフォトマスクが10月16日、東京証券取引所(東証)プライム市場への上場を果たした。
同社の社名となっている「Tekscend」は、Technologyと(上昇する)を組み合わせた造語で、Tech+scendをベースに、「ch」を鍵を意味する「key」の頭文字「k」に置き換えたもの。大元は、凸版印刷の半導体フォトマスク事業に起源を持ち、2022年に半導体フォトマスク事業会社「トッパンフォトマスク」として、独立系投資ファンドであるインテグラルを出資パートナーに迎える形で独立。2024年に現在の社名であるテクセンドフォトマスクへと変更した。
フォトマスクは、半導体の電気信号を通すための回路を半導体ウェハ上に形成するために用いられる原版で、作る半導体チップの種類や、プロセスノード、回路規模などによって必要とする枚数は異なるが、ロジック半導体などでは30~40枚を超す枚数がセットとなって(マスクセット)1つの半導体チップを製造するために用いられることもある。
同社代表取締役社長執行役員CEOの二ノ宮照雄氏は、「半導体チップのデザイン数は年々増加傾向にある。デザイン数が増えれば、必要となるフォトマスクの数も増えることとなる。また、プロセスの微細化に伴っても必要なマスクの枚数が増加、かつ単価も上昇しており、今後もフォトマスク市場は成長が続くことが期待される」と、安定して成長することが期待できる市場であることを強調する。
フォトマスク市場は、IDMメーカーやファウンドリなどが自社で製造する内作市場と、テクセンドフォトマスクなどの外部メーカーが受託製造を請け負う外販市場で構成され、テクセンドフォトマスクは外販市場で38.9%(2024年)というシェアを有しており、シェアトップに位置しているとする。また、外販フォトマスク市場全体として、内作するIDMやファウンドリであっても、すべてのフォトマスクを自前で製造するわけではなく、競争領域で他社に先行できることが付加価値を生み出す最先端プロセス領域については、自社での開発と量産に注力するが、先端以前、特に成熟領域については外注する傾向が高まってきており、2016年~2024年の年平均成長率(CAGR)が7.4%であったものが、2024年~2030年にはCAGR8.7%へと成長率が高まる見込みである。
また、研究開発や試験生産からの需要もあるとするほか、受注生産型のビジネスモデルであるため、在庫リスクはそこまで高くないビジネスであるとする。
そうした外販フォトマスク市場において同社は、IBMやimecといった先端プロセス開発が可能な企業とのパートナーシップなどを通じて、最先端プロセスに対応可能なフォトマスクの開発を推進する技術開発力を有していること、ならびに日本の朝霞、滋賀、ドイツのドレスデンとコルベイユ、中国の上海、台湾の桃園、韓国の利川、米国ラウンドロックと、顧客に近いところを中心とした全世界8拠点体制でフォトマスクの製造を行うことで、タイムリーかつ柔軟な供給を実現しつつ、多様な需要に対応することを可能にしていることを強みとする。
初値は公開価格を19%上回る3570円を記録
上場を果たした同社の初値は公開価格である3000円を19%上回る3570円で、終値は3380円となり、好スタートを切ったと言える。
同社は28nm以下の先端プロセス領域で、ファウンドリやIDMがフォトマスクの外販を活用している流れを受けて、先端プロセス領域を中心とした成長を目指すとする。また、今後の成長に向けてシンガポールに新工場の建設を進めており、2025年10月16日時点ではフォトマスク製造工程内の前工程にあたるデータ処理工程のみを実施、2026年より実際に工場を稼働させる予定としている。
なお、同社の2026年3月期第1四半期の業績について二ノ宮氏は「売上高は約300億円、営業利益は約59億円でほぼ計画通りに進行している」と説明。通期見通しについては売上高が前年度比6.2%増の1253億円としつつも、営業利益が同9.6%減の255億円と増収減益としている。ただし、この減益については、1ドル140円を前提として算出した見込みであること、ならびに中国での政府支援を受けた現地フォトマスクサプライヤとの競争が激化する影響を加味したものであるとしている。


