KDDIは4月10日、松田浩路氏の社長就任会見を開催した。松田氏は4月1日付で取締役執行役員常務CDO(Chief Digital Officer)から代表取締役社長 CEO に就任。前社長の髙橋誠氏は同日付で代表取締役会長に就任した。

  • KDDI 代表取締役社長 CEO 松田浩路氏

    KDDI 代表取締役社長 CEO 松田浩路氏

会見の冒頭、KDDIが連携を強める各国のIT企業の経営者らが、次のようにビデオメッセージを送っていた。

Netflix Greg Peters氏「松田さんの卓越した能力が存分に発揮されることを確信しています。また、これまで築いてきた私たちのパートナーシップに心から感謝し、誇りに思っております。今後も共に素晴らしい成果を生み出せることを楽しみにしております」

  • Netflix Co-CEO Greg Perters氏

    Netflix Co-CEO Greg Perters氏

Qualcomm Cristiano R.Amon氏「私はKDDIのCDMAの初期のころから20年以上にわたり、松田さんと一緒に仕事をしてきました。彼の大ファンです。QualcommとKDDIは25年にわたる豊かなイノベーションとコラボレーションの歴史を有しています。今日では複数のAIプロジェクトを共同で先導しており、オンデバイスAI、ネットワークエッジでのAI、クラウド上のAIを連携させる取り組みを行っています。さらに、私たちはQualcommの持つ産業用IoTソリューションを活用して、ローソン店舗をデータドリブンで深く分析し効率化するための検討を共同で進めていきます。松田さんのKDDIに対するビジョンには大いに期待しており、今後も共に新たな機会を創出していけることを楽しみにしています」

  • Qualcomm Incorporated President&CEO Cristiano R.Amon氏

    Qualcomm Incorporated President&CEO Cristiano R.Amon氏

Foxconn Young Liu氏「私たちは複数の重要なプロジェクトを共同で推進しており、数多くの大きな価値を生み出す可能性があります。AIにおける両社の進展をとても楽しみにしています。堺の変革はAIデータセンターの新たな基準となりつつあります。変革は進歩を意味します。Foxconnと同じ志を持つ日本の素晴らしい企業が、AIが加速する未来に向かって進んでいるのを目にしています。この旅を皆様と共有できることを嬉しく思います」

  • Hon Hai Technology Group(Foxconn)Chairman&CEO Young Liu氏

    Hon Hai Technology Group(Foxconn)Chairman&CEO Young Liu氏

松田新社長は「AI推し」

新社長の松田氏は1971年山口県出身。1996年3月に京都大学大学院 工学研究科修士課程を修了し、4月に前身の国際電信電話に入社した。その後、エンジニアとしてキャリアをスタート。以降も高速モバイルインターネットの技術開発や商品開発のキャリアを積んだ。2024年4月からは取締役執行役員常務 CDO、先端技術統括本部長 兼 先端技術企画本部長を務めた。

就任会見で松田氏が強くアピールしたのは「AI」だ。同社は調査会社Opensignalが発表した日本市場の「モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート」において全18部門中13部門で1位を獲得しているが、「KDDIの確かな通信品質はあくまでも土台」(松田氏)だとして、その通信の上にAIの価値を乗せて提供する。

  • AIの価値提供を強く打ち出した

    AIの価値提供を強く打ち出した

2030年を目標とする同社のKDDI VISION 2030では、「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる」と掲げられている。

松田氏はこのビジョンについて、「『つなぐチカラ』とは、単に通信を意味するのではない。命を、暮らしを、心をつなぎ、そこに価値を生み出していくこと。この目標を実現するためにつなぐチカラの進化が不可欠」と説明。

また、同氏はAIについて「AIとデジタルデータで新しい価値を生み出すもの」と、同社なりの解釈を述べ、具体的な2つの取り組みを紹介した。

まず1つ目は「AIマーケット構想」。各社のAIサービスをマーケット上に集め、KDDIが保有するデータを活用しながらユーザーに最適なAIを提案する構想だ。これによりAIを身近に感じ、使いやすい存在にしていくという。その一例として、AIがコーディネートを提案する「XZ(クローゼット)」や、AIがジャーナリング(頭に浮かんだことを書き出して思考や感情を整理する手法)をサポートする「muute」、AI検索「Felo」などが挙げられた。

  • AIマーケット構想の概要図

    AIマーケット構想の概要図

もう1つは、シャープ堺工場跡地に建設中の「大規模AIデータセンター」だ。これにより、同社はAIサービス提供の基盤も強化する。同施設は2025年度中に本格稼働を開始する見通し。KDDIは同日、AIデータセンターにGoogleのAIアシスタント「Gemini」を組み込んで提供する合意をGoogle Cloudと締結したことを発表した。

  • Google Cloudとの連携を発表

    Google Cloudとの連携を発表

「通信はAIでますます進化する。そしてAIも通信の『つなぐチカラ』によって社会に役立つものに進化していく。あらゆるシーンでお客様一人一人とその最適解とをつないでいくことこそ、KDDIのAIが目指すところ」(松田氏)

夢中に挑戦できる会社作りのための3つの挑戦

松田氏は、目指すKDDIの姿について「夢中に挑戦できる会社」を掲げた。社長就任発表時にも話していたように、同氏の好きな言葉に「準備万端」「先手必勝」がある。常に先手必勝を実現するために先んじて動き、準備万端な状態でいることを指しているという。この目指す姿は、「準備万端」「先手必勝」に加えて夢中になれることこそが次の挑戦につながり、進化を生み出すとの同氏の考えに基づく。

  • 「夢中に挑戦できる会社」を掲げた

    「夢中に挑戦できる会社」を掲げた

松田氏は「夢中に挑戦できる会社を作るために、社内制度を整えるとともに、未来の人材育成にも取り組んでいく」とし、以下の3つの挑戦について説明した。

未来をつくる仲間とつながる

同社が掲げるブランドスローガンは、「Tomorrow, Together」。自前主義にこだわらず共創を通じた価値提供により、より大きな目標をより早く実現するという意味が込められている。

その一例が、本社移転先のTAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)を舞台とした共創だ。未来のコンビニや分散型スマートシティ、ロボット活用など、業界を超えた共創を進める。新本社には約1万3000人の社員が移転予定であり、まずは社員のデータを活用して実証実験を行う予定。

  • 高輪ゲートウェイシティにおける共創の例

    高輪ゲートウェイシティにおける共創の例

「国内外の企業やスタートアップとのパートナーシップの実績は豊富だが、スケーリングできていないケースが多いことも認めなければいけない。今後はパートナー企業と一緒に作り出した価値をスケーリングできる仕組みを作っていく」(松田氏)

つなぐチカラを世界に広める

「グローバル展開していないわけではないが、まだまだ世界で戦えているとは言えない」(松田氏)ため、社会課題の先進国である日本から世界へとソリューションを展開するという。その例が、ドローンを活用した災害支援や、警察活動の高度化である。

松田氏は「日本の成功事例を世界に広げていくビジネスに、もっと挑戦したい。もちろんその場合も自前だけで実現することは考えていない。さまざまな仲間と共に挑戦していきたい」と語っていた。

KDDIは同日、複数の海外ベンチャーファンドへの出資と「KDDI Open Innovation Fund V」の設立についても発表。300億円規模の投資を検討し、日本初スタートアップのエコシステム活性化と事業成長に貢献する構えだ。

  • スタートアップエコシステムの活性化に向けて300億円規模の投資を発表した

    スタートアップエコシステムの活性化に向けて300億円規模の投資を発表した

お客様の今とこれからにつながる

同社は生活を支える会社から、人生に寄り添い支える会社への変化を目指すという。ドローンを活用したラストワンマイル配送をはじめ、生活のある瞬間に役立つサービスを追求しながらも、より長く生活を支えるサービスの展開も視野に入れる。

「既存のコンビニエンスストアやauショップの機能だけではなく、地域の見守りや防災の拠点、移動を支える拠点、配送拠点など、つなぐチカラによって新しい地域貢献の場になれば」(松田氏)

  • 新しい地域活性のイメージ

    新しい地域活性のイメージ