パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)の執行役員でグループCTOを務める小川立夫氏は5月20日、自身が統括する技術部門を中心とした2024年度の振り返りや今後の方針について、合同取材に応じ、2024年7月に発表された「技術未来ビジョン」の現在地や、大規模施策が明らかとなったばかりの「グループ経営改革」に向けた技術部門の方針などを語った。
「技術未来ビジョン」のもと環境技術・AIの開発に注力
2021年よりCTOとして小川氏が舵を取るパナソニックHDの技術部門は、2040年にありたい姿とその実現に向けた研究開発の方向性を示したものとして、「技術未来ビジョン」を策定した。同ビジョンでは、2040年に実現したい未来を“ひとりひとりの選択が自然に思いやりへとつながる社会”とし、次の世代への継承やパートナーの共創に取り組む上での羅針盤になるよう、目指す方向を提示。「資源価値最大化」「有意義な時間創出」「自分らしさと人との寛容な関係性」という3つの要素を軸に据え、エネルギー・資源、生きがい、思いやりがそれぞれ“めぐる”未来に向けて、技術開発を加速させていた。
この発表に対しては、主に2つの反響が寄せられたとのこと。ポジティブな捉え方として、ビジョンへの共感や目指す未来への賛同が多く得られた一方で、メッセージの抽象度が高く“どうやって・いつ”実現するのかが見えにくい、という意見も集まったという。小川CTOは、「現状は、我々が持つ研究開発リソースを技術未来ビジョンの実現に貢献する領域にできる限り寄せていき、ビジョン実現のために取り組むビジネスの解像度を上げている段階」とし、「他社からも未来の技術に向けた議論の場に誘われる機会が非常に増えた」と、ビジョン発表で一定の成果が得られたとした。
この技術未来ビジョンに基づき、パナソニックグループではさまざまな技術開発が進行しており、2024年度には、建材一体型ペロブスカイト太陽電池の実用サイズ(1.0m×1.8m)におけるパイロットラインの立ち上げ・施策が開始するなど、サステナビリティ領域での成果が特に大きかったとする。またAIの開発にも注力しており、ウェルビーイングに貢献するAI活用ソリューションや、日本語に特化した大規模言語モデル(LLM)などAIモデルの技術開発を継続。2025年度には、トレーサビリティ技術のような循環型社会に貢献するソリューション、そして“くらし”を支える技術基盤となるAIの開発に注力していくという。
研究開発部門もリソース最適化へ - 技術選択の優先順位は
ただ、パナソニックHDの未来を推し量るうえで無視できないのが、同社グループCEOを務める楠見雄規代表取締役社長が先般発表した「グループ経営計画」の断行。大幅な人員整理や赤字事業の見直しなどの施策が打ち出されており、これまでの経営方針からも大きく変化が生じることが予想される。
小川CTOによれば、「予算の面では、R&D部門といえども“聖域”だとは捉えておらず、パナソニックグループ全体の動きと近しい割合で基礎研究費などの予算を縮小することになる」とのこと。リーンな体制を構築するため、優先度の低い技術テーマに対しては大胆な見直しを行う一方、必ず取り組むべき重要テーマにはリソースを集中していくとする。また、「技術未来ビジョンの中で掲げた主要プロジェクトの一部については、逆に研究を強化する可能性も含めて検討していく」といい、1月開催の「CES 2025」で楠見CEOが明らかにした企業成長イニシアティブ「Panasonic Go」と方向性が合致するウェルビーイング領域の技術、あるいは同社の長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」で掲げる目標の達成に有効なサステナビリティ関連技術については「最優先事項として取り組んでいく」としている。
研究開発部門に対しても一定のリソース見直しが求められるパナソニックグループだが、小川CTOは「技術未来ビジョンで示した“未来の姿”は変わらない」とし、そこに到るまでの道のりは変える必要があるものの、目的地は変えぬまま新たな開発に取り組むとのこと。「私自身のモットーは“笑う門には福来る”。今の困難な状況も楽しみつつ、“やるべきことをやる”という方針に基づいた集団として、研究開発部門をより強化していきたい」と語った。