AIサーバーや高性能コンピューターの需要拡大とともにガラス基板の開発が進んでいる。大型化するGPUやチップレットの実装に必須とされるガラス基板だが、実用化には導通をとるための貫通微細孔(TGV)の形成と、異種材料をしっかりと密着する接続技術の開発がカギを握る。

  • オプトピアは、提携するWOPの精密加工技術を訴求。神奈川・横浜市で開催されたフォトニクス展示会「OPIE'25」にて筆者撮影

いずれの課題にも、精密加工とニッチな先端材料という日本の得意分野が生かせるだけに、関連企業は「米ロジック大手が熱心。もうゴールは見えているし、どんどん話が決まっている」と鼻息が荒い。

再び高まる、ガラス基板の実用化機運

インテルの前CEOであるパット・ゲルシンガー氏がまだ最高技術責任者(CTO)だったころから提唱していたのが「ガラス基板」だ。チップサイズの大型化によって、口径300mmシリコンウエハー1枚で数個という収率になってしまっては生産性が上がらないとあって、再びガラス基板の実用化機運が高まっている。

こうした動きにいち早く反応したのが台湾勢だ。「SEMICON Taiwan 2023」では早くも、群創光電(イノラックス)のフラットパネルディスプレイ(FPD)向けガラス基板を使って試作した、ロジックチップ実装のガラス基板のデモを行っていた。

しかしいま求められるのは業界標準の510×515mm角やその先の600mm角ガラス基板に再配線(RDL)層を積層した3次元高密度構造である。チップと同じく基板にも配線幅/配線間隔の微細化が求められており、この実現のためにビアやスルーホールという導通孔の微細形成が必須。導通孔形成は長らくCO2レーザーだったが、「微細クラックが発生したりするので使うのにハードルが高かった」(韓国のメモリー大手)。

ガラス基板製造のトレンドは「ハイブリッド加工」

そこで存在感を高めているのがレーザーとエッチング処理を組み合わせたハイブリッド法。合成石英やホウケイ酸ガラスにフェムト秒レーザーを照射して改質後、エッチングすることによってTGVを形成するものだ。

この手法を採るガラス加工のオプトピア(川崎市)は、半導体用途に限らず多様な加工を行っている。レーザー照射で改質した部分はほかとくらべてエッチング速度が1,000倍も早くなることから、処理時間を大幅に短縮できる。

協業するリトアニアのフェムト秒レーザー加工会社、WOPがもつ特殊な光学系をつかうことで、テーパー(形状の先細り)のないストレート形状のスルーホールを実現できるのも特徴だ。板厚30μm(マイクロメートル)〜10mm、孔径は20μm以上(最大アスペクト比1:100)が可能で、加工面の平坦度は1μm以下と精度も高い。

半導体関連ユーザーからは四角形や六角形基板への加工ニーズもある。今後600mm角ガラス基板への対応も進めることにしている。

レーザーによるガラスの精密加工は、金属加工技術を振興してきた天田財団も注目。同財団が4月に横浜市で開催した助成研究成果発表会では、レーザー処理技術の半導体分野への応用がテーマのひとつになった。

奈良先端科学技術大学院大学のヤリクン・ヤシャイラ物質創成科学領域准教授は、電子デバイス向けに用途が拡大している極薄ガラス板を微細クラックの発生を抑えて加工することに成功した。大型ダイを効率よく実装するためにガラスインターポーザーが必要とされるが、課題は各層をつなぐ導通孔の加工法だ。超音波ドリルなどの方法があるが、「極薄板ガラスをナノメートルレベルで自由に加工できるのはフェムト秒レーザーに限られる」とする。

ガラス基板ベンダーもレーザーとエッチングをつかう加工法の台頭に応えた製品を開発している。日本電気硝子は5月、同加工法と従来のCO2レーザーに対応した大型TGVガラスコア基板を各々開発したと発表。レーザー・エッチング加工対応品は515×510mm基板のサンプル出荷ができる体制を整えている。

ガラス基板への配線手法・貼り合わせ方法

一方、東京大学は5月、企業とともに深紫外線(DUV)レーザーをつかってガラス基板と絶縁層それぞれに微細孔を形成する2つの技術を相次いで発表している。ガラス基板についてはAGCの熱膨張係数がシリコンと近く反りが抑えられるアルカリフリーガラス(EN-A1)を使い、直径10μm以下の微細穴を25μm間隔で加工することができた。レーザー加工のみで従来のエッチング法よりも高い20程度のアスペクト比を可能にしたことは、高性能サーバーやチップレットの基板をガラス基板へと移行するときに役立つとしている。

またガラス基板上に積層する配線材料である層間絶縁膜に従来の直径40μmの1%以下である直径3μmの微細孔を設ける加工技術も開発している。これは東大と味の素ファインテクノ、三菱電機、スペクトロニクスの共同開発によるものだ。ガラス基板上に銅配線を行い、その上に味の素の層間絶縁材である「ABF」を3μm厚で積層し、DUVレーザーで直径3μmの微細孔を5μm間隔で設けた。スペクトロニクスは波長266ナノメートルのDUV高出力レーザーを、三菱電機はレーザー加工機の改良を、東京大学はガラス基板上に微細な銅配線を構築した。

このような微細孔加工と同じく重要なのが、物性が違う異種材料の高密着・強接合技術。基板材料がシリコンからガラスに替わり、配線層が増えていくと、信頼性が確保が難しくなる。天田財団の成果発表会で、岡山大学学術研究院自然科学領域の岡本康寛准教授は、ガラスインターポーザーに関し、ピコ秒レーザーによる単結晶シリコンとガラス基板の直接接合法を講演した。

シリコンとガラスの接合するには陽極接合が一般的だが、高温下で高電圧をかけることからデバイスへの悪影響リスクがある。そこで開発したのがピコ秒レーザーをつかう直接接合法であり、ガラス同士の接合にも利用できるとしている。

また奥野製薬工業はガラス基板上に酸化亜鉛をつかった中間層を設けることで無電解銅めっきの密着性を高めている。高密着性の肝になるのは酸化亜鉛の分布密度であり、剥がれにくい独自構造にしている。同社は高密度実装に必要となる高アスペクトの微細なスルーホールに硫酸銅めっきを行うための添加剤も開発しており、ボイドを抑えつつ作業時間を短縮することが可能としている。