パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)の楠見雄規代表取締役社長CEOは、5月9日に開催された2024年度年間決算および同社グループ経営改革に関する説明会の内容について合同取材に応じ、“グローバル1万人規模の人員適正化”など数々の施策や今後の方針について、改めて説明した。

  • パナソニックHDの楠見雄規代表取締役社長CEO

    合同取材に応じたパナソニックHDの楠見雄規代表取締役社長CEO

「10年遅れ」と振り返るパナソニックの経営スタイル

パナソニックHDが9日に開催した説明会では、2024年度の決算について、同年度に非連結化を実行したパナソニック オートモーティブシステムズ(PAS)の影響を除くと、前年度から増収増益となったことが報告された。だが一方で、2024年度を最終年度とする中期経営戦略で目標未達となったことを背景に、持続可能な企業構造への抜本的な転換を目指して2月に発表された「グループ経営改革」に関する進捗説明会では、2026年度に1500億円、2028年度に3000億円の収益改善効果を達成するため、新たな施策を実行することを発表。赤字事業の撲滅に加え、国内・海外それぞれ5000人、グローバルで1万人規模の人員削減などを実施して人員を適正化するなど、今後20~30年の持続的な成長を果たすための改革を断行することを明らかにしていた(2024年度決算報告およびグループ経営改革に関する進捗の説明会に関する記事はこちらから)。

  • 収益改善効果目標に対する取り組みの概要

    2026年度の収益改善効果目標に対する取り組みの概要(出所:パナソニックHD)

合同取材に応じた楠見氏は、大規模な人員削減という方策を取らざるを得ないことについて「悔しい」とコメント。そのような状況に至った要因として「これまでの経営スタイルそのものがモダナイズしきれていなかった」と分析し、旧態依然とした業務オペレーションの変革が「ほかの企業に比べて“10年遅れ”だった」と語る。また、2022年4月に事業会社制へと移行した中で、各社が事業運営のために増員を図っていたことも一因と推測し、「本来ならば人員の集約など最適化に向け常に厳しく管理すべきであるものの、我々は他の企業に比べると比較的人手に頼った運営のままになっていた」と振り返った。

こうした背景から人員削減を迫られたパナソニックHD。今回発表された“1万人”という規模については、「それぞれの事業会社や事業領域について収益性や成長率の検討を重ね、算出された数字を合算した結果、国内5000人・海外5000人の削減という結論に至った」としており、社内に向けては今後も丁寧な説明を続けていくとした。ただし楠見氏は、リソースの最適化に向けた取り組みは一時的なものではなく、今後も継続的にモニタリングすることで最適な体制構築を“常態化”させ、持続可能な企業構造を実現していくとする。

2025年度は“痛みを伴う改革”に集中

今般の発表において、グループ経営改革に関する複数の施策が発表された一方で、投資計画や注力領域など新たな取り組みについての言及は極めて少なかった。その理由について楠見氏は、「大きな痛みを伴う改革を行うタイミングで、同時に“新しいこと”についても盛り込んでしまうと、最重要のやるべきことが見えにくくなってしまう」と説明し、これまで取り組んできた開発を徹底していく方針は継続しつつも、「まずは事業の適正化に集中し、その後で新たなことに注力していくべき」と現状を整理した。

  • 取材に応じる楠見氏

    楠見氏は「まずは事業の適正化に集中」と語る

なお、経営改革に向けた“痛みを伴う取り組み”については、基本的に2025年度内をめどに進めていくといい、特に国内の人員削減は同年度内に完了させる予定とのこと。またこの年度においては、楠見氏自身の報酬のうち約40%を返上すると発表されており、今回の取材でパナソニックHDの執行役員も報酬の一部を自主返上する決断に至ったことが明らかにされた。

「今回のような人員適正化は、何年もかけて実行することもできなくはない。ただその速度で進めれば、当然ながら収益性の改善も遅れ、利益の増大や再投資のスピードも大きく遅れることになる」とする楠見氏。「改革を達成するため、スピード感を持って成長に向けた手も打っていく必要があることを考慮すると人員適正化以外の手段を見出すことができなかった」と、無念さをのぞかせた。

赤字事業の撲滅など、事業面での現状の見直しも必要とされるグループ経営改革において、楠見氏は「厳しい言い方かもしれないが、今こそが事業の選択と集中を行うべき機会だと思う」と話す。しかし現状では、「社内全体での危機感醸成はまだまだこれから」だといい、経営層の認識が一般社員にまで共有できているとは言えないとのこと。そのため今後は改めてパナソニックグループの置かれる状況を周知しつつ、今進めるべき改革についての説明を進め、ひとりひとりが主体性を持った環境へと変えていく必要があるとしている。