鹿島の立体音響スピーカーを実体験できるブース
Society 5.0の実現に向けて進化を続ける日本最大級のテクノロジー総合展「CEATEC 2025」が10月14日~17日にかけて、千葉県の幕張メッセにて開催されている。
今回は開催テーマに「Innovation for All」を掲げ、810の企業・団体が出展している。その中の1社、Analog Devices(ADI)の日本法人であるアナログ・デバイセズのブースでは、同社が開発に協力した鹿島の立体音響スピーカー「OPSODIS 1」のデモを体験することが可能だ。
音楽ホールの設計ノウハウを詰め込んで生まれた小型スピーカー
OPSODIS 1は、英国サウサンプトン大学と鹿島建設が共同開発した立体音響技術「OPSODIS(オプソーディス)」を搭載した幅38.2cmの小型スピーカー。鹿島がスピーカーと言われると不思議に思う人もいるかもしれないが、同社は長年にわたって音楽ホールの設計と建設に携わってきた経験を有しており、シミュレーションを含め、観客席のどこに座っても、クリアな音が届くための技術を培ってきた。OPSODISも、施工前に実際の音で確認するための音響解析ツールとして活用されてきた経緯がある。
そうしたOPSODIS技術を活用して生み出されたOPSODIS 1は、2024年にCCCグループのクラウドファンディングサイト「GREENFUNDING」で販売を開始。約2か月ほどで9.28億円を集めたことでも話題になった。


ブースには2台のOPSODIS 1が置かれており、どちらも立体音響を体験することが可能。雰囲気を感じられるのはデスクトップを模したデモの方だが、こちらのデモ(ブラックモデル)でも十分な立体音響を体験することが可能
インタフェースには無線接続としてはBluetooth 5.0を採用。有線接続としてはUSB Type-Cおよび3.5mmアナログ、光デジタルに対応する。スピーカー構成は50mmウーファー×2、25mm径ミッドー×2、20mm径ツイーター×2、パッシブラジエーター(57mm×84mm)×2で、これらを幅38.2cmの筐体内にすべて内蔵している。デスクトップでの視聴を想定した「Narrow」、リビングなどで複数人で視聴することを想定した「Wide」、ステレオコンテンツを左右2本の仮想スピーカーで視聴する「シミュレーテッドステレオ」の3つのモードを搭載。このうち、Narrowモードが360度の立体空間での音の視聴を可能とする(Wideモードでも立体効果としての視聴は可能)。
Narrowモードでの最適な視聴距離はスピーカーから60cmで60度の位置がスイートスポットとなる(そこからズレても十分な360度立体音響を体験することができる)。コンテンツ自体はDolby Atmosなどの従来の立体音響技術で作られたものであれば、立体音響を体験することが可能。鹿島のWebサイト上にも「3D Sound Demonstration」という特設サイトが用意されているが、一部のコンテンツはDolby Atmosで制作されたものが用いられている。
ADIのDSP「SHARC」が立体音響の実現を支援
ではなぜ、アナログ・デバイセズのブースで鹿島のスピーカーがデモを行っているのか。実は、このスピーカーのデジタル処理部を同社のDSP「SHARC」が担っているためだ。同スピーカーの開発にあたっては、同社のエンジニアも協力したとのことで、説明によると高性能浮動少数点DSPによるチャンネルデバイダー、各帯域専用のアンプを搭載することにより、高精度な帯域分割を可能とし、スピーカーユニットの性能を最大限に引き出すことを可能にしたとするほか、全段デジタル信号処理のため、信号劣化が起きないともしている。
ブースでは、デスクトップ環境を模した形の体験ゾーンを用意。目の前には小型スピーカーしかないのに、前後左右からに広がる音を楽しむことができる。
ちなみにクラウドファンディングでの価格は7万4800円となっているが、すでにクラウドファンディングは終了済みで、現時点では一般販売の予定は今のところは決定していないという。ただし、鹿島の担当者としては、今回のデモ展示などの反響を含め、一般販売の実現に向けて前向きに取り組んでいきたいとしていた。
DSP+マイコンでさまざまなものづくりニーズに対応するADI
半導体メーカーであるアナログ・デバイセズのブースでは、鹿島のOPSODIS 1以外に、自社デバイスの紹介ももちろん行われている。
中でもブースの前面にはOPSODIS 1と並んでSHARCシリーズを搭載した評価用システム・オン・モジュール(SOM)のボードなどが、SHARCの紹介とともにArmマイコンも併せて紹介する形で展示されており、DSP+マイコンでさまざまなニーズに応じたシステムを実現できるソリューションを構築できることを示していた。
ちなみにこのArmマイコンシリーズはADIが買収したMaxim Integratedが有していたもので、ブースでは最上位品である「MAX32690」(Cortex-M4:動作周波数120MHz)を搭載した開発ボードの展示が行われていた。


