企業向けDXプラットフォーム「Zoho One」を展開するZoho Japanは、2026年に日本での事業展開から25周年を迎えた。企業のITインフラやデジタルマーケティング、そしてDXの推進をサポートし続けて四半世紀、Zoho Japanは自社の中核製品「Zoho One」を「ビジネスのオペレーティングシステム」と位置づけ、マーケティング、CRMをはじめ様々な機能を統合的に提供している。

AIの利活用が企業にとって欠かせないものと言われている現在、先端技術はどのように企業活動にインストールされ、そして業務効率化や生産性向上が生み出されるべきなのか。Zoho Japanが考える、業務アプリケーションにおけるAIのあるべき姿と併せて、ゾーホージャパン 代表取締役のマニカンダン・タンガラジ氏と、取締役副社長の大山一弘氏に話を聞いた。

  • 左から、ゾーホージャパン 代表取締役のマニカンダン・タンガラジ氏、取締役副社長の大山一弘氏

    左から、ゾーホージャパン 代表取締役のマニカンダン・タンガラジ氏、取締役副社長の大山一弘氏

「AIに任せれば何でもしてくれる」という幻想

Zohoが日本法人を創業したのは、2001年。当時はGoogle AdWordsがサービスを開始し、日本のデジタルマーケティングに検索結果連動型広告という大きな潮流が生まれ始めたころだ。

Zohoは北米市場の次に日本での事業展開を開始。タンガラジ氏によると、製品の完成度に厳しい目を持つ日本市場の顧客に合わせて製品・サービスの改善を推進し、また新たな製品開発や事業展開によって、グローバル展開の足がかりにしようと考えていたという。

そうした中、Zoho Japanがデジタルマーケティング製品を本格的に展開するようになったのは、2010年代に入ってから。デジタルマーケティングの世界でマーケティングオートメーションへの注目が高まったことを契機に、「Zohoキャンペーン」というマーケティングオートメーションツールをリリースした。これにより、企業の業務支援や顧客管理を中心に提供してきた製品群に、デジタルマーケティング製品が加わるようになった。

「Zohoキャンペーンをリリースしたことをきっかけに、Zoho CRMとの連携も強化し、幅広くデジタルマーケティングの進化に対応できるようにしてきた」(大山氏)

  • ゾーホージャパン 取締役副社長 大山一弘氏

    ゾーホージャパン 取締役副社長 大山一弘氏

そして、さまざまなトレンドの変遷を経て、デジタルマーケティングの世界にもAIの潮流が大きな変革をもたらそうとしている。デジタルコンテンツのトレンドも、これまでは検索エンジンに最適化させるSEOや検索結果広告に最適化させるSEMが中心だったが、大山氏は「最近はクラウドAIの大規模言語モデル(LLM)に対する最適化が必要になっている。今後、私たちが力を入れて改善していくべきポイントのひとつだ」と語る。

ただここで重要なのは、「AIに任せれば何でもしてくれる」という昨今のAIに対する期待に対して、Zoho Japanは否定的であるという点だ。

Zohoは、これまで「テクノロジーは人を中心にあるべきである」というポリシーを貫いてきた。創業25周年に合わせて発表されたタンガラジ氏のメッセージでも、「Zohoでは常に『目的あるイノベーション』を事業の中心に据え、テクノロジーのあり方そのものを問い続けてきた。私たちは、テクノロジーは人に寄り添い、組織を強くし、新たな機会を生み出すためにあるべきだと考えている」としている。

この姿勢はAIの時代になっても変わることはなく、「AIはあくまでもデータを分析して仮説を立てて提案するところまでの役割。その仮説を検証し、最終判断するのは最後まで人の役割」(大山氏)なのだ。

流行よりも実用性を優先する開発方針

Zoho Japanのこの姿勢は、同社の製品開発におけるポリシーにも表れている。タンガラジ氏によると、ZohoのR&D(技術研究開発)の現場では、常に新しいテクノロジーを研究しつつも、一方でトレンドに合わせて「速やかに製品に実装する」という方針はなく、長期的に見てその技術が既存のZoho製品に組み込まれた際に企業の様々な活動のなかで有効に機能するかをしっかりと検証してから、最も効果的な実装方法を模索する方針だという。流行に合わせて先端技術を実装してセールスポイントにするのではなく、あくまでその技術の有効性にフォーカスしているのだ。

「AIが流行しているから、Zohoもすぐに実装しようとは考えていない。その技術をしっかりと分析・研究して、その技術を実装することの目的、応えるべきニーズ、実現する生産性、クライアントにとってのメリットなど幅広い範囲で検証を行った上で、ステップバイステップで開発・実装を進めていくという考えを持っている。他社に比べたら出遅れているように見えるかもしれないが、長期的に見ればそれが確実な実装のプロセスだ」(タンガラジ氏)。

  • ゾーホージャパン 代表取締役 マニカンダン・タンガラジ氏

    ゾーホージャパン 代表取締役 マニカンダン・タンガラジ氏

Zoho Japanのこうした姿勢の裏には、Zohoが掲げている理念があると大山氏が続ける。「私たちは、新しい技術、成熟した技術を提供することを通じて、“ビジネスアプリケーションを民主化する”という理念を持っている。この理念を大切にしながら、AIも効果的に組み込んでクライアントに必要な機能を提供していく。Zohoが流行に合わせてAIエージェントをそのまま提供するということはないが、R&D部門では常にAIの可能性を研究しているし、情報セキュリティの課題を解決しながら実装する計画だ」(大山氏)

では、このような理念とポリシーでAIを研究した結果、今後「AIトランスフォーメーション」が進むことによってビジネスのプロセスはどのように高度化することが期待できるのか。

タンガラジ氏は、「AIが既存の機能のケイパビリティを進化させる方向になるのではないか」と語る。つまり、AIそのものが新しい機能として実装されるのではなく、既にある機能を改善・強化する方向性であり、AIが業務上のさまざまなコンテキストを理解した上で効果的な挙動を実現するという方向性だ。

「Zohoとしても、あくまでユーザーニーズに応えるという目的を果たすためにステップバイステップでAIを実装し、最終的には誰もが意識せずともAIにアクセスできるようになることを目指している」(タンガラジ氏)

Zoho Oneで目指す「AIが意識されない世界」

「誰もが意識せずともAIにアクセスできるようになる世界」。タンガラジ氏が語るこの考えこそ、企業向けDXプラットフォーム「Zoho One」が標榜する「ビジネスのオペレーティングシステム」という考え方であり、そこにAIが組み込まれることで実現する「AIのOS化」という考え方だ。

「Zoho One」は、Zohoが開発した業務アプリケーションの統合プラットフォームであり、このプラットフォームの下には、営業、マーケティング、サービス、財務、人事、コマース、管理など様々な機能を持った50以上のクラウド型ビジネスアプリケーションが連携している。

その特徴の一つは、これらのアプリケーションは独立して動いているのではなく、統合されたひとつの基盤の上で動いているという点だ。タンガラジ氏によると、これらのビジネスアプリケーションのほぼ全てにAIが実装されており、それぞれのアプリケーションの機能を強化するだけでなく、他のアプリケーションとの連携もAIによって最適化されているのだという。

一般的に、企業がAIを活用しようとした際には「この作業をAIに任せよう」「AIを活用してこのようなアウトプットをしてもらおう」と作業ニーズに応じてAIのアプリケーションを当てていくというアプローチが多い。しかし、Zohoが考える「AIのOS化」という発想は、現在のワークフローに対して横断的にAIを走らせることで、すでにある作業の効率を飛躍的に高めたり、業務のコンテキストに応じた他の業務、他のデータとの連携をシームレスに実現することが期待できるのだ。

「先進的なエンタープライズ企業だけAIが使いこなせる、特定の業種だけがAIを活用できるという世界ではなく、全ての企業、全てのユーザーがAIを活用できるようにすることが、私たちのビジョンと考えている。このビジョンに基づき、誰でもAIを活用できる在り方を追求し、人の業務を有効にサポートできるAIを育てていきたい」(タンガラジ氏)

「導入する企業にとっても、恐らく企業によって商習慣や社内文化が違うので、AIに何を任せられるかというニーズも異なる。そこをしっかり考えた上で、業務実態に合わせたAIを導入することをお勧めしたい。AIはあくまで人間の最終判断や作業を支援する存在であるという考え方は今後も変えることはない。なんでもAIに任せればいいという考えではなく、AIがデータ分析や仮説の検証によって選択肢を提示し、人の意思決定を支援する。そうした方向性で今後も開発を推進できれば」(大山氏)