2025年版のクラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞が発表
英Clarivate(クラリベイト)は9月25日、近い将来ノーベル賞を受賞する可能性の高い研究者が選出される「クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞(Clarivate Laureates)」の2025年版を発表した。
同賞は、同社の学術文献引用データベース「Web of Science」のCore Collectionをもとに、論文がどの程度引用され、学術界にインパクトを与えたのかなどを考慮し、ノーベル賞クラスと目される研究者を選出するもの。これまで同賞の受賞者の中から83名が実際にノーベル賞を受賞しており、そのうち4名(山中伸弥氏、中村修二氏、大隅良典氏、本庶佑氏)が日本人受賞者となっている。
同賞はノーベル賞の科学系4賞(生理学・医学賞、物理学、化学、経済学)と同じカテゴリで構成されており、2002年以降、毎年9月に発表されてきた。
その選出方法は、2000回以上引用されている学術界に与えた影響が大きい論文(高インパクト論文)といった定量的な要素をベースに、研究への貢献度や他の賞の受賞歴、過去のノーベル賞から予想される注目領域などの定性的要素を含めて検討されるものとなっている。同社によると、引用回数2000回以上という数値は、1970年以降に発表された約6400万件以上の論文の8700件程度(0.0176%)だという。
同賞は毎年最大36名(各分野3トピック×3名×4分野)が選出されるが、2025年は22名が選出され、その研究者の主要所属学術機関の国別内訳は米国が10名、フランスが3名、ドイツ、日本、スイスが各2名、カナダ、オランダ、中国が各1名となっており、中国から初めての受賞者が出たという。
生理学・医学部門で日本人2名が受賞
選出された2名の日本人は生理学・医学部門での受賞となり、「食欲、エネルギー、代謝を調節するホルモンであるグレリンの発見」として元 国立循環器病研究センター 理事・研究所長の寒川賢治氏と久留米大学の児島将康 名誉教授・客員教授が表彰された。
寒川氏は1976年より約45年にわたって未知のペプチドホルモン(生理活性ペプチド)の探索研究を行ってきたという。細胞間の情報伝達に関わる研究で、生体内にあるペプチドを発見し、その機能探索を進め、その後、臨床応用することを目的としたものみで、発見できると生理機序の解明などにつながるため、インパクトは大きいものの、必ず発見できるという保証はなく、発見できるまでの成果はゼロという非常にリスクの大きい研究だとする。
そうした中、同氏は1978年にオピオイド(モルヒネ様)ペプチドである「α-Neo-Endorphin」を発見。構造決定に3年を要したが、その間、抽出時の100℃の熱処理による組織内プロテアーゼ類の不活性化、HPLCによる微量ペプチド分離法およびpmolレベルでの構造解析法の確立、in vitroにおける簡便な摘出平滑筋の収縮・弛緩反応、細胞内セカンドメッセンジャーの測定などといった独自の微量ペプチドホルモン探索法を開発。こうした手法を活用することで、その後、30種以上の新規ペプチドホルモンを発見してきた。
寒川氏は、そうして見つけてきたペプチドホルモンの中でも1984年に発見したナトリウム利尿ペプチド類(心房性ナトリウム利尿ペプチド:ANP)ならびに1999年に発見したグレリン(Ghrelin)は特に思い出深いものであるとする。特にANPは心臓がホルモンを分泌する内分泌器官であることを示した成果となったことに加え、現在では心不全の治療薬として臨床で使用されるなど、同系統のBNPやCNPを含めて診断薬や治療薬として活用が進められている状況にある。
一方のグレリンはオーファン受容体GHS-Rの内因性リガンドとして、ラットの胃より単離された新規ペプチドで、脂肪酸で修飾されて始めて活性されるという特徴がある。同氏は、1999年に児島氏ならびに細田洋司氏(現・国立循環器病研究センター 客員研究員)を中心とした研究グループとして、発見・構造決定に成功したことを報告していた。
児島氏は、「食欲はどこからくるのか、という問いに対し、当時は脳が管理していると考えられていたが、グレリンの発見により、エネルギー不足になったときに胃からグレリンが放出されて血液を循環し、食欲を刺激するなど、さまざまなホルモンによってコントロールされることが分かってきた。その特徴は、脂肪酸(オクタン酸)の修飾が活性に必要で、食欲を刺激するだけでなく成長ホルモンの分泌を刺激する作用も持っていることが示された」と、その後の研究を含めてわかったグレリンの役割を説明する。
キー論文は幅広い分野で引用
なお、クラリベイトによると、今回のグレリンの発見に関する論文と、それに関連する4つの論文を合わせたキー論文の被引用数は1999年に最初の論文が発表されて以降、現在までに延べ1万2700回以上とするほか、引用した国・機関数も2010年までで69か国、1446機関であったのが2025年までに99か国、2862機関まで拡大。クラリベイトが定義する食欲ホルモン分野に限っても、最初の論文が発表されて以降に発表された当該分野の論文の約1/6がキー論文のどれかを引用する状態と、非常に高いインパクトを与えた研究としている。
また、食欲ホルモン分野以外にも、周辺の食欲に関する分野でも幅広く引用されている状況で、現在、その引用範囲は、糖尿病や内分泌、栄養、非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんにおける「がん悪液質」に対する治療薬であるアナモレリン(グレリン様作用薬)をはじめとする薬剤分野にまで至っているという。







